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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第二章 クラウスとの出会い

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養育院にて

 養育院に通えども、通えども、クラウスはやってこない。

 ここで待ち伏せするより、兄の学校の行事に参加したほうが会えるのではないのか。

 ただ、校内に入るチャンスは多くない。

 年末の降誕祭か、学期末の舞踏会プロムナードくらいか。

 降誕祭は一年先、舞踏会も半年先である。

 悠長に構えていると、不幸に襲われるような気がして怖かった。


 今日はドライフルーツたっぷりのケーキを焼いて、養育院を訪問した。

 私が毎週毎週やってくるので、シスターカミラは恐縮しきっているようだった。


「なんだか、申し訳ないですね」

「病気になる子が多いので、心配ですの」


 クラウスが来ていないか毎週確認している、なんて言えるわけがなかった。


「あら、また、子ども達が減っているような」

「そうなんです!」


 シスターカミラは嬉しそうに、養子縁組が上手くいっていることを報告した。


「嬉しいことです。この世の子ども達全員が、幸せになればいいと思っています」

「ええ、本当に」


 それに関しては同意でしかないが、ふと疑問に思う。

 院長がいたときは、養子縁組は時間をかけてゆっくり行っていた。

 自分の子どもとして迎えたいと願う者達の人格や収入など詳しく調べ、子どもとの相性もゆっくり見定める。

 最終的に子どもが拒否しないようであれば、養子として送り出すのだ。

 半年以上かけて、じっくり見定める期間を置いていた。

 ここ最近の話を聞く限り、子ども達は次々と養子に出されていた。

 今、シスターカミラが院長代理をしているようだが、養子縁組の方法を変えたのだろうか?


「シスターカミラ、質問があるのですが?」

「なんでしょうか?」

「先週までミアっていう、五歳くらいの女の子がおりましたよね? 彼女はいったいどこの家に引き取られたのでしょうか?」

「ミアは――大通りにある靴屋の夫婦に引き取られました」

「そうでしたか。帰りに寄って、様子を見てまいりますわ」

「あ、いや、待ってください。記録帳を読まないと、たしかな情報はわからないのですが」


 なぜ? という言葉は呑み込む。追及はせずに、笑顔で別れた。

 なんだか嫌な予感がする。ここを早く立ち去れ、と脳内にある警鐘がカンカン鳴っていたのだ。


 養育院の外で待たせていたマーヤと合流する。

 歩きながら、彼に寄り道したいと伝えた。


「あら、珍しいですわね」

「少し、調べたいことがありまして」

「どちらに行かれるの?」

「大通りの靴屋です」


 追加料金は払う。ポシェットを探りながら歩いていたら、マーヤが急に腕を掴んだ。

 ぐっと身を寄せ、低い声で囁く。


「あとを追っている方がいるようです」

「――ッ!」


 いったい誰なのか。ゾッとしてしまう。

 もしや、この前クラウスが痛めつけた下町の男達なのか。


「合図をしたら、走りましょう」


 こくりと頷く。

 一歩、二歩、三歩を進んだら、マーヤが指笛を吹いた。

 その瞬間、私は走り始める。


「待て!!」

「止まれ!!」


 背後から男達の叫びが聞こえる。足音から推測するに、五、六人はいるのか。

 ずいぶんとたくさんの人出を用意してくれた。


「お嬢様、あたくしがここを引き受けますので、目的地で合流しましょう!」


 目的地というのは、先ほど私が寄り道したいと言った靴屋だろう。

 頷き、彼と別れる。

 大通りに行ったら、巡回する騎士がいる。何かあったら、助けてくれるだろう。

 必死に駆けていたら、建物を曲がってきた男性とぶつかってしまった。


「ああん? お前、どこを見てんだ?」

「ま、前を……」


 クラウスに倣って答えてみた。

 恐る恐る顔を上げると、知っている顔だった。

 以前、私を追い回した下町の男である。


「ああ、お前は!!」

「ご無沙汰いたしておりますわ!」


 下町の男は腕を伸ばしてきたので、咄嗟に回避する。それだけではなく、すねを思いっきり蹴った。


「ぐあっ!! ク、クソ女が!!」


 効果的な一撃だったか、その場にしゃがみ込んだまま動こうとしない。

 よし! と拳を握りつつ走って逃げていたら、目の前に黒い物体が飛び込んできた。


「きゃあ!!」


 それが何か確認する前に、捕まってしまった。

 手首を握られ、ぐっと伸ばされる。

 あと少し力を込めたら、私の体が浮いてしまいそうだった。

 まるで、精肉店に吊された鶏肉のような状態だと思いつつ、視線を上にあげた。

 私を捕まえたのは、全身黒尽くめの男だった。

 足元から腰、胸、首筋、黒い髪と確認し――最終的に真っ赤な緋色の瞳と目が合ってしまった。


「ヒッ!!」


 見間違えようがない。私を捕獲しているのは、悪魔公子クラウス・フォン・リューレ・ディングフェルダーだった。


「お前、なぜここにいる?」

「そ、それは――」


 顔を逸らしたら左右の頬を潰すように片手で掴まれ、クラウスがいるほうを強制的に向かされる。


「お前、事件に関わっているんじゃないよな?」

「う゛ぇ?」


 ……事件とは?

 頬を潰されている状態では、まともに喋ることなんてできない。

 離してくれと訴えても、クラウスは私の頬を潰した状態で睨むばかりだった。


「閣下、お待ちください!!」


 クラウスの暴挙を止めようとしたのは、マーヤであった。

 複数の男達を相手にして大丈夫だったのか心配になったものの、着衣の乱れこそあれどケガはないようだった。


「お前、誰だ?」

「このような恰好で失礼いたします」


 マーヤは拳を胸に当て、騎士の敬礼をする。


「自分は第三王子近衛部隊のマティウス・フォン・ボルヒャルトと申します」

「近衛騎士がメイド服を着て街を闊歩しているだなんて、笑わせてくれる」

「返す言葉もございません」


 クラウスとマーヤ改めマティウスは、ぴりついた空気のまま、見つめ合っていた。

 いい加減、腕引きと頬を潰すのを止めてほしいと、心の中で願う。

本日より1日2回更新(0時、12時公開)になります。

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