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大剣のアリスティア  作者: 雉子谷 春夏冬
第一章「神様は赦してくれない」
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第二話(楽しみだったことは否定しません)・4

「あんたの言っていることはさっぱりわからん」


 仕度をする、といって姫に背をむける。


「まあなんだ、うまかったよ。ごちそうさま」


 相手の顔を見ず、一方的に告げてナナシは小屋へ向かう。


 抗議にも似た不協和音をたてる戸を押し開けて小屋に入ると、手早く装備の点検に取りかかる。

 武具を手にとり、目覚めた時の違和感がはっきりとわかる。

(手入れをされてる……)


 もやが晴れてきた記憶のなかで、確かに自分は泥まみれで戦っていた。だが装備にすらその痕跡はなく、丁寧に鉄製のものには油まで塗られている。


「余計なお世話かと思ったのですけれど、あなたが眠っている間に簡単な整備をしました」


「うおい! 入ってきてんのかよ!」


 背後の声にどきりとして振り返ると、きょとんと首を傾げた姫の姿。ナナシが驚いていることを不思議そうに見つめ返してくる。


「だめ、だったでしょうか?」


 おそらくは音も気配もなく背後についたことではなく、了解をとらぬまま装備を整備したことを言っているのだろう。確かに持ち物を勝手にいじられるのは気持ち悪くはある。

(まあ、済んだことはもういいとして、それより)


「だめというか、その前に俺着替えるんだけど……」


「ええ、どうぞ」


「どうぞ!? いや出てけよ!」


 ますます何を言っているのかわからない、と困惑した表情をするアリスティア姫。


「私ドレスを着る際、侍女に手伝ってもらいますよ。あなたの装備は点数も多くてドレスを着るよりも大変でしょう?」


「コツがあるもので、お姫様のお手を煩わらすことはごさいません」


「言い方に棘があることくらいわかりますよ」


「そりゃありがたいね、気持ちを汲んでくれるわけだ」


 と、あっち行けとばかりにぞんざいに手をふるナナシ。

「なにを恥ずかしがっているのでしょう」


「いいからもう出てってくれませんかねぇ、いい加減!」


 まだなにか反論したそうに口をパクパクさせていた姫だが、分かりましたと呟いて踵を返し、音もなく小屋から出て行く。


 その様子にナナシはため息がもれる。

(もうばれちゃいるんだろうが)


 相手が王族だろうと、他人に素肌を見られることはいやだから仕方ない。こちとら一介の流れ傭兵で、王に庇護された民ではない身の上。そう決め込んで一度着た上着を脱いで、素肌にさらしを巻いていく。


 人蜘蛛の糸で作られたこのさらしは、上手く巻ければ衝撃をよく吸収し、切られても刃が通らないほどの強度になるが、その分巻きづらく時間がかかる。


 さらしを巻き終わっても終わりではない。姫の言う通り、ナナシの装備は数が多い。それは1人で傭兵稼業をするための必然の重荷だった。


 流れるような手つきで防具に仕込み武器を体に纏わせていく。その一連の流麗な動きは着替えというより、観るものがいたならば独特な舞を想起させただろう。

 最後に外套をひるがえし鞘に納まった剣を背にすると、小屋の出入り口のドアを極々ゆっくりと、少しずつ力を込めて引いていく。


 ドアは悲鳴に近い音を立てて開いていく。


 開け放たれた先には、稟とした佇まいのアリスティア姫。


 互いに目があって、一方は微笑み、一方は獰猛な笑みを浮かべる。


「どうかしましたか?」


「いいや。ただ、退屈とは無縁な旅になりそうな気がしているだけさ」


「奇遇ですね。私もそう確信しています。ところで……」


「なんだ?」


「私はあなたをなんとお呼びしたら良いのでしょう?」


「名乗る名前がない。だからナナシでいい」


「名前がないからナナシ、さん」


 考え込む素振りを見せる姫に、ナナシはげんなりする。


「あーお姫さん」


「私のことはティア、とお呼び下さい。敬称もいりません。それより」


 瞳を輝かせて身を乗り出すティア、対称にうんざりした顔で身を引くナナシ。


「私、名付け人になりましょうか?」


「そんなのいらない、必要ない」


「王都では名付け人になってほしいと、私に依頼が殺到してたのですよ。全部クラリス、あ、私の侍従長がお断りしたのですけれど」


 ぽんと手を叩く姫のきらめく笑顔で、ナナシはこのお嬢様がこちらの話を聞く気がないことを察した。


「もしナナシさんが依頼を受けてくれて、私の用件が終わった時、報酬とは別に名前を贈りますね」


「あーあ、まあ好きにしなよ。勝手に名付けたって、俺がそう名乗るかは俺の勝手だしな」


「名乗りますよ。必ず。私の勘はよく当たるのです。だから楽しみにしていて下さいね」



 ナナシの荷物は体中に分散させている小袋を除けば頭陀袋1つだが、アリスティア姫の荷物は大きな行李が2つもあった。見た目どおりの重量そうなのに、あんな細腕でどう運んできたのかという疑問は、広い面の底にくっ付いていた車輪が物語っていた。


「ラティカじゃこんなのも売ってるんだな。車輪付きの行李なんて見たことねえ」


「いいえ、これは私が今回の旅用に設計制作したものです」


「自分で作ったってことか?」


「私はこう見えて器用なのです。裁縫も工作も得意ですよ」


 ナナシの隣に並んで胸をはるアリスティア姫。そんな彼女をナナシは無遠慮に観察する。


 ナナシは神を信じない。それでもこの銀髪の少女は、神が手ずから造形したと言われれば、納得しかけるくらい整った容姿をしている。


「あの、なにか?」


 ナナシの不躾な視線に居心地が悪くなったのか、アリスティア姫は戸惑いの声をあげた。


「いや、あんたは目立つからな。顔、隠せるなら隠したほうがいい」


「あ、この髪、銀髪でも目立ちますよね」


 髪色のことだけじゃねぇよ、と告げるか迷いつつ見ていると、アリスティア姫は器用にくるくると髪をまとめ上げ、頭上でお団子状にしてから外套つきの頭巾をすっぽり被った。


 どうですか、と言わんばかりの笑顔を向けてくるアリスティア姫に対し、ナナシは感想は告げず、歩き出す。


「行き先が神罰に飲まれている以上、のんびりしてていいこともねぇ。道行きの詳しいとこは歩きながら聞こうか」


「わかりました」


 並んで歩きだすアリスティア姫の手が、空であることにナナシはすぐ気付き、振り向いてギョッとした。そんなナナシにお構いなく姫は説明をし始める。


「まずはこの農道から街道に合流しましょう。それからしばらく街道沿い、ダーナ公国方面へ向かいます」


「いや悪い、全然話が入ってこない。なにあれ?」

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