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第1節 始まりの赤(8)

「聖騎士団は国家に仕え、国家を守る正義の使徒だ。模擬戦ばかりではなく、実際に戦場に出て敵兵を斬る事にもなるだろう。要所でそのような体たらくでは、味方の足を引っ張る以外の仕事ができると思うかね?」


 突き刺さるような正論が胸の中に響く。

 シャルとミストも、言葉に詰まったように歯を噛んでうつむいた。

 これ以上の反論は、二人の立場を悪くするだけだ。


「もういいよ。ありがとうね、二人とも」


「ルビィちゃん……」


「もういいってーーもういいってなんだルベウス! お前、いつも言ってただろうが!」


 涙に濁った声で怒声を上げ、シャルが私の胸元を引っ掴んで、ぐいと自分の目に寄せた。


「騎士になるんだって、それが育ててくれた先生に恩を返す事だって! こんな幕切れで納得するのか!? 悔しくないのかっ!?」


「――っ! 悔しくないわけ――!!」


 つい、口が開いた。

 突然上がった私の声に、ハッとシャルが目を強張らせる。

 そうだ。自分としても悔しくないわけが。


「……ないじゃない……っ」


 自然と目が灼熱を帯びる。既に頬に引かれた涙の跡を、幾重も熱がなぞった。

 悔しい。けれどそれは、すべて自分の責任に他ならない。

 自分にこの恐怖症さえなければよかった。それだけの話。


 笑える話なのだ。勝手に私が怖がっただけだというのに、私は誰に対してこの歯がゆさをぶつけることが許されるというのだ。


 そうして、シャルも顔を歪めて私の胸元から手を離した。

 瞬間だった。




「青臭い茶番はいい加減にしたらどうだ?」




 その場のすべての出来事を一蹴するような、冷然とした響きの声。

 てっきりしびれを切らした入団志望の誰かが言ったものだと思ったが、それは違った。


 声がした方を振り向くと、詰所の入り口のすぐ横の壁にすがっている人間がいた。

 人間……なのだろうか?


 そう思わせるくらい、腰まで伸びた艶やかな銀髪の下に切れ長の蒼い双眸をのぞかせる、絵画の中のような騎士姿の女が。

 それが私とレイリィ=シアンの――この時のアウナス聖教騎士団団長との――邂逅かいこうの刹那だった。

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