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死の運命を回避するために、未来の大公様、私と結婚してください!  作者: 江本マシメサ
第二章 クラウスとの出会い

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逃走、そして――

 しまった! と思ったときにはもう遅い。

 彼らは私をターゲットとして定めてしまった。

 金目の物を渡したら、満足して消えてくれる。そう思った瞬間、隠し持っていたルビーの耳飾りは養育院に寄贈してしまったのだと思い出す。


「ねえちゃん、暇だろう? こっちに来いよ」

「いいもんを見せてやる」


 ついて行ったら、酷い目に遭わされるに違いない。その場にしゃがみ込む振りをして、地面の砂を握った。

 立ち上がったのと同時に、男達を目がけて投げる。


「ぐわっ!!」

「なっ!!」


 怯んでいる隙に逃げる。表通りへの道は塞がれていたので、路地裏を走るしかない。


「こら、待て!!」

「クソ女が!!」


 男達はあとを追いかけてくる。思いのほか、足止めにはならなかったようだ。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ――!」


 こういう事態になるなんて、夢にみていなかった。いつもいつでも、大きな事件しかみせてくれないのだ。

 

 母との約束を破ってしまったせいで、こんな目に遭っている。私が悪かったとしか言いようがない。

 

「あっ!!」


 石につまずき、転んでしまった。男達はあっという間に追いついてくる。


「手を煩わせおって!」

「許さないからな!」


 最後の足掻きだとばかりに、帽子や手にしていたカゴを投げつけてやった。それも、彼らへの大きなダメージにはならない。


「貧乏貴族の惨めったらしい娘かと思えば、上玉じゃないか!」

「少し楽しんで、娼館にでも売り飛ばしてやろうか!」


 なんて酷い奴らなのか。

 腕を無理矢理掴まれ、ぐいぐいと乱暴に引かれる。


「離してくださいませ!」

「うるさい!」


 念願の表通りに出てきたけれど、下町の人達は見て見ぬふりをしている。

 きっと評判の悪い男達で、関わり合いになりたくないのだろう。

 ずんずんと進む中、私の腕を引く男が道行く男性にぶつかった。


「おい、お前、どこを見ているんだ!」

「前だが?」


 堂々たる正論で、こういう状況なのに笑ってしまいそうになる。

 顔を上げ、相手を確認すると、悲鳴をあげそうになった。

 下町の男にぶつかられたのは、クラウス・フォン・リューレ・ディングフェルダーではないか。

 兄と同じ年齢なので、現在は十八歳くらいなのか。予知夢でみた彼より若いが、黒い髪に赤い目を持っているので、間違いないだろう。

 突然ぶつかってきた下町の男に対し、クラウスはゴミや虫けらに送るような視線を送っていた。

 ぼんやりしている場合ではない。

 奇跡のような機会を逃すまいと、私は必死になって訴える。


「あの、助けてくださいませ!!」

「お前、何を言っているんだ!」

「きゃあ!」


 頬を思いっきり叩かれ、口の中に血の味が広がっていく。

 顔を叩くときは、口内をケガしないよう、歯を食いしばれと言うのが礼儀だというのに。

 勢いあまって、地面に転がってしまう。

 気の毒な娘に見えるよう、いつもより余計に痛がった。すると、クラウスは男達に注意する。


「おい、止めろ」

「家畜と同じで、こうしないと言うことを聞かないんだよ!」

「なるほど、そういうわけか」


 納得したクラウスに対し、悪魔だと思ってしまう。

 しかしながら、次の瞬間、クラウスは下町の男の頬を強く殴った。


「ぐはっ!」

「お、お前、何をするんだ!」

「何って、家畜は殴らないと言うことを聞かないんだろう?」


 もうひとりの男も同様に殴った。

 男達は仲良く倒れたが、すぐに起き上がってクラウスに殴りかかってきた。

 彼はひとりで応戦し、あっという間に倒してしまった。

 そして、私のほうへやってきて、高圧的な目で見下ろす。


「おい、立て」


 こういうとき、手を貸してくれるものではないのか。などと思ったものの、相手はクラウスである。血も涙もない男なのだろう。

 下町の男達が動かないのを確認し、立ち上がる。


「ここは危険だ。中央街のほうへ行け」

「はい」


 中央街まで送ってくれるのかと思いきや、クラウスはくるりと踵を返す。

 そのまま立ち去ろうとしていた。私は慌てて彼を引き留める。


「あ、あの、ありがとうございました。おかげさまで、助かりました」

「家畜の躾をしただけだ」


 家畜呼ばわりは酷いとしか言いようがないものの、心がスッとしてしまう。

 彼のような強さがあれば、どれだけよかったか。なんて、考えている場合ではなかった。


「あの、お名前を教えていただけますか? お礼がしたいのです!」

「別に、名乗るほどの者ではない」


 名乗れよ!! という叫びは、喉から出る寸前で呑み込んだ。

 ここで彼がシュヴェールト大公家のクラウスだと名乗らなければ、関係が築けない。

 どうにかして、名前を聞き出さなければ。


「お願いいたします、どうかお名前だけでも、お聞かせください!」

「……ラウ」

「ラ、ラウ?」


 それは、クラウスの愛称なのか。

 きちんと名乗らないなんて、酷いとしか言いようがない。


「お前は?」


 そっちがそのつもりならば、こっちもお返ししてやる。

 全名なんて教えてやるものか! と思い、愛称を名乗った。


「わたくしは、エルですわ」

「エル?」


 スカートを摘まみ、会釈する。


「ラウ様、またどこかで、お会いできたら嬉しく思います。そのさいには、恩返しをさせてくださいませ」


 クラウスの反応を確認もせずに、回れ右をする。

 ずんずんと大股で、下町をあとにした。


 帰宅後、私は頭を抱え込み、盛大に落ち込んでいた。

 クラウスと確かな縁を結ぶつもりが、いつの間にかけんか腰になっていた。

 互いに愛称しか名乗っていないのに、別れてしまったのだ。

 すがりついてでも、あの場で結婚してほしいと訴えたらよかった。

 私はどうしてこう、上手く立ち回れないのか。

 だからこそ、予知夢でみた私は、ウベルやイヤコーベとジルケに利用されてしまったのだろう。

 夢でみた未来なんて、絶対に迎えたくない。

 なんとしてでも、クラウスと結婚しなければと強く思った。

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