第2節 零の白(11)
山沿いの天気よろしく、表情を変えて朗らかに言う。
移り変わりに混乱するこちらにも少し気配りが欲しいところだ。
「大体、どんな形であれ、レイリィにそそのかされて友人を殺すような君じゃないとは分かっていた。今ので確信したよ。君は礼を失する人間じゃない、失する時は必ず強い理由がある。僕は、その理由が義憤にある方だと信じよう」
……怪我の功名だろうか。
けれど失礼は失礼だ。私はもう一度身をすくませつつ直した椅子に座り、上手く動かない口で謝る。たぶん、頭から湯気とか出てるんじゃないだろうか……。
「その……すみません」
「気にしないで。あらぬ疑いを、ましてや親友に対する殺人の濡れ衣を着せられれば当然の反応だよ。――というか、少しでも言い淀むようであれば、すぐさま拘束しろとのお達しだったんだけどね」
「お達し? 誰からのですか?」
「もちろん審問部だよ」
さも大事ではなさそうにオルロフさんは言ったが、私は反射的に驚き、背筋を正した。
教会の中枢を束ねる審問部。聖教騎士団を超えた教会の最上層から、私は疑われていたというのか?
「しかし、随分とその噂が広がっちゃってるんだ。周りの騎士たちも怪しがっている。そんな中に君を放り込むのも酷だと思って」
「それで裏口から、ですか」
お察しどおり、という笑顔でオルロフさんが首肯する。
確かに一対一で話をするだけなら、集まりの中にいる私を引っ張りだせばいい。
問題はその集まりだ。あのまま正門をくぐっていれば、わけも分からぬまま、疑いの視線を浴びる羽目になっていただろう。
朝礼に参加する人数は、守兵などの任務についている者以外の約三百人。
まだ三ヶ月しか居ない私にとって、顔見知りでない人の方が多いのだ。そんな中に居たら、いくら無神経な私でも気がおかしくなりそうで怖い。
もし本当なら、気を使ってもらったオルロフさんに感謝すべきだろう。
「でもまぁ、これ以上ない答えをもらった。僕の方から審問部と皆には弁明をさせてもらうよ」
「はい。あっ、それと、オルロフさん」
「ん?」
「先生から聞いたんですが。騎士長の、いえ、レイリィの追撃部隊が編成されるのは本当ですか?」
訊くと、オルロフさんはまた、逆さに置いた弓のような険しい口に戻った。
表情が豊かというか、実直な人だから、感情の挙動が顔に出やすいんだろう。
先生も見習って欲しいものだ。
「ああ、本当だ。一般の騎士に告げられるのは今日の朝礼だと聞いている」
本当なのか。だとしたら。
「オルロフさん。私はその中に入れますか?」
私は目尻に力を入れて訊いた。
なんとしても、もう一度レイリィに会うと決めたのだ。
その部隊の中に入れば遠方まで捜索が可能になるだろう。
少なくとも、クロイツで悶々と燻っているよりは遥かにいい。船がなければ渡れない。けれど、期待をしていた矢先、返ってきた答えは意外なものだった。
「〝ダメ〟だ」
ダメ? なんでそんな返答なんだ。
「だ、ダメって、どういうことですか?」
「……これは聞いていないのか? レイリィを追う部隊の隊長は他でもない、この僕なんだよ」
――っ!!




