表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が欲しかった言葉は  作者: 侵略する兎
5/6

それぞれの捉え方

私も力になりたいわ!

何かできることはないかしら…

《過咲骸の日記》


桜月29日 晴れ


2ヶ月ってあっという間に過ぎてっちゃう。

ぽかぽかあったかい桜月!

蝶々が飛んでて、お花も満開で、とっても好き!

寝ていることが多かったけど、ベッドを窓際に移動してもらったら、随分と気持ちが良くなった。


クレイは最近仕事が忙しいみたい。

あんまりお見舞いに来てくれないの。

でも、友達はよくお見舞いに来てくれるよ。

メアリーとかは、特に!

そういう時は、紅茶を淹れてもらって、

最近こういう事があったの、とかそういう何でもないことを話すの。とっても楽しい!


* * *


ポストに入った封筒を取る。

同じ封筒は全部で4枚入っている。

あの人たちも懲りない人だなぁと思いながら、封を切る。

写真と、紙と、手紙だ。


"クレイ、今回もいい女性を見つけてきましたよ。そろそろ現実を見て、いい結婚をしてはくれませんか?"


父と、母だ。

写真を見てみると、綺麗な女性が、澄まし顔で座っている。


"考えて見ます。"


そう書いた紙を、カラスに預ける。

メアリーのところの小うるさいカラスだが、よく荷物を届けてくれる。


「珍しいナ!こいつら二返事を書クなんテ!!」

「うるせぇよ。気が変わったんだ、さっさと行け。」


こいつと話してるとご近所さんに変な目で見られるから、あまり話したくはない。

あのカラスが飛び立つのを見送ってから、俺はスーツを着て、仕事へ出た。


「あの、すみません、道をお尋ねしたいのですが…」


後ろから声がかかって、振り返る。

白くなった髪の、年老いた女性だった。


「……何でしょうか?」


さぁ、仕事だ。


「さくら公園に孫が居るのですか、迷ってしまったので教えてはいただけませんか?」

「さくら公園ですね、一緒にいきましょう。」


案内すると、女性は孫を見つめるだけで、声をかけたりすることはなかった。

女性は笑った。


「ありがとうございます、最後に一目可愛い孫を見ておきたくて。」

「22××年萩月5日生まれ62歳×× ××さん。

桃月25日午前3時14分死亡、死因は心筋梗塞。

間違い無いですね?」


淡々と述べると女性はこくりと頷いた。


「案内します、さぁ、お手をどうぞ。」


手を差し出す、そのしわの刻まれた手が俺の手を握った時に、場所が移った。


「まぁ、まぁ、何て素敵なところ。」

「そうでしょう、知り合いの魔女に協力してもらったんです。」


そう言いながらお茶を淹れて、女性の前に置いてから、女性の向かいの席に座る。


「それでは、これからいくつかの質問をします。こたえて、くれますか?」

「えぇ、勿論ですよ。」


貴方の宝物は?

楽しかったことは?

悲しかったことは?

心残りは?


その人によって変わってはくるが、主にそんなことを投げかける。

そして、最後には、


「あの扉からこの部屋を出て仕舞えば、もうこの世には戻っては来れません。天国に行くのと同時に、今世の記憶も消えてしまいますが、残すことをご希望ですか?」


女性は言う。


「夫は素敵な方だったわ。忘れてしまうのは惜しいけれど、きっと、来世でも会える気がするのですよ。だから、忘れてしまっても大丈夫。」

「そうですか。貴女はきっと来世も旦那さんと巡り会えますよ。それでは、良い旅を。」


ありがとう、とそう言ってから、女性は扉を開け、出て行った。

死んだ人の魂を導く。それが、俺の仕事だ。

ふと、頭を過ぎる。

骸にも、いつかしなければならないのか、と。

もう、避けられなくなってしまった、結末。

俺を心配させるのでは無いか、と、無理をしていた彼女のことだ。

別れる最後まで、もしかしたら彼女は泣かないんじゃ無いかと、少し心配になった。


《メアリー・ハイツェンの日記》


藤月1日 晴


骸が死ぬんですって。

何でも無いことのように言うものだから、つい過去の私と重ねてしまった。

私も、力になれたらいいのだけれど…

私は沢山人を殺しすぎてしまったみたいで、

生きるための魔法はもう使えないみたい。困ったわ。

そうだわ、薬を作れば、

あの子は綺麗な形のまま、痛みも感じずに旅立てると思うの。

五感を少しずつ鈍らせる薬。

最後は、眠るように息を引き取れるような、そんな魔法をかけた薬を。

死神の仕事はあまり好きではない。

淡々と、同情せずに居なければならない事が苦痛だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ