表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリーンスクール - 翼をください  作者: 辻澤 あきら
9/9

翼をください-最終話

 快晴の朝、開門早々から学校に飛び込んだのは、松本だった。職員室の前に立ったまま、ひとりひとりの先生に会釈を続け、担任を待った。山元が来るのを見つけると、松本は大きくお辞儀をして山元に訴えだした。


「先生、あたしはどうして退学にならないんです」


驚いた山元は、松本を生徒指導室に連れていった。


 山元は松本を席につかせ、ゆっくりと言葉を選びながら話し出した。


「松本さんは、退学になりたいのかね」


「前に、補導されたときに、停学になりました。今度は、こんな事件を起こして、由美……緑川さんを巻き込んでしまって、……あたし、何の処罰もないのが、つらいんです。あの娘まで、まきこんで、それでも、あの娘、あたしのこと誤解してて。あたしが悪いのに」


「あぁ、聞いたのか。彼女がアメリカへ行くことを。今日みんなに伝えようと思っていたんだけれど」


松本は俯いたまま、静かに頷いた。


「君が、どう思っているかは知らないが、今回の事件は、君が起こしたものではない。あれは、頭のおかしな不良がやってきただけだ。君は巻き込まれただけだ。前の停学の後、更生しようとしていた君を邪魔しにきただけだ、違うかね。だから、君は何の処罰もないんだ」


「本当ですか?」


「本当だ。義務教育でむやみに退学はさせない」


「本当は、あの娘、由美子ちゃんが何か言ったんじゃないんですか。あたしに処罰がないようにって」


「ばかな、そんなことを彼女ができるわけないじゃないか」


「でも、あの娘の家は、お金持ちみたいだし」


「ここは、教育の場だ。いちいち教育理念に干渉できる者はいない。あくまで、これは理事長の方針だ」


松本は涙を堪えきれなかった。むせび泣きながら、ありがとうございます、と言うだけだった。


「まぁ、処分を下すべきだという先生もいるのはいる。だけれど、君らはまだ若い。今回の事件が、将来の君らにどんな影響するかわからない。その上、処分を与えれば、それこそ、どんな影響は出るかわからない。だから、処分はない。処分がないことで、君がそういう考え方をしてくれるのであれば、それで充分なんだ。どうしても、退学したいのならば、自分で退学届けを出せばいい。だけど、そうすると緑川さんが帰ってきても会えなくなるぞ、それでもいいのか」


 静かに首を振る松本を、山元は笑みを浮かべながら見ていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ