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大剣のアリスティア  作者: 雉子谷 春夏冬
第一章「神様は赦してくれない」
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第二話(楽しみだったことは否定しません)・2

睨みつけるナナシの目はいよいよ剣呑な光を帯びる。


「てめえも大剣使いを追っているとでも言うのか」


「いいえ、違います。行き先が重なっているだけ」


 ナナシは地面に置いた剣を目にも留まらぬ速さで拾うと、音高く突き立てた。


「意味わかんねえよ。言っとくが、俺は貴族の戯れに付き合う気はさらさらないんだ。言葉にも! 行動にも!」


 ぶつかりあう視線。どちらも引く気は一切ない。


「取引をしませんか?」


「取引だと?」


「大剣使いは狩師の里に向かう傾向があるのです。そして私は、各狩師の里に安置されている御神体に用がある。取引はこうです。私はあなたを狩師の里へ案内する。あなたは私を護衛する。どうでしょう? 狩師の里は隠れ里。私の案内なしでは辿り着けません」


「なんで大剣使いは狩師の里に向かう? どう信用しろって言うんだ、そんな話。あんた自体わけわかんねぇのに」


「理由を語ることは出来ます。でも私を信用しないあなたは、私の話も信用できない、とおっしゃっている」


 アリスティア姫は軽く手を叩く。


「ではこうしましょう。お試し期間を設ける」


「お試しぃ?」


 自分でもわかるくらいナナシは怪訝な表情を浮かべる。


「そうです。まず北の狼族の里へ一緒に向かいませんか? そこへ辿り着けば、私の話が本当かどうかわかるでしょう」


 ナナシは剣から手を話すと、再び腕を組んだ。即答ができない。


「お試し期間の報酬として、そこまでの食料を提供します。そして私が持つ地図も、里に着いたら差し上げます。あなたの地図、拝見しましたけれど、この辺りの地図ではありませんよ」


 ナナシは無表情に、アリスティア姫を見つめる。


「食料も尽きてますよね?」


 駄目押しの言葉に大きく息を吐き、ナナシは腕組みをほどいて頭をかく。


 すべて見透かされている。装備を外されていることから、当然こちらの荷物も把握されている。


 怪しすぎる。それがナナシの率直な感想である。しかしどちらがより剣で生死を図れるのか。ナナシは黙考する。


 この少女と別れ、食料もなく現在地も分からないままさ迷うのと、得体の知れない少女の怪しすぎる依頼を受けるのと。


 ナナシはどこまでも剣士であった。問題が選べるうちは、剣が生死をわかつほうを選ぶ。


「俺は人一倍食うけど?」


 アリスティア姫は胸をはる。


「大丈夫です!」


 ナナシはお手上げとばかりに両の掌を見せる。


「わかった、いいぜ。そのお試しとやらを引き受けよう。だが……」


「だが?」


「護衛なんているのか? あんたは単独で神罰獣を討滅していたじゃないか」


 なるほど、と呟きながらアリスティア姫は胸元へ手を入れて、服の下に仕舞い込んでいたペンダントをナナシに見せる。


 そのペンダントにつけられた涙型の宝石は、胸元を飾るにしてもかなりの存在感をもつ大きさで、一目見て特別とわかるほど美しい。


 木漏れ日を受けて蒼く輝きを増すその宝石を見て、ナナシは息が詰まる。


「驚いた、ということは宝石の知識があるようですね」


 蒼色金剛石。別名、神の気まぐれ。


 一般的に金剛石は透明度が高く、色が混じらないほどその価値を増す。

 しかし内に蒼を閉じこめた蒼色金剛石は特別で、ほとんど採掘されることがないことから、『一生かけても拝めず、七度生まれ変わっても払いきれない』とナナシに宝石の知識を仕込んだ宝石職人が言っていたことを思いだす。


 アリスティア姫の手に収まるその宝石は非常に大粒で、肉眼では一点の曇りもないほど透明度も高い。


「本物……か?」


 ごくりと喉を鳴らすナナシに、彼女は首からペンダントをはずすと、ちょうど火がありますね、と宝石部分を焚き火で炙りはじめた。さらに何事が呟くと姫の傍らにあった木製コップに突然水が溢れだす。


「こんな、詠術を……」


「昨日の雨のおかげですね。空気から抜き取っています。飲んでも大丈夫なくらい」


 ナナシが驚いたのは詠術の内容だけではない。戦場に身を置く以上、詠術師は珍しくはない。しかしどの詠術師も詠術を使うことをもったいぶるし、実際に詠術を行使する場合も詠唱に時間をかける。


 だからこそ、こんな何気なく地面に落ちた物を拾う感覚で詠術を行使する姫に対して、呆れ混じりに驚いたのだ。そんなことを口にするつもりはないのだが。


 ナナシが絶句している間に、熱した蒼色金剛石を水に浸ける。

 それらしく装飾した硝子なら温度差で砕けるが、ペンダントの宝石は何事もなく健在だった。


 さらにアリスティア姫は石を拾うと、その石で宝石をこすり合わせた。

 悲鳴を上げてナナシは姫の腕をとる。


「傷つきませんよ。本物の蒼色ですから。劈開性も心得ています」


 姫が掴んでいる手に視線を向けたので、慌てて放し、浮いていた腰をまた下ろす。


「俺は鑑定士ってわけじゃないが、まあそれが本物だとしてなんだって言うんだ?」


「これは我が国の神器……」


「神器!?」


 ナナシは自分の心臓が一際飛び跳ねたのがわかった。神器とはその国の王権を示す宝物。言わばその国の象徴。値などつけられる代物ではない。


「の模造品です」

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