【コラム】本編に書ききれなかったことあれこれ
本編は完結しているのでお時間のある方だけどうぞ。
■藤原定家は超エライ
本稿では
『紫式部原本に近い写本』
『藤原定家の写本をさらに写本したもの』
『与謝野晶子現代語訳』
を並べることで、一目で違いがわかるようにするはずでした。ところが、藤原定家の文がどうやら現代語に合わせて出版されたらしく(小学館から)そうなると著作権が小学館にあるのでは……となり載せられませんでした。定家の著作権は1000年前に切れてるんですけど。残念なり。
機会があれば定家の鎌倉時代語訳も是非見てください。素晴らしいです。紫式部のわけわかんないひらがな文が、漢字を補うことでだいぶわかりやすくなってます。
特に和歌の前に小さく(空蝉)というように註釈がつけてあって、誰がどの歌を詠んだかわかるようになってます。
紫式部の書いたもの(は、残ってないがそれに近い写本)をご覧いただいてわかるように、誰がどのセリフ言ってんだか、この歌は誰が詠んだのかハイコンテクスト過ぎてもうわかんない。
考えてもみてください。みなさんが読んでるその小説『総ひらがな』だったら……。嫌ですよね? 藤原定家には日本人足を向けて寝られないと思う。
■『いろは歌』と『五十音表』について
『いろは歌』は大変優れた『ひらがな手本』です。何が素晴らしいって『一度聞いたら覚えられる』ところです。
47文字で1つの物語なのでイメージが湧いてきます。しかも全部のひらがなは1回づつしかでてきません。もし、仮に、『とかなくてしす』をわざと入れてたのだとしたら天才の所業です。
ただ……『発音を覚える』ということにかけては圧倒的に『五十音表』が優れています。
『いろは歌』……綴りを覚えるのに最適
『五十音表』……発音を覚えるのに最適
という特徴があると思います。
五十音図はなんと奈良の西大寺で1079年に書かれた『金光明最勝王経音義』に原型があるそうです。そんな早いのか!
なぜなら『インド人の発音を勉強するため』
仏典を理解するのにサンスクリット語ができないといけなかったからですね。五十音図は仏教由来になります。
【参考】
☆ え?そんな昔からあったんだ!「あいうえお五十音図」意外と知らない歴史に迫る
https://intojapanwaraku.com/culture/146168/
■『ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ』を取り入れたのはあの福沢諭吉!
福澤は1860年咸臨丸で渡米した後、『増訂華英通語』を出版しました。『V』を『ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ』と発音することを提案しています。ただ、『ヴ』を最初に考えたのは新井白石らしいです。
でもこの表記減少傾向にあるのだとか。2019年1月に始まった通常国会で議論された『在外公館名称位置給与法』で、海外で働く職員の手当てに関して国の名前を記載するときの表記から、曖昧な「ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ」を排除しましょう、という取り決めがなされました。
子供が小さい時に『アンパンマンが英語と日本語で単語を教えてくれる』というおもちゃを持っていたのですが(タッチペンで絵を押すと声がする)
日本語で『バイオリン』。英語で『ヴァイオリン』と発声してたと思います(捨ててしまったので断言はできませんが)
【参考】
☆“ヴ”を生み出したのは福澤諭吉でした。「福澤諭吉が広めた日本語」
https://www.kateigaho.com/migaku/88369/
☆日本語表記の進化と退化「ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ」:音の雑学
https://www.healthyhearing.jp/topics/topic-article-85
■なぜ『ハヒフヘホ』は発音が変遷したのか
これは『人間が楽したいから!』だそうです。
『パ』より『ファ』の方が、『ファ』より『ハ』の方が発音するのに楽だから、だんだん変わっていったのだそう。『大石』を『オ、オ、イ、シ』と発音するより『オーイシ』と発音する方が楽ですよね? そんな感じで何百年もかけて日本人は楽をしてきたわけです。綴りが変わらないのに発音は変わっていったから、後の人が昔の文章を読んで混乱してしまったらしい。1000年も経てばなぞなぞすら解けなくなってしまう。
釘貫亨『日本語の発音はどう変わってきたか』より一部引用します。
『古代日本語にhの音が存在しなかったのは明らかである。ハ行子音は、奈良時代にはp音であった。これが平安時代はじめにpから破裂性がやや退化してfの音に近い「ファ・フィ」のような音声になった。』
『ファ』が『ハ』になったのは、唇を一度合わせて発音するより、口を開けたまま息を出すだけの方が『楽だから』ということになるでしょう。
■変体仮名
本稿では『いろは47文字を覚えればよかった』と書きましたが、そのひらがなの書き方もいろいろあったらしいです。
例えば『あ』なら『安』由来の崩し字と『阿』由来の崩し字があったり。そういうのを見分けないといけなかったんですね。発音も本稿の通りバンバン変わるし。日本語ややこし過ぎるだろ。
1900年にようやく学校教育で50文字のみ教えるようになりました。それ以外の異字を『変体仮名』といいます。今の私たちは変体仮名を使っていません。
書道ではまだ残っているそうです。
■ミトコンドリアイブは1人じゃない
本編に出てくる『ミトコンドリアイブ』
☆人類最初の女性
☆地球上にたった1人
とよく思われます。これは『誤解』です。
ミトコンドリアイブが生まれる前にも女性は存在してたし、複数の女性が同時代にいました。
ミトコンドリアイブと同じ場所にもう1人『イブB』がいたとします。ミトコンドリアイブが娘を3人、イブBが息子を3人産んだと仮定してみてください。
ミトコンドリアイブの娘たちはミトコンドリアイブの『ミトコンドリア型』を継承しますが、イブBの息子たちは男性なのでイブBの『ミトコンドリア型』を継承しません。
ミトコンドリア型は女性にしか継承されないのです。
するとイブBのミトコンドリア型は断絶してしまいます。
こんな感じで何世代か経ると、『ミトコンドリア型』は共通の母方祖先を持つようになるのだそうです。
ミトコンドリアイブ自身は、女系のみを通じてたくさんの子孫に恵まれたという以外、何も特別な点はありません。
ミトコンドリアイブが生まれる前は『元ミトコンドリアイブ』がいたし、何十万年後には我々の誰かが『ミトコンドリアイブ』になる可能性もあるそうです。
近年では『16万年前から『娘』が絶えることはなかった』という意味で『ラッキーマザー』と呼ぶ動きもあるとか。
では最後にこの小説の出来事年表を掲載してコラムを終わりとします。お読みいただきありがとうございました!
【年表】
■16万年(±4万年)
ミトコンドリアイブがいたと推定されている
■飛鳥時代(592年〜710年)
持統天皇(645年〜703年)
■奈良時代(710年〜794年)
古事記(712年)
万葉集(759年〜780年に成立した)
■平安時代(794年〜1185年)
紫式部(970年〜978年の間に生まれる。死去は不明1019年以降)
金光明最勝王経音義(1079年)
■鎌倉時代(1185年〜1336年)
藤原定家(1162年〜1241年)
■室町時代(1336年〜1573年)
後奈良院御撰名曽(1516年)
■安土桃山時代(1573年〜1603年)
(1467年〜1615年を特に『戦国時代』という)
ルイスフロイス(1532年〜1597年)
■江戸時代(1603年〜1868年)
松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつける(1701年)
本居内遠(1792年〜1855年)
福沢諭吉渡米(1860年)
■明治時代(1868年〜1912年)
与謝野晶子(1878年〜1942年)
■平成時代(1989年〜2019年)
地下鉄サリン事件(1995年)
鏑木紫陽(2001年〜)
在外公館名称位置給与法(2019年)
誤字報告ありがとうございます!!m(_ _)m
【次回作】『お釈迦さまって本当にいたの?〜文字は隠されたメッセージを投げかけているという話〜』
ゴウタマ・シッタールダ。
釈迦。世界三大宗教『仏教』の教祖。信徒実に5億人。
だがその存在は生地インドで忘れ去られ18世紀にはほとんど実存も疑われていた。
『南無阿弥陀』は何語か。安倍晴明はなぜ政変を察知したのか。イエス・キリストが処刑されたのは西暦何年何月何日か。マヤ文明の滅びの予言はなぜ成就しなかったのか。
『文字を忘れる』とはどういうことなのか。
数千年に渡る『隠れたメッセージ』を高橋紫陽と興梠於菟が探る歴史ミステリー。
釈迦って本当にいたんですか?
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