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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 サミュエル・フォン・アレオン・ユニ王太子殿下が自分をエスコートしてくれると知った時、ジョゼフィーヌ・ド・アルシェ侯爵令嬢はこれで婚約者は自分で決定に違いないと思った。


 幼少の頃、一目サミュエルを見た時から恋い焦がれ婚約者に選ばれるよう遊ぶこともせず血の滲むような努力をしてきた。それがこれで報われた気がした。


 ジョゼフィーヌはこの舞踏会で、サミュエルに自分のことを精一杯アピールし、更にサミュエルに認めてもらおうと意気込んだ。


 サミュエルはとても紳士で、誰にでも分け隔てなく接する。もちろんジョゼフィーヌにも紳士的で優しかった。


 だが、明日からは自分にだけその優しい微笑みを向けてもらえるようになろう。そう思いながらサミュエルのエスコートで会場に入った。


「王太子殿下、今日はエスコートしてくださってとても光栄ですわ。(わたくし)は今日のことを一生忘れません」


 そう言ってサミュエルを見上げると、サミュエルも微笑み返した。


「それは良かった。そう言ってくれると、私も嬉しいよ」


 ジョゼフィーヌは他の令嬢に見せつけるようにサミュエルの腕に手を絡めると、微笑み正面を見た。


 この時、ジョゼフィーヌには会場内のものすべてがキラキラと輝いて見えた。


 そんな時、ある令嬢が視界に入った。その令嬢は少しやぼったいが、笑顔が明るく天真爛漫な感じがした。


 ジョゼフィーヌはそれ以外特になんの変哲もないその令嬢から、なぜか視線がはずせなくなった。


 こちらがじっと見つめていると、それに気づいたその令嬢はサミュエルの前に出て、愛らしい表情で屈託なく微笑むとカーテシーをしてすぐにその場から立ち去った。


 その瞬間、ジョゼフィーヌは突然強い目眩に襲われ倒れそうになり、それをぐっとこらえた。


「どうしたんだ?」


「い、いえ。なんでもありませんわ」


 なんとかそう答えたが、本当は大丈夫でもなんでもなかった。


 なぜならジョゼフィーヌが前世の記憶を思い出していたからだ。


 ここは乙女ゲームの『味噌っかす令嬢は舞踏会で華麗に笑う』の世界であり、自分はよりによって断罪される悪役令嬢だった。


 そして、先ほど屈託なく微笑んだマリー・デ・オドラン男爵令嬢こそが、そのゲームのヒロインである。


 ジョゼフィーヌは、ゲームのあらすじの詳細を思い出す。


 主人公のマリーはその明るさや、素直な性格で爵位など関係なくサミュエルや他の攻略対象者から気に入られる。


 当然それを気に入らないジョゼフィーヌはマリーをいじめなんとか妨害しようとするが、そんな妨害にもめげない健気なマリーはサミュエルたちから余計に気に入られるのだ。


 そして、最終的にサミュエルや攻略対象者はマリーを選ぶというあらすじだったはずだ。


 この舞踏会がゲームのオープニング兼、チュートリアル的なものだったと記憶している。


 ちなみにそのゲーム内でマリーがサミュエル以外のルートを選ぼうが、ジョゼフィーヌのことをサミュエルが相手にすることはない。


 そのうえ、悪役令嬢役のジョゼフィーヌはどのエンディングでも必ず断罪されるのだ。


 ジョゼフィーヌは目の前で他の貴族と笑顔で挨拶を交わすマリーを見つめる。ふとサミュエルを見上げると、サミュエルもまたマリーを見つめていた。


 その後、サミュエルとマリーは挨拶以外で必要以上の接触をすることはなかったが、サミュエルが時折マリーを目で追っているのがわかった。


 ジョゼフィーヌは、急速にサミュエルに対しての気持ちが冷めていくのを感じた。


 今までは気に入られようとあれやこれや気を引いてきたし、それに対するサミュエルの反応に手応えを感じてきたが、それらはすべてサミュエルの社交辞令でしかなかったとわかったからだ。


 しかも、今日舞踏会で会ったなんの努力もせず微笑んでいるだけの令嬢にはあっさり心を許すのだ。


 ジョゼフィーヌはそこからサミュエルとの話に集中できず、これからのことを目まぐるしく考え始めそれを止めることができなかった。


 今後どうやって断罪を避け、普通の生活を送るか。


 その時突然、サミュエルに話しかけられる。


「アルシェ侯爵令嬢、楽しんでるか?」


 さっきまではね。


 そう思いながら、ジョゼフィーヌは無理やり笑顔を作って答える。


「はい、もちろんです。王太子殿下」


「良かった。私も今をとても楽しんでいる。ところで今度一緒に出かける約束をしていたね、あれなんだが……」


 今のジョゼフィーヌにとって、そんな約束はもうどうでも良かった。きっと王太子殿下も、マリーを誘いたくてジョゼフィーヌとの約束を断るつもりなのだろう。


 そう思いながら答える。


「はい、王太子殿下の仰せのままに」


 そう言うと、ゲームの内容をできるだけ思い出すことに集中した。急に無口になったジョゼフィーヌを見てサミュエルは尋ねる。


「どうした? アルシェ侯爵令嬢、体調が悪いのか?」


 ジョゼフィーヌは慌てて答える。


「はい? とんでもないことで……。いいえ、そうですわね、少し体調が悪いのかもしれません。今度のお約束はおっしゃる通り反故にして下さって大丈夫ですわ」


 そう言って前方を見ると、その視線の先にサミュエルとライバル関係であるアレル・ファン・デュケール公爵令息がこちらを見つめているのに気付き、とりあえず適当に微笑んで返す。


 そして、アレルもゲーム内の攻略対象で、プレイボーイ枠だったはずだと思い出していた。


 そんなジョゼフィーヌを見てサミュエルは怪訝な顔をした。


「アルシェ侯爵令嬢?」


 心配そうにジョゼフィーヌの顔を覗き込むサミュエルを見て思う。


 もう騙されませんわ、社交辞令はたくさん!


 そして、笑顔を貼り付けて答える。


「申し訳ございません。ぼんやりしてしまったようですわね」


 そう答えつつ、攻略対象者に触れぬよう相手を確認しなければと視線を走らせ、その他の攻略対象者も確認した。


 舞踏会の最後に婚約者候補の令嬢はサロンに集められ歓談する運びとなっていたが、ジョゼフィーヌは体調が悪いと言って辞退することにした。


 断罪されると分かっていて、こんなところにいられる訳がない。思わず難しい顔をするジョゼフィーヌにサミュエルは訊く。


「アルシェ侯爵令嬢、本当に大丈夫なのか? 今日はなんだか君らしくなかったが」


「本当に申し訳ございません。なんだか少し疲れているみたいですわ。これ以上ここにいると王太子殿下にもご迷惑をおかけしてしまいそうですし、(わたくし)はこれで失礼させていただきますわね」


 そう答え、不意にサミュエルに尋ねる。


「今日は(わたくし)らしくなかったでしょうか?」


 するとサミュエルは少し困惑気味に言った。


「らしくないというか、まぁ、体調が悪いのなら仕方がないかもしれないが」


 そう言うサミュエルにジョゼフィーヌは苦笑しながら答える。


(わたくし)らしくないのではなく、今日やっと(わたくし)は本来の自分を取り戻したんです、これが本来の(わたくし)なんですわ」


 そう答えると、満面の笑みで続ける。


「今日は王太子殿下のための舞踏会です。(わたくし)は一人で帰れますからお気になさらず」


 そう言って膝を折ると、数歩下がった。

誤字脱字報告ありがとうございます。


頑張れ 石川 能登!!


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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