最終節 終血の紅(17)
目を閉じた闇の中でレイリィの弩級の雄叫びが響く。
旋風を纏う覇気で一直線にこちらに飛び込んでくる虚像が浮かぶ。
もうどうするかなんて考えてる暇はない。斬りつけられる直前に、賭けで防御を仕掛けるしかない。
そして相手は剣を二本持っているも同じ……一撃目を受け切ったら、即座に反撃して突き放さないと確実に斬撃の的になる。
鈍い足音がすぐそこまで近接してきた。
私の読みは――――左の血刃の薙ぎ払い!
直感に従い、一息に剣を向かって左に構えるが、しかし。
ザグゥッ!
真逆。右脇腹で擦り切れるような鋭痛が迸った。
読み違えた――?
すぐ膝を付くほど痛くはない。浅かったのか?
けれど脇の下の方で、じわっと〝何か〟がローブを濡らし、円状に粘ついた感触が広がる。
警鐘のような耳鳴りが響き、頭をかきむしりたくなるほどの焦燥感が走って総毛立った。
静まれーーーー
しずまれ鎮まれ、シズマレ窮血鬼ぃッッ!!!!
歯が欠けるほど奥歯をかみしめて、なんとか自制に全神経を集中させる――
そして気が付くと、無意識の裡に、私は目を見開いていた。
苦難の闇から解き放たれた視界は、信じられないほどゆっくりとした映像で展開していた。
眼前には右手で薙ぎ払い終えたレイリィ。
目を見開いた私を、驚愕の表情で見据えている。
私の最初の一撃が後を引いているのか、体勢を崩している。
逆方向から剣を叩きつける猶予がない。
ならば、と思い立った瞬間――私は両手で握っていた剣を手放し、そして――
切り開かれた右脇腹を顧みずに、右の拳打をレイリィの右脇腹にぶち込んでいた。
「×××××――っっ!!!!」
深く踏み込んだ耳元で、ガラス細工同士が擦り切れる時の音のような、甲高い悲鳴が室内の空気を震わせる。
キィンと右耳の奥が壊れた音がした。
膂力に自信のない素手の拳撃だが、確実な手ごたえがあった。
反射的に打ったにも関わらず、皮肉なほど完璧なクリーンヒットを喫している。
衝撃がレイリィの背中へと突き抜けて行く感触が過ぎると、力を失ったレイリィの身体が私の方へ倒れ込んできた。
もたれかかってくるレイリィを受け止めると、脇腹の傷がジンと軋んで、出血が加速する。
身が凍るようなひりつきが、斬られた痛みよりも鮮明に広がった。
……失神したのか?
間違いなく、最初に剣で打撃が入ったところに拳を叩きこんだ。
急所に二の太刀を入れたんだ。残念ながら、両方とも斬撃ではないのだが……。
「……がはっあ」
支えたレイリィの体が大きくビクン、と震える。
すると、私の右肩から背中にかけて生ぬるい液体が伝った。
見ずとも分かる。吐血したんだろう。
内臓の損傷ってところかな。
はは、大変なことしちゃったなぁ。
私ももう、ここまでだ。
よくがんばったほうでしょ。
あんなに嫌いな血をがまんしてさ。
感触が明瞭になってきて、頭の血が引いてゆき、夢の中のような感覚になってくる。
限界。
臨界。
これにて、お終い。
†
――ねぇ、レイリィさん。
わたしのあこがれのひと。
たぶん、わたしたちはまたあうよ。
ね?




