第1節 始まりの赤(4)
「そうだな。ファセット先生に教えられたことは試合中に実践できた。負けはしたが、悔いはない」
「うん。先生はどうしようもないアレだけど、剣の術だけは確かだからね。きっと大丈夫だって」
「〝アレ〟って。一番お世話になってるお前が、それを言っちゃだめじゃないか」
くくっ、と微笑をたしなめながらシャルが言う。
私は胸を張って、
「付き合い長いから言えるの! 一緒に暮らしてる私の身にもなりなさいよ。あんな人と過ごせば、そりゃあ家事炊事も五歳で全部覚えるわ」
「あー……ははは、納得」
納得しちゃったか。先生の人柄ゆえ、しょうがない。
傍らで人差し指を唇に、うーんと唸ってミストが言う。
「こんなに長い間習ってて言うのもあれだけどさー。先生って一体何者なんだろうねー?」
「何者っていつも言ってるじゃない。『永遠の狩人』じゃないの?」
女の子の、と付け加える。
おふざけ満載の私の返答に、にゃは、とミストは細い目を更に細めて笑った。
実際に、なんで私や彼女たちに進んで剣を教えているのかと聞いても「かわいい女の子たちと四六時中にゃんにゃんしたいから」と返してくるのが先生だ。女の敵以外の何者でもない。
「でも、どうせ口だけで、実際に手を出されたことってないだろ? ルビィ」
「んん……、時々変なコトしてくる時あるけど……」
私のセリフに、二人はくわっと目を見開いた。
「本当か!? 大丈夫か!?」
今さら驚くとこかな、そこは。
「慣れたら負けだから、全力で抵抗してるよ」
「ど、どんなことされたのー!?」
「そ、それはちょっと……言えないかな」
おいおいおいおい、そんなに大したことじゃないって。
なんで顔を赤くしてきゃーとか言うんだ二人とも。
なんだかこちらの黄色い声に周りの視線が集まりつつある、その時だった。