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第1節 始まりの赤(3)

「二人はどうだった? まさか一勝もできなかったってオチじゃないでしょうね?」


「そのまさかだ。私の方はとてもじゃないが試合にならなかった。段違いというものを思い知らされた気がする……」


「あっ、あたしは10戦3勝ってとこだなー。やっぱり騎士団の人って強いよねー、いくら見習いの人たちでも」


 ミストの後ろの方の言葉にぴくりとシャルが反応する。


「え、な、なんだって? あれで騎士見習いなのか!?」


「む、そりゃそうでしょうよシャルちゃん。本家本場の騎士さん達なんか出てきたら、試験になんかならないってー。一方的にやられておしまいじゃんかー」


「それでなくとも一方的だった私って……」


 頬を引きつらせ、シャルはがっくりと肩を落とした。

 しっかり者の彼女が落ち込むのって、あんまり見たことがない。


「まぁまぁ、合否判定って勝敗だけが全部じゃないっていうじゃん! 内容が良ければ通るって話だし、今回は合格枠もすごく多いから」


 あからさまに慰めてみる。むぅ。全勝の私がこう言っても、ただの嫌味なのではないだろうか。

 しかし、ぺったんこで全敗ときたら、さほど頭の回りがいいとは言えない私にとって、激励の難易度が空に漂う雲のように高くなる。ヨイショのしようがない。


「まぁ、それもそうだな。結果が出てから落ち込めばいいことだ」


 あぁ、立ち直りの早さに救われた。主に私の体裁ていさいが。


「これに落ちたら多分、家業を手伝うことになるんだろうなぁ……ずっと」


「家業ってことは、農婦のうふってこと?」


 シャルの家は代々続く農夫の家系だったはず。


「そ。もともと父も母も、私が騎士団に入るなんて反対なんだ。いつどこに派遣されて戦いに巻き込まれるかって分からないから、危ないぞってね。親馬鹿だと苦労するのは子供だよ……」


「あたしも同じようなものかなー。試験に落ちたら、母さんと同じ学者になれって言われるだろうしー」


 親、か。

 とてもじゃないけれど、両親の居ない私には無縁な話でしかなさそうだ。


「でも、絶対みんな通るよ。なんたって〝先生〟の弟子なんだから」


 この二人も私の先生の教え子だ。


 私と一緒に剣術を幼いころから教わってきた、いわば弟弟子というところにあたるのだろうか。

 私たちの先生は、その昔この国で名を馳せた有名な騎士だった――らしい。

 当時の騎士団長と一緒に数々の修羅場をくぐってきた猛者だったそうだが、戦いの中で右足の腱を切られ、それを機に第一線から退いたそうだ。


 といっても、それらは全部が全部聞いた話の範囲でしかない。


 とてもではないが普段の先生の素行を見る限りでは、勇退した名誉的な戦士とは思えない。

 その辺の路地で酒瓶を片手に明け暮れる浮浪者か、博識すぎて世捨て人になった学者か。

 達観の仕方が桁違いのためか、ともかく変わり者に見える。

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