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第三話

 黒田長政ら三番隊五千の傷兵らは海州ヘジュを発つと平安南道の中和郡に向け進軍していった、中和チュンファは平壌平原に属し地勢は平坦で郡東部にはマジャン山、ムドゥン山、チョンリョン山が連なり郡内の中央部には昆陽江、北東部には戊辰川が流れ当時は農業が盛んで 平壌ピョンヤンの穀物倉庫とも言われていた。


三番隊は海州より北上し材令邑、松林、江南邑を経て四日目の夕には中和郡の南端へと差し掛かった、小西軍が駐屯する中和北部までは距離にして四里弱であろうか 強行すれば深夜には着けぬこともないが時刻は既に酉の刻を過ぎ辺りは闇に覆われ始めていた。


この闇のなかこのまま行軍し朝鮮軍の残留兵にでも遭遇したなら疲れ切った黒田軍の損害はいかばかりか、長政は行軍を止めると昆陽江支流の岸辺を見渡した、すると遠くに鬱蒼と茂る葦の群生を見つけ あそこなら兵を隠すに適すであろうと栗山善助に命じ今宵の野営地とした。


野営場所が決められると陣場奉行や営作奉行の配下およそ百余名が機敏に働き荷駄に積まれている陣作材で河原に野営小屋をまたたく間に造営していった、その大きさは六間×三間の小屋が四つで これらは軍議に参加できる支配役以上の殿様・老職・侍大将・目付頭・戦奉行など高官のみが入営できる本陣元野営所だ。


よってそれ以下の徒大将をはじめとする組頭や足軽・小者などは葦のはざまに唐紙か枯れ草をしいての野宿となるが しかしこの中和の平原は湿地帯が多く蚊の攻撃に兵等は悩まされた、当初敵に見つかることを怖れ たき火は禁じられていたが、これでは明日からの行軍に支障が出ることを憂い長政は夜襲の備えを取りつつ河原での蚊遣かやりを兼ねた焚き火だけは許した。


従軍医の弦斎は老職・侍大将と共に三番目の野営所に入った、野営所と言っても急造りな小屋のため隙間だらけだが中にはむしろが敷かれ蚊帳かやが吊されていた。


弦斎は干飯ほしい白湯さゆを支給され、それを小屋の隙間から洩れる七夜月をながめながら干飯を頬張り口中でゆっくり噛んで充分ふやけたところで白湯を啜り胃の腑に落としていた。


(こんなものをわずかに食ろぉて戦わにゃならん兵らはやるせないのぅ…)

そんなことを思いながら干飯の残りを口に放り込んだとき母里太兵衛が小屋に入ってきた。


太兵衛は蚊帳をはね除けると「殿からのお裾分けじゃ」と言い大きな酒の徳利を弦斎に見せニヤっと笑った。


「七夜月に酒とはこれは風流な」

弦斎は目を細め 口に入れたばかりの干飯を白湯と共にまずそうに嚥下えんげした。


「さぁやって下され弦斎様」太兵衛は徳利を差し出す、弦斎は白湯の湯飲みを空にし 裾で水気を拭うと嬉しそうに徳利の前へと突きだした。


酒好きの弦斎にとって久々の酒だ、注がれる柔らかな液体を見ればとうてい我慢などできず思わず唇をなめ待てぬとばかりに口に運び喉をグビグビ鳴らし一気に胃の腑に落とす。

「ふぅっ旨い、しかし一杯目はよう味がわからん…もう一杯注げ」


「そう慌てなくともたんとありますよって」太兵衛は苦笑しながら二杯目を注いだ。


今度は一口含むと味わうように口の中で転がし目を細めた、太兵衛はそれを見ると満足そうにうなづき持ってきた乾物のあぶりをむしろの上に並べ自分の湯飲みにも注ぎ始めた。


「ときに弦斎様、例の空から降ってきた男でござるが…あれから気失せは治まりましたかのぅ」

太兵衛は乾物の端をかじり咀嚼そしゃくしながら少しばかりの酒を口に含んだ。


「いやまだじゃ、しかしあれからは大人しゅうなっての なにくれと儂の身の回りを気遣ってくれますのじゃ、しかしあやつはただ者ではないような」


「ただ者ではないとはいかなる仕儀にござりましょうや」


「ふむぅ…今はまだはっきりとは申せぬが、そうよなぁ高貴な生まれとでも申そうか立ち振る舞いに品がござるのよ、一昨日も粟飯あわめしを食う際はきちんと正座し脇を締めて粟飯を一すくいずつ箸で食べており、よほどまずいのか驚いた顔をしておりましての、それに比べ廻りの兵等は我がちに汚く喉に流し込むというか…結局奴が椀半分食った辺りには鍋は空になっておったのさ」


「あの男が高貴な育ち…あの男がのぅ、して何か喋りましたか」


「いや、いまだろれつが回らぬのかそれとも言葉が思い出せぬのか多くを喋ろうとはせぬのよ、それと今朝の事じゃがあやつ儂の着替えを手伝ってくれるのは良いが着物の着せ方や帯の締め方もろくに知らぬようじゃ、その挙動を観察すればどうやら自分で着物を着たことはないようにも思えるのよ」


「ほぉぉ着物が着られぬとな、うちの殿様でも着物ぐらいは自分で着るぞ、まさか京のやんごとなき御公家衆あたりでは…」


「太兵衛殿、何で京の御公家衆がこんな朝鮮の片田舎に降ってきましょうや」

弦斎は口に含んだ酒を噴くのをこらえ口をつむって笑いを噛み殺した。


「はははっそれもそうですな、ふぅっまだ酔ったわけでもないのに戯言ざれごとを申してしまったわい、それにしてもきっかいな奴よのぅ…」

太兵衛は笑いながら頭を掻いて湯飲みに残った酒を一気にあおった。


そんなころ空から落ちてきた当の本人はといえば小屋から一町ほど離れた葦の茂みで干飯をポリポリと噛みながら寂しげに月を見ていた。


この男…昨日の朝は朝飯の支度が遅いと言われ こっぴどく殴られたうえに食べさせては貰えなかった、日中は追い越していく足軽の一人が誰かに似ている思いしげしげ見つめたら 襟首をつかまれ列から引かれた。

「俺の顔がそんなに面白いのか!」と訳も分からず言いがかりをつけられ 茂みの陰で気が遠くなるほど殴られた。


夜は弦斎先生のお世話をしていたら「お前…落ちてきたときより幾分痩せたようじゃが、ちゃんと食っておるのか」と聞かれ首を振ったら干飯を少し分けてくれた。


要領が悪いせいかこの四日間ほとんど食わせてもらえず、何とかありつけたものはあわの雑炊かこの干飯くらいなもの、いずれも初めて食するものと思うがこの世にこんなまずいものがあろうかとさえ思えるほどだ、しかし空腹には勝てず腹にはおさめたものの水が合わないのか下痢がひどくこの二日間は下帯を着ける暇さえ無かった。


今も下っ腹が渋くうずいている、思えばあのようにボウフラが浮き 灰汁のように濁った水など飲めば腹をこわさない方がおかしい。


弦斎の助手で御医助役を務める治兵衛がボウフラが住まうということは生き水じゃによって呑んでも死にはしないと言った…現に自分以外の者らは腹をこわしているといった話などは聞いてない。


(はぁ俺の胃腸が貧弱なのか奴等の臓腑が異常なのか…正露丸でも有ればなぁ)

思ってから正露丸?ともう一度呟いた、自然に零れた薬の名…不意に小学生の時だったか腹をこわし保健室で呑まされた苦い薬の味を思い出したのだ(あぁ武田先生)その時優しかった担任の顔が月の隣りにぼんやりと浮かび上がった。


男はこの四日間で少しずつ記憶を取り戻しつつあった。

あのむしろの上で気が付いてからの二日間は何も思い出せず無理に思い出そうとすると偏頭痛…といっても尋常な痛さではなく金槌かなづちか何かで殴られるほどの痛みがともない、さらに進むとプツンと意識が途切れ気を失ってしまうのだ。


しかし三日目の朝、何気なくタンポポを見ていて小学校の遠足の記憶が不意に現れそれ以降は中学や高校・大学時代の断片的な記憶がよみがえっては消えた、だが着実にその記憶の断片を心の奥底で繋ぎ合わせる作業を行っている己を不思議な感覚で捉えてもいた。


だがいまだ朧気なる大学以降の記憶はスッポリ抜け、特に自分の名前や仕事・家族構成などを思い出そうとすると頭が割れるように痛んだ。


(俺は何故ここにいるのだ…黒田長政と言えば戦国時代の武将のはず、つい最近テレビのドラマか何かで見た記憶がある、昨夜治兵衛がここは平壌の南と言っていたが…そうすると文禄か慶長の役といったところだろう、それにしても四百年以上も前の時代にどうして俺がいるのだ…)


(弦斎先生は空から降ってきて屋根で頭を打って気失せにおちいったと言ってたが…日本からこの北朝鮮までどうやって飛んできたんだ)


(飛んできた…そんなことよりこの時代ギャップをどう説明するんだ、四百年以上も差があるじゃないか…はぁぁ一体俺はどうしちゃったんだろう)

男はこめかみ辺りを押さえ目をつむった、また頭痛がうずき始めたからだ。


(とにかく考えるのはよそう、成り行きに任せればいずれ記憶は戻ってこよう、それまでは口を閉ざしいらぬ事は喋らないように注意しなければ…それにしてもここ数日の内に朝鮮軍と戦闘が始まると皆が言ってたが本当に刀なんかで斬り合いを始めるのだろうか。


勝手によその国に押しかけ無差別に人殺しする時代、なんと野蛮なと思うが 現代でも中東やアフリカで同様のことが起こっている、いつの時代でも領土拡張に限らず侵略戦争は人間の欲というか普遍なんだろうな。


んん…さっきから他人事のように考えてるが俺も直面してるんだろうが、まさか刀か火縄で戦え!なんてことはないよなぁ、あぁぁ人が死ぬとこなんて見たこと無いし、どこかに隠れるったってこんな草原ではどこにもないし…ヤバイよなぁ)


男はブルっと震えてから子供の頃カッターで指を深く切った事を不意に思い出した。

(あのカッターがもし刀で 切ったのが指じゃなく顔とか脇腹だったらどんな痛さだろう…)

瞬間 指にカッターの刃がヌッと入ったあのズキンと突き上げるような痛みを思い出しブルっと震えた。


(はぁ逃げるったってここは北朝鮮だし…この集団から離れれば周囲は敵ばかり、敵に捕まればそれこそ袋だたきに殺されるがオチ、なんせここはあの金正恩の国だからなぁ…)

男は途方に暮れた顔で再び月を仰ぎ見て 深い溜息をついた。



 ドタバタと板を叩く音で男は目覚めた、目を擦りながら河原を見ると野営所が分解されつつある、男は寝過ぎたと思い慌てて立ち上がり川面に行って顔を洗い始めた、途中水の異臭に気付き視線を川面から上流へと転じた。

(……………)

驚きの余り声にならなかった、川のそこかしこには幾多の死骸が浮いていた。


目を覆いたくなるようなその惨状に暫しぼうぜんと立ちすくんだ、なぜ昨夜の内にこの異臭に気付かなかったのだろう、気付いていればこんな河原で寝るなどありえなかった。


目の前に横たわる死骸は腐敗が進み肋骨を見せながら仰向けに腹を膨らませていた、身に着けている武具から日本兵でないことだけは分かった。


この中和の平原に入ってから小西行長軍が通過した際に殺戮した野ざらしの死骸を多く見たが、突然目の前に腐乱死体を見せつけられた男は恐怖の余り数歩後ずさって顔を引きつらせた。


その惨状を見て男は完全に目が覚めた、そして己が戦場の真っ只中に今いるのだとあらためて思い知らされたのだ。


男はその場を逃れるように土手を駆け上った。

土手に上がると草原の方々で焚き火がたかれ多くの兵等は雑炊などを啜り、また既に後片付けも終わり隊列を整える班もあった、それを見て男は慌てて持ち場へと駆けていく。


持ち場である金傷医療班へ走り、皆がたむろする焚き火の前へ駆け寄った、焚き火の上には金鍋が架けられ粟と雑穀そしてほんのわずかな麦が濁り湯の中で躍っているのが見えた。


持ち場と言っても金傷医療班は大将・老職・侍大将のみの金傷(刀・槍・矢・銃弾の傷)の治療に当たる黒田長政直属の医療班で弦斎を筆頭にわずか7人で構成された非戦闘医療団であった。


その時「きさま!いつまで寝ていたのだ、朝飯のしたくはてめぇの役目だろうがぁ」そうののしり始めたのは年嵩のいった赤座三郎という弦斎の弟子である、この三郎という男 若い頃は足軽だったらしく傷の手当てに秀出ているとかで弦斎に見いだされ医員になったらしい。


それゆえほかの医員とは違い彼だけは戦闘員のたたき上げである、彼の体には幾多の戦歴で負った刀傷や矢傷の負傷痕があるらしく それが自慢で皆に見せびらかしていた。


「下っ端は朝一番に起きて飯の支度をするんだろうが!、昨日あれほど言ったのにもう忘れやがって、てめえなんぞに食わすか!」そう言いざまに強烈な蹴りを男の脇腹に叩き込み 男が倒れそうになったところを今度は足払いをかけ下草に顔から突っ込ませた。


男は朦朧に体を震えさせ何とか立ち上がろうともがくも三郎の怒りは未だ収まらず、男を仰向けに転がすとその上に馬乗りになり、胸ぐらをつかんで強烈な平手打ちを始めた。

その光景を他の医院らはオロオロして見つめるだけで三郎の恐ろしさを知る医員らはとても止められない。


「さぁ立て!、今日こそ きさまの体に嫌っと言うほど分からせてやる、なんなら手足をへし折って片端者にしてやろうか!なぁに てめぇのような下人一人ぐらいいつ消えても誰も気にもとめぬわ」

三郎は朦朧となった男の胸ぐらを掴み体を引き起こすと又もや腕を大きく振り上げ厳つい拳を顔面に叩き込んだ。

鈍い音が弾け血が迸る、そして二度三度鈍い音が続くも殴られる男は一発目ですでに意識は飛び二発目からはなすがままだ。


そして五発目の鈍い音が弾けたとき「おい三郎!もうその辺で勘弁してやれ、その男本当に死ぬぞ」

止めに入ったのは治兵衛だ。


「うるせぇ、てめぇはすっこんでろ!」


「なにっ!きさま御医助役の俺の言うことが聞けんのか!」

言うや治兵衛は男を掴む三郎の腕を拳で叩き落とした、次いでその拳を思い切り三郎の脇腹に叩き込んだ。


これには堪らず三郎は腹を押さえてガクッと前のめりに膝を突いた、しかしそれも一瞬のことすぐに立ち上がり憤怒の形相で治兵衛の襟につかみかかった。


「こらぁ!やめぬか、やめぇ馬鹿者どのがぁ!」そのとき弦斎が走り込んできた。

「三郎!この男は気失せがまだ治っとらんのに、それを殴るとは…きさまそれでも医員か、たわけ!」


弦斎の一喝に三郎は慌てて治兵衛から離れ下草に頭を擦りつけて這いつくばった。

「新参者が言うことを聞きませんので教育的指導にござります・・」と許しを請う。


「われは何年医員をやっているのだ!、先日もこの男は頭を病んでいるから養生させろろと言ったばかりではないか、それをこき使い殴るとは…呆れてものも言えぬわ、それほど腕力が使いたいのならもう一度足軽に戻してやろうか!」


「も、もうしわけござりません…もう二度と致しませんのでこの度ばかりはお許しを…」


さすがの三郎も師匠の弦斎には全く頭が上がらない、三郎は足軽に戻されてはかなわないとばかりに頭を米つきバッタのように草に擦りつけて許しを請う。


「もうよいわ、今度このような乱暴をしたら二度と許さん!雑兵として最前線に送ってやるからそう思え、それと治兵衛!おまえが三郎をちゃんと見張っとらんからこうなるのだ、気を付けよ」

そう言うと弦斎は男を起こし、草を払ってやると懐から綿布を出し顔や鼻血を拭いはじめた。


男は暫くして目を開けた、だが依然朦朧状態のため弦斎は男の背に廻り両肩を掴むと背に膝を当て後方に引いてから一気に前に押し出した。


「ふぅぅ」と声を洩らし男は目覚めたような顔で周囲を見渡した。


「こんなにひどく殴られて可哀想に、それにろくに食っとらんから痩せ細ってしもうて…おい!まだ雑炊が残っとるならたんと食わせてやれ」そう言いながら弦斎は男の袖をまくり脈を診はじめた。


「ふむぅやはり脈がいささか弱いようじゃ…おぬし頭痛はないのか」と問う。


「は、はい…昔を思い出そうとするとまだ痛みます…」


「そうか…じゃぁ記憶が戻ったならちゃんと儂に言うんじゃぞ」

「しかしおぬしをいつまでも“おぬしやおまえ”と呼ぶのは呼びづらいよってそろそろ名をつけんといかんのぅ…そうじゃおぬし色が白いよって白兵衛という名はどうであろう」

弦斎は男の腕を放すと どうだと言わんばかりに男の顔をのぞき込んだ。


「なに本名を思い出したらそのとき戻せばいいのさ、のぅ白兵衛」

弦斎は男の肩を叩くと皆に向き直り、これからこの男を白兵衛と呼ぶようにせよと言い、皆こやつを可愛がってやるんじゃぞと言い残し焚き火の前から去って行った。


「ふん何が白いから白兵衛じゃ、お前なんぞ末成瓢箪あおなりびょうたんでええわい、何べんも言うが明日からは早よ起きて儂らの飯を造るんじゃぞ、ええか分かったな、いつも弦斎様が助けてくれるとは限らんぞ!」

そういうと三郎は鍋に残った雑炊をよそって乱暴に白兵衛に突きだした、そして治兵衛の方に向き直り憎々しげに見据え「てめえ出しゃばりやがって、覚えとれよ…矢玉が飛んでくるのは前ばかりとは限らんでなぁ」と意味深な言葉を投げ掛けニヤッと笑った。


白兵衛はあれほど酷く殴られた後ゆえ今朝も朝飯抜きかと覚悟していた、しかし意地の悪い言葉とは裏腹に三郎は椀にあふれるほどの雑炊を注いでくれた。


白兵衛は上目遣いに愛想笑いを浮かべ三郎と治兵衛に交互に頭を下げると 椀を強く掴み皆の輪から逃げるように土手上へと走った。


土手に駆け上がると涙が止めどなく溢れ川辺の景色が歪んで見えた、その涙は殴られた頬が痛むからではない、ただ朝飯にありつけたとの喜びからだった。


白兵衛はまるで痩せ犬のごとく怯えた眼差しで周囲を見廻す、次いで袖で涙を拭うと椀を誰にも取られまいと深くうずくまり意地汚く雑炊を啜り始めた。


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