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第1話 魔王は暇してる

「暇だ。余はとても暇しているぞ!」


 魔王城。この世界の支配を目指す魔王軍の総本山であり、その魔王城の玉座に座る少年は眼前で首を垂れる臣下たちに主張する。少年の見た目は確かに幼いが、彼は紛れもない魔王である。この世界を支配するために日々暗躍する魔王軍のトップであり、実年齢も百歳を超えている。


 ただ肉体の成長が年齢に追いついていないだけである。


「魔王様。暇と申されましても割れにはどうすることもできません。いつ何時勇者たちが攻めてくるかわからないのですから」


 魔王に対して苦言を呈したのは髪形をかっちりとした臣下の一人。彼の見た目は魔王とは異なりできる大人のように見える。現に彼は有能な臣下の一人だった。


「だがなアロガンシア。かれこれ攻めてくる勇者を待って十年が経とうとしている。そろそろ余の我慢も限界に達するぞ」

「ですがもし魔王城を不在にしている時に勇者が攻めてきたらどうするのですか?」

「ふむ」


 魔王は少し考えると何かを閃く。


「それも一理あるな。では余が直々に勇者の下へ出向いてやろう」

「魔王様!?」

「それは一体どういう?」

「そんなことをすれば……」


 次々に臣下たちから制止の声が飛び交うが、この魔王、一度決めたことはなかなか曲げない性格だった。


「フハハ、待っても来ないならこっちから出向いてやるのが礼儀だろう。アロガンシア、ルクスリア、貴様らは余に着いて来い。残る者は魔王城の警護に当たれ!」


 こうしてちょっと見た目が幼い魔王は仕事ができる有能な部下アロガンシアと、露出が激しい妖艶な臣下ルクスリアを連れて勇者の下を尋ねるのであった。







 国の中心に国王が座る中央集権国家。その権力は世界中に及んでおり、特に王都は世界一の賑わいと活気にあふれていた。その中でも王都の郊外に位置する王立ヘルト勇者学園はこの国でも選ばれたものしか入学することが許されない正に名門中の名門だ。


 そこでは国中から連れて来られた有望な若者たちが魔王を倒し世界を救う勇者になるために勉学に励み、常に自己を研鑽する場として知られている。


 ちょっと見た目が幼い魔王の姿はその王立ヘルト勇者学園の校門前にあった。


「フハハ、耳の穴をかっぽじって聞くがよい。貴様らが中々来ないから余が直々に出向いてやったぞ。さぁ、勇者よ出てくるがいい」


 鮮やかなピンクに染まった桜が舞う校門前に仁王立ちする魔王。その背後には仕事ができそうな男アロガンシアと露出が激しい妖艶な女性ルクスリアの姿がある。


 まさに魔王軍の主力部隊が未来の勇者たちの学び舎に姿を現し、学園中はパニックになるに違いない。ここにいるのは未来の勇者といっても今は子供。魔王の相手が務まるはずがなかった。


 だからか学園の中から一人の女性が慌てて姿を現す。その女性は息を切らしながら魔王の下まで駆け寄るとその腕を引っ張る。


「ん、なんだ貴様は?」

「君、新入生だよね。入学式が始まっちゃうから急いで! 親御さんも早く!」


 どうやら今日はヘルト勇者学園の入学式らしい。確かに校門前には大きな文字で入学式と書かれている。


「ふむ。貴様は何か勘違いしているようだな」

「え? 新入生じゃないの?」

「余は魔王ぞ。中々訪ねて来ない勇者をこっちから訪ねてやったのだ。さっさと勇者を出すがよい」

「だ、だめですよ。部外者は立ち入っちゃ」


 魔王が新入生じゃないと判明するなり職員の女性の態度は一変する。入学式に部外者が入ろうとすれば当然といえば当然かもしれないが、相手は魔王である。そんな常識が通じるはずがなかった。


「ふん、余の侵入を拒もうとは中々いい度胸をしているな、小娘。だが余の歩みを止めることはなんぴとたりとも出来ぬわ! フハハハハハ」


 勝利の笑いを浮かべながら学園内に立ち入ろうとした魔王だが、行く手を阻むように職員の女性が立ちふさがる。


「だから駄目ですって! この学園に入るにはちゃんと入学試験を突破してもらわなきゃ」

「ほう。余に試練を課すと言うのか。面白い、その挑戦、受けてたとう」

「だから、入学したければ来年の試験を受けて入ってください! 今年の新入生の募集はもう打ち切りです!」


職員の女性はそう言って魔王に来年度の入学パンフレットを差し出す。けれども魔王がここで引き下がるはずがなかった。


「遠路はるばる出向いてやった余を拒絶するか。その心意気、万死に値する」


 魔王の雰囲気が一変する。魔王の身体を包み込むように魔力が溢れ出し、その相貌からは明確な殺意が向けられる。このままでは魔王が職員の女性を葬り去る勢いだが、臣下の一人であるアロガンシアが進言する。


「魔王様、ここは私にお任せください。ここで無用な殺戮を行えば勇者は出てきません」

「妙案でもあるのか?」

「はい」


 自信満々に頷いたアロガンシアは手に持って居たカバンを女性職員に差し出すが、差し出された方の女性は頭にはてなマークを浮かべていた。


「こ、これは?」

「こちらの学園の入学金の十倍の額が入っております」

「じゅ、十倍!?」

「これで魔王様の入学を許可してはいただけないでしょうか?」


 王立ヘルト勇者学園は王立と冠するように王国が運営しているが、入学金はかなりの額を要する。理由として勇者の育成には多額の資金を必要とするためだ。


 もちろん農民出身の学生など家庭の事情で入学できない学生には奨学金制度があり、入学金は主に資金繰りに余裕のある貴族や商家向けである。さらに多額の寄付金を治める家も少なくはなく、才能がなくても卒業すれば学歴に箔が着かせることも多々ある。


 だから職員の女性もこういうことが執り行われているのは慣れっこだ。ただ彼女が驚いたのは入学式の日に試験も受けずに入学させろなどと言うアロガンシアの傲慢さにだった。


 騒ぎを聞きつけてか学園の中から数人の男性職員が姿を現す。中には帯刀している者もおり、彼らがヘルト勇者学園の教師たちだということはすぐに分かった。


「何事ですか?」

「あ、ハマル先生。実はこちらの親御さんが入学金の十倍を払うから子供を入学させろと」

「ふん、場違いな。試験を受けずに入学できる訳がなかろう」

「そうですか。ならこちらの金額を受験料とさせてもらえますか?」


 アロガンシアの提案に驚く一同。今回は入学金の十倍という受験料にしては破格の金額を出したことに驚いている。


 ちなみに魔王は興味が削がれたのかルクスリアに手伝ってもらいながら桜の木に登っている最中だ。


「それは本気で言っているのか?」

「ええ、本気です。もし試験を受けさせてもらい、入学を許してくれたなら更に十倍の額をお支払いしましょう」

「十倍の十倍……ということか?」

「ええ。つまり入学金の百倍をお支払いすることを約束しましょう」

「わかった。ならば受験を認めよう」

「ハマル先生!?」


 ハマルの決定に同僚たちは驚きを見せるが、アロガンシアだけは笑みを浮かべる。


「それで試験内容は?」

「筆記をする時間もないから実戦のみ。この私を倒したならば入学を認めよう」

「承知しました」


 アロガンシアは深々と頭を下げると木登り中の魔王に呼びかける。


「魔王様。こちらの御仁を倒せば中に入れます」

「ほう。それは面白いではないか」


 魔王は不気味な笑みを浮かべるのであった。

あとで2話目上げます。

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