第2節 零の白(4)
「ルビィ。確かにあの二人は死んじまった。けど、それを無駄死にするかしないかは、まだ生きているお前や俺が価値付けることなんだ。あいつらとの思い出を自分の血肉として、自分の力として迎え入れるのか――それとも、いつまでも引きずって亡霊に取り憑かれるのか」
死者に取り憑かれる……今の私がそうであるというのだろうか?
「少なくとも死んじまったあいつらはお前の泣き顔なんて拝みたくないと思ってるだろう。友達思いのやつらだったからな。だったら、俺らができる本当の弔いっつったら、墓を足蹴にするくらいの勢いであいつらの屍を越えていくことなんだと思うぜ。――だからつらくても自分で答えを出せ。それを繰り返すことが〝生きる〟ってことだろ?」
生きる。
それが、残された人間の使命なのだろうか。
哲学なんて難し過ぎて全く分からないことだ。
けれど、今なら実感できる。
答えのない問いに対して自分の答えを考えるということの難しさ。
他人の模範回答から導き出す自分の行く末。
散逸する選択肢から一本の道をつなぎ止めて選ぶということと、その道に対して負う責任。
覚悟と意志。
騎士長――レイリィが入団発表の時に言った激励の一言がよぎる。
自分の純然たる意志で、自分の求める騎士に。
今ならその意味の深さが前よりも少し見えるかもしれない。
選ぶということは責任を負うことだ。誰に対しても言い訳のできない道を踏むということ。
それに伴う覚悟と意志。目を逸らせない状況、目を逸らさない強さ。
先生も負ってきたことだ。ならばその愛弟子の私なら負えるはずだ。
ずっと教えられっぱなしだったんだ。ならば、そのくらいのことは自分で学ぼうと思う。
一番大事なことは、教えられるのではなく自分で吸収する。
それが師匠と弟子の最良の在り方だと、私自身が思うから。
……それにしても。
「……先生は卑怯です」
「あン? なんでよ?」
「先生はなんでそんなに……こんな時だけ〝先生〟なんですか?」
いつもこうだ。
普段はおちゃらけてまともに剣の振り方さえロクに教えようとしないのに、真剣な場面でだけは真剣だ。
そしてその言動は、計り知れない経験に裏打ちされた説得力と整合性が緻密なまでに詰まっている。
こういう質問をした時、先生はいつもこう返す。
ククク、と小気味の良い笑いを湛えて言うのだ。
「お前の〝先生〟だからなぁ」
まるで弟子であるこちらを誇るかのように、いつも言うのだ。
これでスケベでなければ、言うことナシなんだけどなぁ……。