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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第六章 父の死の謎を追って

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事件の真相

 イヤコーベやジルケと結託し、悪事を働いていたのはウベルだった。

 もしや以前彼らが行った婚約破棄は双方の関係は断たれた、と主張するためのパフォーマンスだったというのか。

 実際は裏で繋がっていて、父の殺害を計画していたとしたら――考えただけでゾッとする。

 もしも私がシルト大公家に残っていたら、罪をなすりつけられていたに違いない。

 そういえば、クラウスとの婚約を発表したあと、イヤコーベから手紙が届いていた。婚約破棄されたジルケを励ましてほしいとか、父が寂しがっているとか、婚約のお祝いをしたいとか、いろいろ理由をつけて私をシルト大公家に呼び出そうとしていたのだ。

 あの日、素直に帰っていたら、父を殺害した罪を押しつけられていたのか。だとしたら、ゾッとしてしまう。


 口直しのゼリーを運んだあと、クラウスと目線を合わせ、廊下に出る。

 魚料理を取りに行くふりをして、しばし話に聞き耳を立てるようだ。

 使用人がいなくなったと思ったのか、ウベルはうっかり口を滑らせた。


「いやはや、騎士隊の調査の目をかいくぐってしまうとはな」


 どくん! と胸が大きく脈打つ。

 ウベルは事件について、何か知っているようだった。


「エルーシアがシルト大公を殺したことにしようとしていたのに、まさか逃げ出すなんて思いもしなかった」


 やはり、彼らは私に罪をなすりつけるつもりだったのだ。

 絶対に許せない。猛烈な怒りがこみ上げ、ぶるぶると震えてしまう。

 そんな私を、クラウスは優しく抱きしめてくれた。


「凶器はエルーシアの私室に隠しておいたのに、騎士達は発見しないなんて」

「!!」


 探し回っても見つからなかった凶器は、私の部屋にあるという。


「床下収納に入れておいたのに、見逃したんだよ」

「まったく、能なしだね」

「まあまあ、騎士隊は貴族のお坊ちゃんも多いから、床下に収納があるなんて思いもしなかったんだろうな」


 今すぐ、私の部屋を確認しに行かないといけない。けれども、クラウスはしばし待つようにと、首を横に振る。まだ話を聞くようだ。


「しかし、ジルケがシルト大公を仕留めるとは思っていなかった」

「だって、殺したらお金がたくさん貰えるんだろう? 婚約破棄のことで叱ってきたからさ、カッときて。まぬけなもんだったよ。あたしに背中を向けて説教していたから、テーブルの上にあった灰皿で後頭部を叩いただけでポックリだったよ」


 酷い……! 人の命をなんだと思っているのか。

 私が飛び出していかないか心配だったのだろう。クラウスは腕の力を少しだけ強める。

 大丈夫だと伝えるために、腕をポンポン叩いた。


 そこで会話は別のものになり、クラウスと婚約を結んだ私について話し始める。


「エルーシアにも驚いたもんだ。選んだ男が、シュヴェールト大公になってしまうんだから」

「エルーシアのくせに、生意気なんだよ」

「大丈夫だ。あの女は、必ずこの家に連れ戻す。そして、一生いいように利用してやるから」


 いったい、何を計画しているというのか。

 ぎゅっと拳を握ったその瞬間に、クラウスが動く。用意していた魚料理が載った手押し車を食堂へ運んだ。


 ウベルはクラウスをジロリと睨みながら物申す。


「おい、配膳が遅いんだよ」

「申し訳ございません」


 ウベルはこうして、立場の弱い者にのみ強くでてくるところがあるようだ。なんとも呆れた話である。

 

「ワインセラーに、特別な白ワインを取りに行っておりまして」

「なんだ、この家。ワインセラーなんかあったのか?」


 父のコレクションが収められていたワインセラーの存在を、彼らは知らなかったようだ。

 とびきりいいワインを持ってきたので、あっという間に上機嫌となる。

 クラウスは白ワインの栓を抜き、ゆっくりとデキャンタに移す。空気に触れたワインは、味わいがまろやかになるのだ。また、ワインの中にあるおりを取り除けるため、おいしく飲めるというわけである。


 極上の白ワインと共に魚料理を楽しんでいたイヤコーベとジルケ、ウベルは、あっという間に眠ってしまった。そんなに強いワインだったのか?

 クラウスが視線で合図するので、食堂から出て行く。

 歩きながら、彼らが眠ってしまった理由を教えてくれた。


「ワインに睡眠薬を仕込んだ」

「いつ?」

「グラスに注ぐときに」


 見ていたが、まったく気付かなかった。さすが、隠密活動を得意とする鉄騎隊の隊長である。

 向かった先は、私の部屋だ。

 父の部屋同様、何もかも持ち出され、空き部屋のようになっている。

 ここに、父を殺したさいに使った凶器が隠されているようだ。


「床下収納はどこにある?」

「ここに」


 ドキドキしつつ床下収納を開いた――が、中は空っぽだった。


「え、どうして?」


 すでに別の場所に隠されているのか。

 クラウスのほうを見た瞬間、彼は人差し指を私の唇に当てた。静かにするように、と言いたかったのだろう。


 次の瞬間、話し声と足音が聞こえた。だんだんとこちらへ接近してくる。

 イヤコーベとジルケ、ウベルは睡眠薬で眠っているはずなのに。


「あちらのほうから、物音がしたというのですか?」

「ああ」


 住人以外の声が聞こえ、背筋が凍り付いた。

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