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第2節 零の白(10)

 ――はい?


「へっ……どういう意味ですか?」


 改めて訊くと、オルロフさんはガントレットの両手を組んで言う。


「考えてもみてくれ。あの事件――レイリィが作り出した惨状で、生き延びたのは君だけだ。ということはつまり、なんらかの意図があって、レイリィが君を見逃した可能性が高いわけだろう? 腐っても英雄と呼ばれた彼女だ。どんな目的があるのかは以前知れないけど、余計な目撃者をやすやす逃すほど抜け目があるとは思えない」


 ひどく、嫌な予感がした。


「ましてや、君は彼女に一度斬りかかったと言った。ならば、君が確実に死ぬとは言わないけれど、最低でもどちらかの屍が生まれなければ筋合いがおかしいんだ」


「な、何が言いたいんです……?」


 オルロフさんは、普段は穏やかな目つきを尖塔のごとく研ぎませた。

 さっきまでの優男じみた影は無い。

 気圧されるような神妙な空気と一緒に告げられる。


「単刀直入に言う。君は今、疑われているよ。レイリィの〝共犯者〟ではないかとね」


「っ!!」


 耳を疑った。


……嘘だ。

 よりによって共犯の疑いだって? この私が?


「順当に推察すれば出てきてしかるべき可能性の一つだ。もちろん、証拠も何もない。しかし、勘繰りだすと止まらないのが人間だ」


 ――――。


「だから、公然の場での追及は避けて君と一対一の場で話がしたかった。他がうるさいからな」


 ……るな。


「正直に答えろ。ルビィ、君は――」


「ふざけるな!!」


 自然と喉をいて怒号が出る。

 重ねて、机にガントレットを叩きつけて上がる打音と、立ち上がった反動で倒れる椅子の物騒な音。

目の前には、両目を見張って――見ようによっては、座ったまま殺気立った風貌のオルロフさんがこちらに焦点を結んでいた。


 明瞭になった視界が映す一瞬が途方もなく間延びする。


「あ……」


 数秒を経てやっと、私は席を蹴飛す勢いで立ち上がって怒鳴ってしまったのだと気付いた。

 やってしまった――感情的になると口や手が先に動く悪い癖だ。

 体中に突き刺さる沈黙が耳に痛い。

 と、すると。


「ふっ、フフフ」


 オルロフさんは相好を崩し、小さく含むように笑った。

 冷や汗が背中をなぞる私を目の前に置き、次第に笑いは大きくなり、フフフからクククを経て、ついにはハハハと大笑になった。

 きっと、今の私はすごく素っ頓狂な顔をしているだろう。意味が分からないから。


「ああ。実のところ僕もまったくふざけた話だと思うよ。君の落ち込みようを間近で見ていれば、そんな疑いをするものか」

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