第1節 始まりの赤(6)
「なお、合格した者は後日もう一度ここに集合をしてもらう! 詳しい日取りは追って連絡を……」
聞き間違えだろうか?
それともうるさかったから聞き逃しただけだろうか?
上手く焦点の合わない目をゆっくりとシャルとミストに向けると、二人は瞳を見開いて私の方を見ていた。
何が、何が起きたんだろう。
二人とも、そんな滅多にしない顔をして。
活気立つ部屋の中。
熱気のせいで霞んでしまった視界で、周りを見渡す。
私たちと同じような仲間同士で、合格の喜びを分かち合う者。
そして真逆に、肩を落とす仲間を慰め合う者。涙を流す者。
――そうだ。
名前の無かった私は。
私は。
きっと〝そちら側〟だ。
落ちた、のか?
……嘘だ。そんなはずはない。
――そんなはずはない?
なんでそんなことが言い切れるんだ。
自分は今、何の秤にかけられている?
武芸の最高峰、ゆくゆくは隊を率いる指揮官となるであろうアウナス聖教騎士団。そこへの入団に絶対なんて保障があるはずもないのに。
疑う余地が無い?
馬鹿なことを。
自分の弱点を――懸念する要素を度外視してよく言う。
途端に少しずつ、頭の中がむず痒くなって、熱毒が廻るように視界が陽炎を浮かべ始めた。
あるのは、漠然とした焦りと自己嫌悪。目に見えるだけの音のない世界。
思考の毒が私の体から自由を断ち、かわりにピリピリと皮膚をつつく絶望をばら撒いていた。
「ま、待ってくださいっ!」
発表を終え、出てきたドアへと帰ろうとした司祭の背に静止の声。
叫んだのは、並び立っていたシャル。
「ルビィは、いえ、ルベウス=ジークフリードは!?」