34℃の温もり
《メモ》
骸って、みんなそう呼ぶの。
本当の名前は愛衣なんだけどね。
でも、愛衣って、この名前は、あんまり好きじゃない。
愛って、よくわかんないから。
私がおばあさんになる頃には、わかるかな。
《早乙女銀河の日記》
梅月26日 雨
骸の葬式が終わった。
なるべく規模を小さくしようとは思っていたが、
俺と、クレイ(骸の婚約者)、そしてメアリーと柊希の4人だけだった。
あの人数では骸も寂しかったかもしれない。
クレイには、預かっていた手紙を渡して、しばらく2人にしてやった。
それについては彼女は喜んだんじゃないかと思う。
とても会いたがっていたから。
明後日から授業を再開しなければ。
生徒たちには何て伝えよう。
なるべく、俺が冷静でいなければ。
* * *
「ねぇ、Spica、なんかね、変なの、熱みたい」
今日はどうも朝から変だった。
変にだるいし、食べ物も口に入らない。
「きっと疲れているんだろう、あんな事があったから…」
あんな事、と言うのが私には分からなかったけど、
Spicaは言葉を濁したので何も聞かなかった。
(ちなみにSpicaというのはあだ名で、本名は早乙女 銀河と言う)
「とにかく、薬を飲んでしっかり寝ろよ?」
「わかった、」
「今日はクレイが迎えに来るんだっけか?今日は迎えに来ないように言っておこうか?」
「んーん、いい。お家帰ってクレイとゆっくりする」
一昨日から、研究が詰まっていて、私はSpicaの研究所に篭りっぱなしだった。
今日は、私の大好きなクレイが迎えに来てくれる。
「ゆっくり出来んのか…?余計熱が上がりそうだが…」
呟いたのが聞こえた。
熱が上がりそう、というその意味に、私は気付かない。
「骸、おつかれさん」
スープを飲んでいると、後ろから声がかかったので、私ははっと顔をあげる。
「クレイ!思ったより早かったねぇ」
「だろう?Spicaから体調を崩してるって連絡が来たんだ。」
そう言って笑う私の好きな人は、少し変わってる。
クレイは、死神だ。
死神といっても、人の魂を狩るとかじゃなくって、
死んだ人の魂を導いている。
クレイは死神の一族の長男で、とっても強い。
私を守る為ならなんでもしてくれる。少し極端だけど。
「さ、帰ろうか。」
「んー、あとちょっとでレポート終わるから、それが終わってからじゃ、だめかなぁ…」
「だめですねぇ、今日は家帰って寝なさい」
ほっぺをむいと抓られる。痛くはない。
「さて、本当に寝れるんだか…お前が寝かさねぇんじゃないの?」
含み笑いを浮かべてSpicaが言った。
「おっと。お熱いところごめんな〜?」
「うるせぇよ、ちゃんと寝かすわ、アホ」
「ふーーーん?」
この2人は本当に仲が良いみたい。
「骸、帰るよ」
「わかった〜、荷物とってくるね」
「クレイになんかされそうになったら俺に連絡しろよ?お大事に。」
「なんもしねえって言ってんだろ」
「おー、こわ」
クレイは行こう、と私の手を引いて、私はSpicaにじゃあね、と手を振る。
ちょっとだけ、熱が引いた気がした。
「うぅ…眠くて目がしぱしぱする…」
「寝ろよ…」
「もうちょっと起きてるの〜」
ベッドの上でクレイとそんな話をする。
私はこの時間が好きだ。
熱は38.6℃。クレイには37.0℃だと嘘をついた。
すぐにバレたけど。
「俺、明日仕事あるけど、休もうか?1人でも平気?」
そう言ってくれる彼はとても優しい。
「んーん、いいよ、みんなに迷惑かけちゃうでしょ?1人でもヘーキ!」
「そうか…?」
「うん。」
クレイは私の頭を撫でた。
他の人よりも少し冷たい手が気持ちいい。
「わぁ、動く保冷剤だ〜」
そう言って戯れてるうちに、だんだんとうとうとして来て、そのまま眠ってしまった。
《ノートの切れ端》
俺がもっと賢ければ。