それぞれの捉え方
私も力になりたいわ!
何かできることはないかしら…
《過咲骸の日記》
桜月29日 晴れ
2ヶ月ってあっという間に過ぎてっちゃう。
ぽかぽかあったかい桜月!
蝶々が飛んでて、お花も満開で、とっても好き!
寝ていることが多かったけど、ベッドを窓際に移動してもらったら、随分と気持ちが良くなった。
クレイは最近仕事が忙しいみたい。
あんまりお見舞いに来てくれないの。
でも、友達はよくお見舞いに来てくれるよ。
メアリーとかは、特に!
そういう時は、紅茶を淹れてもらって、
最近こういう事があったの、とかそういう何でもないことを話すの。とっても楽しい!
* * *
ポストに入った封筒を取る。
同じ封筒は全部で4枚入っている。
あの人たちも懲りない人だなぁと思いながら、封を切る。
写真と、紙と、手紙だ。
"クレイ、今回もいい女性を見つけてきましたよ。そろそろ現実を見て、いい結婚をしてはくれませんか?"
父と、母だ。
写真を見てみると、綺麗な女性が、澄まし顔で座っている。
"考えて見ます。"
そう書いた紙を、カラスに預ける。
メアリーのところの小うるさいカラスだが、よく荷物を届けてくれる。
「珍しいナ!こいつら二返事を書クなんテ!!」
「うるせぇよ。気が変わったんだ、さっさと行け。」
こいつと話してるとご近所さんに変な目で見られるから、あまり話したくはない。
あのカラスが飛び立つのを見送ってから、俺はスーツを着て、仕事へ出た。
「あの、すみません、道をお尋ねしたいのですが…」
後ろから声がかかって、振り返る。
白くなった髪の、年老いた女性だった。
「……何でしょうか?」
さぁ、仕事だ。
「さくら公園に孫が居るのですか、迷ってしまったので教えてはいただけませんか?」
「さくら公園ですね、一緒にいきましょう。」
案内すると、女性は孫を見つめるだけで、声をかけたりすることはなかった。
女性は笑った。
「ありがとうございます、最後に一目可愛い孫を見ておきたくて。」
「22××年萩月5日生まれ62歳×× ××さん。
桃月25日午前3時14分死亡、死因は心筋梗塞。
間違い無いですね?」
淡々と述べると女性はこくりと頷いた。
「案内します、さぁ、お手をどうぞ。」
手を差し出す、そのしわの刻まれた手が俺の手を握った時に、場所が移った。
「まぁ、まぁ、何て素敵なところ。」
「そうでしょう、知り合いの魔女に協力してもらったんです。」
そう言いながらお茶を淹れて、女性の前に置いてから、女性の向かいの席に座る。
「それでは、これからいくつかの質問をします。こたえて、くれますか?」
「えぇ、勿論ですよ。」
貴方の宝物は?
楽しかったことは?
悲しかったことは?
心残りは?
その人によって変わってはくるが、主にそんなことを投げかける。
そして、最後には、
「あの扉からこの部屋を出て仕舞えば、もうこの世には戻っては来れません。天国に行くのと同時に、今世の記憶も消えてしまいますが、残すことをご希望ですか?」
女性は言う。
「夫は素敵な方だったわ。忘れてしまうのは惜しいけれど、きっと、来世でも会える気がするのですよ。だから、忘れてしまっても大丈夫。」
「そうですか。貴女はきっと来世も旦那さんと巡り会えますよ。それでは、良い旅を。」
ありがとう、とそう言ってから、女性は扉を開け、出て行った。
死んだ人の魂を導く。それが、俺の仕事だ。
ふと、頭を過ぎる。
骸にも、いつかしなければならないのか、と。
もう、避けられなくなってしまった、結末。
俺を心配させるのでは無いか、と、無理をしていた彼女のことだ。
別れる最後まで、もしかしたら彼女は泣かないんじゃ無いかと、少し心配になった。
《メアリー・ハイツェンの日記》
藤月1日 晴
骸が死ぬんですって。
何でも無いことのように言うものだから、つい過去の私と重ねてしまった。
私も、力になれたらいいのだけれど…
私は沢山人を殺しすぎてしまったみたいで、
生きるための魔法はもう使えないみたい。困ったわ。
そうだわ、薬を作れば、
あの子は綺麗な形のまま、痛みも感じずに旅立てると思うの。
五感を少しずつ鈍らせる薬。
最後は、眠るように息を引き取れるような、そんな魔法をかけた薬を。
死神の仕事はあまり好きではない。
淡々と、同情せずに居なければならない事が苦痛だ。