2話 花村 日向
七不思議
・町に伝わる七つの奇妙な事象、存在。七不思議の内容は共通しているが人によって『最近流行りだした』というものや『昔から言い伝えられている』などその出生は明らかになっていない。
この七不思議を全て体験した場合どうなるかについてもバラバラであり、『この世全ての苦痛を受けながら死亡する』や『死んだ人間を生き返らせる』など諸説ある。
あっという間に始業式は終わり、時は流れて5月。
平穏無事に始業式が終わり、花の新入生達はやれ部活動や、やれ友達作りだなどと大賑わいをし、クラスではスマホを片手に友達登録に勤しむ学生達が跋扈していた。
5月になると浮き足立っていた新入生も段々と落ち着きを取り戻していき、仲良しのグループが形成され、多くの生徒はそうしたグループで平和な日常を送っていた。
俺はというと仲良しグループなどに入ることも無く、順調にクラスの輪から弾き出されていた。最初のうちは気を遣ったり、仲良くなろうとする人が何人かいたが、俺の返す返事はだいたい「はい」、「いいえ」、「興味無い」なので話しかけてきた人の表情は段々と引き攣っていった。そのうち俺のクラスでの立ち位置は「なんだかよく分からないけど触れてはいけない人」に落ち着いた。
俺がこんな対応をしているのには理由がある。勿論俺とて善意で近付いて来てくれたクラスメイトに不快な思いをさせるのは申し訳ない。しかし俺がこの学校、もといこの町に来た理由を考慮すると後々後悔のないようにするこの行動がベスト。な気がする。
まぁ元々そんなに人付き合いが上手い方では無いのだけれど。
もちろん部活は帰宅部だ。これは放課後に時間が必要だからである。
さて、華やかな高校生活を良いスタートダッシュをとるどころか、一緒に過ごしていく仲間に中指を立てながら逆走していっている最中にある俺は、今日も今日とて図書室に篭っていた。
俺がこの町に来た理由、それは毎日見るあの夢について調べるためである。
俺があの夢を見るようになったのは、俺が小学生の時に親戚の家があるこの町に来てからだった。
その親戚は交通事故で亡くなったそうで、当時の家は取り壊され、現在老人達の集いの場である運動場になってしまっている。
親戚は怪しい宗教にハマってしまっていたらしく、親族との関係は最悪であったため詳しい話を聞くことができなかった。特に進路にこだわりが無かった俺はこの町の高校であるこの〈北川高校〉にやって来た。この高校はこの町で1番古い高校であるため、調べ物にもってこいだと思ったわけである。あと家から近いし。
来る日も来る日もこの図書室で調べ物をしているが出てくるものと言えば〈七不思議〉くらいのものだが、七不思議の中に俺の夢に当てはまりそうなものは無かった。
調査が難航して早1ヶ月、どうしたものかと言ったところである。
「七不思議ねぇ…」
この町に伝わる七不思議、
〈峠道の首切り鬼〉
〈百足塚〉
〈赤いてるてる坊主〉
〈黄泉坂の車輪〉
〈人魚の骨〉
〈開かずの病室〉
〈東山小の丸鏡〉
この町にだけ伝わると言われる七不思議。この町に住んでいたら誰もが一度は聞いた事があると言う。最初は興味が無かったが、調べ物をしている内に段々興味が湧いてきた。本来の目的を忘れてはいけないものの、息抜きがてら見てみるのもいいかもしれない。
七不思議に関係する本を1冊手に取ると貸し出し表に名前を書いて、俺は図書室を後にした。
図書室の本棚の後ろから俺を見つめる、人影に気付きもしないまま。
~~~
「ねぇ君!七不思議に興味があるのかな!?」
授業が終わり、帰るために下駄箱のある正面玄関に着いた俺の後ろから明るい声が響く。振り向くと茶色の短い髪から覗くキラキラと輝く瞳がこちらを見つめていた。
その瞬間俺は本能で理解した。この女子、厄介事の匂いがする。それに加えて周りの生徒が明らかに関わらないようにそそくさと俺の横を通り過ぎたり、足早にその場を立ち去っている。
目の前の女子はそれなりにかわいい見た目をしているのに年頃の男子達がこの反応。明らかに事故物件である。
「興味ないです。では俺は用事があるのでさようなら。明日の食堂の日替わり定食はエビフライらしいですよ。」
「え、ほんと?わぁーいエビフライ大好き…じゃなくて!ちょっと!足早に立ち去らないで!」
残念!しかし回り込まれてしまった!
外履きを出そうと開いた下駄箱の扉は勢いよく目の前の女子に閉じられてしまった。
「まぁそうあわてないでよ。悪いようにはしないからさ。」
「おばあちゃんが言っていた。悪いようにはしないと言うやつは悪いようにしかしないって。」
「おばあちゃんの言葉を大事にしてるのは素晴らしいことだけど、年上の話はちゃんと聞くものだよ?」
「あぁ、年上だったんですね。小さいのでてっきり同い年かと。」
「なっ!?失礼な!こう見えても3年生なんですけど!」
「失礼しました。では僕はこのへんで。」
「だから帰ろうとしないでよ!!!ほら!私年上!もっと敬って!?あ!先輩命令!先輩の命令は絶対なんだよ!話を聞いて!」
退路は絶たれ、下駄箱の扉を塞がれた。どうやら話を聞くしかないようだ。
恐ろしい。見えてる地雷を踏みに行くというのはそれなりの勇気が必要なのだ。
「で、あなたは誰ですか?」
「よく聞いてくれました!私は〈花村 日向〉!オカルト部もとい、怪異の調査研究を目的とした崇高な軍団〈怪決団〉の団長で
「あ、宗教の勧誘ですか?自分無宗教なんで、それじゃ。」
「待ってってば!!!ぐぅー…!このッ!」
無理やり突破して帰ろうとした瞬間、目の前の花村先輩は俺の手を取ると、自身の胸に押し付けた。
「は?」
「ふ、ふふふ…はい、これで君は女子の先輩の…む、胸を揉んだ犯罪者だね…」
パシャリとシャッター音がする。この女!?まさか写真撮りやがったのか!?
ニヤニヤとした表情の花村先輩はスマホ揺らしながら上機嫌に話し出す。
「ふっふっふ…さぁ、次に君が言うべき言葉は分かるかね?言ってごらん。」
「くそったれ冤罪こけし女。死ぬまで呪ってやる。色が合わない化粧品を間違えて通販で購入して残念な気持ちになってしまえ。」
「周囲のスマホにこの写真を無差別送信しちゃおーっと。」
「話とは何でしょうかお美しい花村軍曹。是非ともお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
社会的地位を掌握された男なんてこんなものである。あまりにも無力。まだゾウリムシのほうが権力がある。
「正直になってくれて私も嬉しいよ!じゃあ話があるからついてきて。用件が済んだらこの写真も消してあげる。」
「イエッサー。軍曹。カルガモの親子のようについて行かせてください。」
こうして、俺の短い平和な高校生活は幕を閉じたのだった。
~~~
「まぁ帰りながらでいいからお話しようよ。まずね、私達怪決団はこの町にある七不思議を解明するために作られたクラブなの。学校には認められてないんだけどね。部長は私で他にメンバーが2人いるよ。」
「へぇーそうなんですか。で、そんな素晴らしいクラブの部長?団長?さんがこの僕になんのご用件ですかね。」
夕暮れ時の道を2人で歩く。少し前には同じ学校の制服を着た生徒がお喋りに花を咲かせながら和気あいあいと歩いている。
一方こちらはというとニコニコ顔の冤罪こけし女と不機嫌な顔をした根暗というなんとも不思議な組み合わせである。
怪決団。その名前は聞いたことがある。聞いたことがある、と言っても休み時間に聞こえてきたクラスメイトの話が情報源であるが。
曰く、〈怪しい勧誘の様だった〉や〈部長は美人だが目の焦点があっていない〉や〈胡散臭さの芳香剤かと思った〉などあまり良い印象では無かった。
「うん、用件って言うのはね。私達怪決団に入って欲しいってことなんだけど。」
「お断りします。僕は勉強に忙しいので。」
「またまたぁ!私聞いたよ。君、部活にも所属せず遅くまで図書室に引き篭って本ばかり読んでる変わり者だって。」
「それ誰から聞いたんですか?」
「君のクラスメイト。」
「ははは、薄情な奴らめ。お陰でこんな胡散臭い先輩に捕まったじゃないか~。」
「あはは。そんなに褒めなくてもいいよ!嬉しすぎてあの写真を誰かに見せたくなっちゃうな。」
「ごめんなさい。」
完全に弱みを握られている。どこの誰かは知らないがこの女に俺の情報を与えてくれやがった奴は末代まで呪ってやる。枕元に立って呪いの言葉で毎日寝かしつけてやる。
「君さ。図書室で七不思議を調べてたよね。興味あるんでしょ?全然悪い話じゃないと思うよ。」
「僕は僕のペースでやりたいんですよ。それに調べてたのは七不思議じゃないですし。七不思議の本を持っていたのは息抜きみたいなもんですよ。」
「へぇー。七不思議じゃないなら何を調べてたの?」
「それはまぁ色々。」
あの夢の事を話すとなるとこの女はまた食いついてきそうだ。ここは穏便に済ませるために黙っておこう。
「ふーん、そうなんだ。まぁそれはそれとして。君、今日の夜暇かな?」
「暇じゃないですね。趣味の漫画を読むという大事な時間があるので。」
「じゃあ旧東山小学校に夜の1時30分に集合ね。」
「あれ?話聞いてました?忙しいんですけど僕。」
なんか既に予定を組まれている。というか旧東山小学校?ということは、
「旧東山小学校って廃校になったっていう学校ですよね。」
「そう。そして七不思議の1つ〈東山小の丸鏡〉がある場所。そこに来て私のお手伝いをしてくれたらこの写真のことは考えてあげる。」
「…」
旧東山小学校。ここから少し歩いたところにある廃校。たしか生徒の事故死や老朽化が原因で廃校になった小学校だ。
七不思議の中で唯一、明確な場所が記されている七不思議だ。
そこの手伝いということは大方その丸鏡を探すのを手伝えということだろう。
しかし、これはチャンスかもしれない。この丸鏡は七不思議で唯一場所が指定されているため、丸鏡を探すため旧東山小学校には不法侵入者が相次いだと言われている。
それだけ人が探しているにも関わらず噂の丸鏡は発見されていない。つまり、この七不思議はガセネタの可能性が高い。
適当に手伝って写真を消してもらえばいい。
「分かりました。手伝うのでその写真は絶対に消してくださいね。」
「え!ほんと!?ありがとう!分かったよ!手伝ってくれたら写真は消すよ!」
そう言って先輩は上機嫌になり、少し歩く速度が上がる。
よし、これで脅迫系詐欺こけし女ともおさらばだ。頑張れ俺、この山場を超えれば晴れてまた自由の身だ。
「じゃあ約束通り夜の1時30分に旧東山小学校に集合ね!時間厳守だからね!」
そう言って先輩は走り出した。
先輩の姿が見えなくなった後、俺は深いため息を吐きながら今後の動きを考える。
七不思議、約束の時間までにある程度調べておかないとな。夜の探索、というか不法侵入になるので道具を準備したり、警察に見つかった時にスムーズに逃走する手段も考えておかなければ。
そうして俺は、これから体験するであろう苦労に頭を抱えながら帰り道を足早に歩き出した。
・花村 日向
性別 女
身長 150cm
年齢 18歳
運動能力 D
知能 B
コミュニケーション能力 B
運 C
??? A
メモ
・明るい茶髪のショートカットが特徴の女子高生。七不思議について調べる非公式のクラブ〈怪決団〉を束ねる部長。学校では変人として名が知られている。奇抜な言動と行動が目立つため友人は少ない。趣味は映画鑑賞。好きな食べ物はおはぎ。学校では常にニコニコしながらホラー小説を何度も読み返している。休日は1日の半分をネットのオカルト提示版に張り付いたり、心霊スポット巡りで消費している。運動はあまり得意では無いが身体は柔らかい。カバンに札やお守りを着けすぎて歩くとジャラジャラ音がするためクラスメイトからは死神の足音と言われている。この町で生まれ育っているため町の地形や建物について詳しい。