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第2節 零の白(12)


 さすがにそれは聞いてなかった。

 そういえば、オルロフさんは聖教騎士団の中でも五人しかいない副将なんだ。

 入団試験の時に試合で初めて顔を合わせて以来、あまりに温厚な人柄のせいで、そのことを忘れがちだ。だから特殊任務の部隊長に任命されてもなんら不思議はない。 

でも、それって裏を返せば。


「ということは、部隊編成の決定権はすべてオルロフさんが?」


「ああそうだ。だから僕がダメと言ったら絶対にダメだ」


「じゃあ逆に、良いと言えば絶対に良いんですね?」


 こんな切り返しを予想していなかったのか、オルロフさんはもう一段階眉をひそめた。

 この人がここまで険悪なかげりを見せることはあまりない。

 すでに今日は二度目だけど。


「だろうがな。しかし僕は君を加えるつもりはない」


 少し怒気の混じった声色で断言する。私は自然と食い下がった。


「頭からダメって、なぜですか」


「なぜ、はこちらの台詞だ。なぜ君がそこまでこだわる? 身の凍るような恐ろしい目に合ったというのに、なんで首を突っ込みたがるんだ」


 瞬間。

 瞼の裏に、あの時の光景が浮かび上がった。


「ただでさえ君は生き残って疑いをかけられている。それに正直に言って、恐怖を埋め込まれた君が同行したところで役に立つとは思っていない」


 鼻孔を記憶の悪臭がくすぐり、視界を幻覚の赤が覆う。

 頭から順に、全身に何千もの細針が突き立つように、鳥肌が広がっていくのが分かった。

 自然と震えもきた。肩や足の感触がなくなるのは、震えているからだ。

 血を思い出すといつもこうだ。


 足が竦む。頭が痺れる。肩が揺れる。

 内臓が痙攣する。焦点が合わなくなる。体の芯が凍てついていく。


 あの時――血まみれの床を踏み散らしてレイリィに斬りかかれたのは奇跡と言っていい。

 シャルとミストの仇を、と思うと、周りの一切が見えなくなった。

 友達二人が倒れていればそうなるのは当たり前だ。錯乱が錯乱をかき消したんだろう。

 確かに怖い。私は血を何より恐れている。それだけは認めざるを得ない。


「確かに、私は役立たずのまま終わるかもしれません」


 けど、だけど……!

 力の入らない腕に剣を一本貫き通すように、私は腕を張り、手のひらを固く紡いだ。


「戦わなくちゃ……私は今この恐怖と戦わなくちゃ、一生逃げ続けることしかできなくなる」


 弱い自分を見たくない。逃げだす自分を軽蔑したくない。

 未熟と言われても、幼稚と言われてもいい。


 自信は勝手に生まれるものじゃない。自分のこの手で勝ち取るものだと先生に教わった。

 ならばそれが、私が私にてつける――騎士の道だ。


 自分の矜持と、恐怖の闇に塗りつぶされた未来を拓くために、ここで立ち止まることはしたくない。

 それに――


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