第1節 始まりの赤(5)
「お集まりの諸君、お待たせした!」
詰め所の奥に通じる堅牢な扉が開かれ、中から丸められた羊皮紙を持った司祭の男が歩み出てきた。
続いて、いかにも屈強な二人の騎士。どちらも壮年で鎧の上からでも分かるほどに身体が引き締まっている。
おそらくあれが、本物の『騎士』というものなのだろう。私が手合わせした人たちには無かった、威圧感みたいなものを感じることができる。
「これより我が国の武の要、名誉あるアウナス聖教騎士団入団試験の結果を発表する! 呼ばれた者はその場で速やかに返事をせよ!」
来たっ。
司祭の野太い掛け声と同時に、騒々しかった詰め所内に水を打ったような静けさが舞い降りた。
耳から聞こえてくる静寂とは真逆に、鼓動を打つ音が爆発的に大きく、早くなっていく。
まるで私自体が爆弾にでもなったみたいだ。血管の導火線が熱を発して一拍ごとに心音を刻み出した。
それはきっと、さっきとは打って変わって、眉根を寄せて冷や汗を滲ませる横の二人も――もとより、ここに集まった全員が同じ心境なのだろう。
そして司祭の男は金箔の振られた豪奢な紙の紐を解くと、おもむろに「コホン」と咳払いをひとつ打ち、合格者の名前を粛とした声で張り上げ始めた。
「まず、試験番号・二百十番――シャルリエル=ローティス!」
「――――……え?」
いの一番に呼ばれた名前を聞いた瞬間に私がシャルの方に顔を跳ね上げる。
ほぼ同じタイミングで、向こう側のミストも。
するとその間には、クールな彼女らしからぬ、ぽかんと口を開けて呆けている横顔が目に入った。
怪訝な顔をし、司祭はもう一度吼えた。
「シャルリエル=ローティスッ!」
「あ、あふっ、ふぁいッ!」
シャルは返事を求められて、あわあわと口をまごつかせながら返答にもならない返答を上げた。
瞬間、そこら中から驚きと嫉妬とが入り混じった視線がシャルを射抜く。
それもつかの間、矢継ぎ早に合格者の名前が呼ばれていく。
告げられる度にそこら中から歓声や各々の返事が上がり、沈黙していた詰め所に火がついたような熱気が灯った。
「――、――、ミスト、ミスト=クレスタ! 居るか!? ミスト=クレスタ!?」
「は、はいーっ!」
飛び交う声に混じって、再び聞き慣れた音程の名前が告げられる。
未だ状況がつかめずにぼんやりしているシャルを置いたまま、ミストはそれでもいくらか冷静に、返事の後に震える手で私に小さくピースサインを送ってきた。
私もそれに応えて笑顔でピースを送る。これで二人とも合格。
勝ち無しのシャルでさえ剣術の腕を評価され、騎士団入団になったのだ。
これなら、全勝の私ならーー
「――、――……以上の五十八名は、本日を以て『アウナス聖教騎士団』の見習い騎士に任命する! これからは心して己の精錬に全力を尽くせ! 以上だ!」
え?
……――あれ?
わたしのなまえ、は?