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5/9

奇妙な中吊り広告(5/8)

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 √5

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「るーとご?」

「はい」

「どういう意味だかわかりますか?」


 え? は? 全然……。


「近似値を言ってみてください。小数点のアレです」


 紫陽はしばらく考えをめぐらした。


「2.2360679ですね」

「すぐ言えましたね。」


「語呂合わせで覚えるんです。√2は『一夜一夜ひとよひとよ人見頃ひとみごろ(1.141421356)』。√3は『人並ひとなみにおごれや(1.7320508)』√5は『富士山麓ふじさんろくオウムく』……あ!!!!」


 紫陽は慌てて自分のスマホを取り出すと、『地下鉄サリン事件』をネットで調べた。間違いない。


 オウム真理教は当時富士山麓に宗教施設を持っていて、そこで化学兵器サリンを製造していたのだ。


 ◇


「ぐ……偶然です……よ……ね?」


『√5』が『フジサンロクオウムナク』なんてすごい嫌な一致だ。


「偶然です。さてこの中吊り広告。誰に向けて書かれたものでしょう?」


 ◇


 紫陽は腕を組んで考えた。今は電車に乗ってもみんなスマホしか見てないけど、1995年ならスマホないよね? 中刷りは今よりずっと広告効果があったに違いない。


 熱心に中吊り広告を見るサラリーマンたちが目に浮かんだ。


「週刊誌の購買層ですよね? 社会人が対象ですね。つまり『ルートの語呂を理解している層』」


「そうです。これを江戸の人間は理解しないでしょう。時代が違います。現代の小学生も理解しない。まだ『ルート』は習っていない。日本語話者でなければ理解しないでしょう。『語呂合わせ』ができない。そうすると、『√5』が『フジサンロクオウムナク』と理解できる人はだいぶ限られませんか」


「そうなります……」


「これが『ハイコンテクスト』です。じゃあ最後にカブラギさんと同じ23歳の女性が書いた文をお見せしますね。今朝方Twitterに書いてありました」


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タワーに450も使わせて、ディズニーなしかよ。姫を大事にしない担当√16ね

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 困惑した。確かに若いコが書いたなという印象はあるが、それ以上内容に踏み込めない感じだ。


「いや……その……全然わからない。担当? 何担当ですか? 朝当番のこと?」


 オトは吹き出した。


「なんですか『朝当番』て」


 つい自分の仕事に当てはめてしまった。

 毎朝教員が2人校門の前に立って生徒を出迎える『朝当番』という仕事があるのである。いつもより早く家を出なきゃいけない。なかなか難儀だ。


「ふふっ。じゃあ√16以外は説明しますね」


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タワー→『シャンパンタワー』のこと。キャバクラやホストクラブのバースデーイベントに華を添えるため行われる。シャンパングラスをタワーのように積み上げて上からお酒を注ぐ。イベントの飾り。客がイベントの主役キャストにプレゼントする


450→450万円。


姫→女性客のこと。


担当→本指名されたホストのこと。このお客の『担当』

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「あ! つかめました。『シャンパンタワーのために頑張って働いて450万払ったのに、ディズニーランドすら連れてってくれないのか。お客を大事にできないホストは……』……………えっと……………ルート16……つまり……4の2乗だから……シ……『死ね(4ね)』だっ!!!!!!!」


 クックックックック。


 オトは小刻みに体を震わせて笑った。口に手を当てた。左手に細いシルバーリングがはまっていて、彼が結婚しているとわかる。


「ご名答。まさにこれ、『ハイコンテクスト』の極みじゃないですか? 『面白いなあ』と思って覚えたんですよ。

 カブラギさん。同じ年に生まれ、同じ女性で、同じ文化に触れてきた2人でも立場が違うと言っていることが理解できない。人と人が分かりあうのは本当に難しいのだと僕は思います」


 ◇


「さて。カブラギさん。本題です。日本初の『なぞなぞ』に挑戦してみませんか?」

「日本初?」

「ええ。」

「室町時代。1516年に編纂された「後奈良院御撰何曽ごならいんぎょせんなぞ」です」


 後奈良院とは『後奈良天皇』のこと。1497年生まれ。

『後奈良院御集』『後奈良院御百首』などの和歌集、日記『天聴集』を残している。『後奈良院御撰何曾』は、日本初のなぞなぞ集にして貴重な文学資料でもある。


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はゝには二たひあひたれともちちには一ともあはす

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