Do you need me?
手の感覚はないのに、ちゃんとペンが持てるって、変なの。
《早乙女銀河の日記》
梅月9日 雨
今日は骸の誕生日だってのに、お天道さまは味方してくれない。
これだから神は当てにならないんだよ
骸は、雨も好きだと言っていたが、少しポジティブすぎやしないか?
クレイは来なかった。やっぱりそんな奴か。
* * *
まずは触覚を失くすお薬。
薄いピンクの錠剤を口に入れて、水で押し込む。
初めは嫌でしかたなかったけれど、作業をするみたいに、振る舞う。
梅月も終わりの頃にメアリーに提案をされた。
薬で命を終えないかって。
いつか使うかもしれないからって薬は受け取ったけど、断った。
薬に頼るくらいなら、最後まで精一杯生きた方がずっと誇りに思える。
そう、思っていた。
クレイが、女の人を連れてきたの。
もう、私は、要らないんだって。
足手纏いなんだって。
わがままだから、嫌いだって。
その女の人はずっと綺麗で、ちゃんとしていて、仕方ないのかなって、そう思った。
「……もう、ここに来なくていいから」
かろうじて聞き取れたその言葉に、少し、ホッとする。
正直、泣き出すんじゃないかと思っていた。
じゃあ、と席を立って、隣の女の手を取る。
行きましょう、と女は相槌を打って、振り返ることもなく、部屋を出た。
「……本当に、良いのですか?あんな風で。」
静かに、その女は言った。
「良かったのですか?あんな、骸さんを、傷付けるような別れ方で。」
「…帰ってくれ。俺らは別に、本当に婚約してるわけじゃないだろう?」
「確かに、協力するとは言いましたが…こんなやり方、間違ってると思います!」
訴える様に潤む目はとても澄んでいて美しかったが、その言葉が響くことは、なかった。
骸が珍しく泣いていた。
理由を聞くと、途切れ途切れになりながら、
「私は、もう、要らないんだって」
精一杯のフォローをしたが、ダメだった。
ダメ元で、
「骸、今日は何が食べたい?今日は特別に、好きなモン作ってやるよ」
そう聞いては見たが
「…クレイが作った、オムライスが食べたい」
その一点張りだった。
《過咲骸の×××》
わがままで、ごめんね、クレイ
貴女のいない夜は、静かだ。