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グリーンスクール - 翼をください  作者: 辻澤 あきら
2/9

翼をください-2

 ホームルームを知らせるベルに続いて、教室に担任の山元が入ってくると、少しずつ騒がしさが鎮静されていく。が、目敏く山元の後ろに見慣れぬ少女を見つけた生徒たちに再びざわめきが戻ってきた。


「はい、静かにして」


初老の山元は声を張り上げることもなく、そう言うと目で少女に合図し、教壇に上がるように促した。少女は清楚なふるまいでゆっくりと壇上に上がると、しゃんとした姿勢で真っ正面に顔を向けた。


「えぇっと、転校生を紹介しよう。緑川由美子さんだ」


そう言いながら黒板に大きく少女の名前を書きはじめた。少女は静かに頭を下げ、


「緑川由美子といいます。よろしくお願いします」と挨拶した。


 好奇の眼のなか、凛とした姿勢で笑顔を絶やさない彼女に、少しずつ空気が和らいでいた。しかし、そこここでぼそぼそと話す声も絶えなかった。というのは、この緑ヶ丘学園は、この地区有数の進学校のひとつであり、編入で入ってくることはかなり難しいからであった。おそらく在学中の生徒でも、半数以上が編入できないと言われている。それにもかかわらず、編入できたということは、相当の成績を修めたということである。といっても、ガリ勉タイプでもなく、まったくの少女然とした由美子がそれほどの好成績を取ったということに、驚きと不審と、少しばかりの不安と嫉妬が沸き起こっていた。


「彼女は、あけぼの女学院からこの学校に編入してきた。みんな、仲良くしてやってくれ」


その台詞でまたざわめきが沸き起こった。あけぼの女学院は名門校として知られていて、良家のお嬢様の通う学校だった。そう聞くと由美子の立ち居ふるまいに何か特別の雰囲気が感じられた。


 由美子は静かにお辞儀すると、山元に指示されるように最後尾の席に向かった。右隣に座る女生徒に、屈託なく笑顔で、


「よろしくお願いします」と言ったが、隣の女生徒は一瞥をくれただけで挨拶もせず、前を見ていた。そんな彼女に少し怪訝な顔を見せた由美子であったが、本鈴が鳴るのを聞くと、静かに腰を下ろし素早く授業の準備を始めたのだった。


 1時間目が終わると、数人の生徒が由美子に寄ってきた。いきなり積極的に話しかけたのは、サッカー部の風見裕之だった。


「俺、風見っていうんだよろしくね」


何人かの女子生徒も由美子に挨拶をしてきた。由美子は圧倒されながらも個々の質問に丁寧に応えていた。すると、突然隣席の松本裕美が文句を言った。


「うるせぇな。はしゃいで、ぎゃぁぎゃぁ騒ぎやがって」


由美子は急なことで反応できずきょとんとしてしまった。由美子のまわりにいた女子生徒は、口を噤んで縮こまってしまい身を寄せ合っていた。風見は由美子に振りまいていた笑顔を止めると、


「悪かったな、はしゃいでて。だけど、松本、少しぐらいはいいじゃないか」と強い口調で言ったが、松本の方は横目で風見を睨むと、


「かわいい娘の前だと、随分かっこいいじゃないですか?カザミクン」と言い返した。静かな口調に独特の雰囲気を持ち合わせている松本に圧倒されて風見は言葉に詰まった。


 やめておきなよと、風見の袖を引く女子生徒に、少し緊張が緩んだ風見は、2時間目のベルを聞くと、また後で、と由美子に言うと自分の席に戻った。他の女子生徒も小さく手を振りながら、自席に戻った。由美子は笑顔で彼女らに応えると、松本の方へ向き直った。


「何だよ。何か言いたいのか」


「ありがとう」


「何だよ、それは」


屈託ない笑顔の由美子に戸惑いながらも虚勢を張って松本がそう言うと、由美子はさらにニコニコしながら言った。


「だって、一度にたくさんの人に挨拶されても……、ねぇ」


松本は、戸惑いながら目線をそらした。


「松本、さん、っていうのね。よろしく」


「ああぁ」


無愛想ではあったが、今度は由美子の挨拶に応えた。


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