最終節 終血の紅(16)
視界を閉ざされたまま極度の緊張で構えていたところに、どうにも呑気な声が飛び込む。
私とレイリィの違い……?
むしろ同じところなどあるはずないじゃないか。
それも、何に関しても私の方がひどく劣っていると思う。
唯一張り合えるのが剣技だけだとさえ思うのだ。
「違い? ……私が窮血鬼だということですか?」
「それもあるが、それ以前というか、同程度だが違う趣旨の話さ」
血と同様なくらいの違い?
検討がつかない。
訝しげに黙る私に、レイリィは言う。
「ルベウス。私はお前が妬ましいんだ。さっきは『お前の実力を把握していない』と言ったが、それなりに努力もしたんだぞ? ……お前は知らなかっただろうが、私はお前が騎士団に入った頃からずっと動向を追ってきた。私が不在の時も、ずっと一人で研鑽に努めるお前の様子を間者に記録させた」
「……? なぜそんなことを?」
「なぜって、楽しかったからさ」
「は?」
本気で呆気に取られた。
お互いよれよれで、次の手が命運を決めるという時なのに……この人は飄々と……。
「お前は最初から強かった。騎士になる前からオルロフと同等だった。
――それがどうだ。入団して三か月、それでもお前は強くなっていく。
気を遣って先人の騎士たちとの手合いの時には手を抜いていたらしいが、そこからでも垣間見えるほどお前は剣を極めていく。……誰が見るでもない間にただ一人で剣の修練に励んだ。私とお前の違いは――強さに対する〝求道心〟さ」
たしかに私は一心不乱に剣を振り続けてきた。
その代わり騎士団内部の戒律とかの勉強面は、かなりお粗末なままなのだが。
「が、楽しかったのは途中までだ。少しずつ私は焦り始めた――お前という逸材が私を超えるかもしれない。そんな単純な嫉妬だ。限界を知らないお前の成長が妬ましく思えてきたんだよ、ルベウス」
嫉妬だって?
レイリィさんが私に?
それは逆だ――真逆だ!
「嫉妬……嫉妬ですって!? そんな筈がない! あなたはいつでも優雅で大人でしょう!? 私みたいな剣を振るだけが取り柄の子供なんかじゃない! ましてや血が駄目なわけでもない!! ――あなたこそ私の苦しさを分かってないじゃないか! こんな惨めな、私みたいな子供を羨望するなんて間違ってますよ、あなたはっ!」
「……眩しい未来が見えるお前には決して分からないよ。全盛が過ぎて、後は老いて行くだけの私の絶望なんかが分かる筈がない。地位も名誉も人望にも飽きた私には、お前が眩し過ぎるんだ。どこまでもひたすらに強くなっていく――私よりも強くなっていく、お前の〝意志〟が妬ましい!」
「意志があったって、欠点があれば……あなたは血が怖い事を知らないからっ!」
「ああ、知らないさ。お前が私のこの〝血〟なんかにどんな恐怖を感じるかなんて知る由もない。――だからこそっ! それを克服する機会を与えてやったっていうのに、それを生かそうとしない、生かそうとしなかったお前が許せないんだ!!」
「勝手なことを言わないでくださいよ。こんな恐怖症ごとき、自分の力でどうにかする! あなたに助力される筋合いなんて微塵もないんですよ、助けてくれと頼んでもいない! そんな勝手な自己満足にシャルとミストを巻き込んだあなたを、私も許しません! 私は誰の手も借りずに自分で克服する!」
「たとえ最終的に自分で克服できたとしても、もう時間がないんだ! 早く吸血鬼として力を制御しなければ、戦争が――」
「私は『騎士』です! あなたの――いや、女々しい発想しかできない〝貴様〟なんかの道具じゃないんだ! レイリィ=シアン!!」
「ッ! この……っ」
言下に、耳を澄ませたこちらにまで聞こえてくるような大きな歯ぎしりが聞こえてきた。
――来るっ!
空気が蠢くような殺気が渦巻いて鼓膜を衝いてくる。
まるで真っ裸の雪原で猛吹雪に晒されているみたいに、全身から痛いほど鳥肌が立ち、ギュッと身が竦んた。
「――――分からず屋がぁぁああっ!」




