第3節 移りゆく澄(9)
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能天気に出来上がったオルロフさんに断り、宿屋の一室に帰ってから、私はさっきの歌の内容を思い返した。
つまり概要はこうだ。
遥か昔に、人はこのセルキア大陸に進出しようとした。
けれどそこには未知の獣たちがいて、更には竜という恐ろしい怪物も住んでいた。
そのおぞましい生物の一角を討ち取った者が居た。それがジークフリードという青年。
竜の血を全身に被り、そして浴びるほどに飲んだジークフリードは桁外れの力を得て、他の竜を次々に破る。
決戦を終えて帰ってきたジークフリードの力を恐れた人々は、彼を封殺しようと地下へ封じた。
ジークフリードは怒り、地上へと抜け出て人々の血を吸った。
竜の血の美味を忘れられず、渇きを潤すために次々と人の血を啜ったのだという。
竜のような鋭い犬歯で。
それってつまり――
「吸血鬼じゃない……」
吸血鬼。人の血を吸い、自らの生命力とする魔の存在。
間違いない。
この私の性にある『ジークフリード』とは、もともとは竜狩りの英雄にして吸血鬼だったのだ。
そしてレイリィは私をキュウケツキだと言った。
先生は私を『吸血鬼』ではない『キュウケツキ』だと言い切った。
これは偶然なのだろうか? いや、偶然にしては、誰かの手がかかって因果を結んでいると考える方が筋道立つだろう。
非現実的な伝説とはいえ、些細でも何か関係がある。
――関係があるとすれば、いの一番に怪しいのは先生だ。
この名前に私を命名した親同然の先生。おそらく一番謎に近いだろう人物である。
やはりあの時、先生はまだ私の事について隠していることがあったのではないだろうか?
吸血鬼かキュウケツキかに関して分からないというのは本当なのだろうけれど、まだ先生の言う『戦友』の話について何も聞いていない。
いわく、その人は私と同じなのかもしれない、だとか。
同じとは? 人血恐怖症だということか?
「……だめだ。どうしても手詰まりだ」
鎧を外したベッドの上で、天井に吊るされたランプの火を顔に置いた腕の隙間から垣間見る。
チリチリと僅かな音を放ちながら揺れる灯は、不規則な音程で眠気を誘ってくる。
久しぶりのまともなベッドの上だ。ここ三日間は草の上で簡素な布を敷くだけだったのだから、起きたら全身が痛いったらなかった。
今夜はそんな不安は無い。寝返りでわき腹に小石が引っかかって目が覚めるということもないのだ。
竜狩りの伝説。
堕ちた吸血鬼の英雄。
そしておまけ程度にくっついてくる、聖者ルナンの関与。
小難しいったらない。自慢ではないが、頭の悪さには自信があるのだ。
そして何より、外見以上に根はものぐさだ。
幼いころから先生の世話をしているから、それに本性が隠れているだけだと思う。
現にこうして、例え分からなくても考えなければならないことに対する思考が浅はかなまま途絶えてしまう。
まぁ、こんな暖かいベッドの上でそうそう考えが巡るはずもなく、気がつけば私の両目はまぶたの裏を見ていた。




