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第1節 始まりの赤(1)

 突如として訪れた惨劇への日々。

 聖教騎士団、入団試験の結果発表の日までさかのぼる。

 さかのぼること3ヶ月。


 その日、アウナス聖教騎士団の詰め所はいつにも増して騒然となっていた。

 それもそのはず、今日は先日行われた騎士団入団試験の結果が発表となる日なのだ。


 アウナス聖教騎士団といえば、国直属の騎士団であり、この国に暮らすすべての武芸者の目指すべき頂点といっても過言じゃない。


 小さいころからの私の夢は、一人前の騎士としてみんなに認められること。

 幸い私は物心ついた時から達人と呼ばれる――とてもそうは見えないのだが――先生の下で、ずっと剣を握り、そして振るってきた。


 その成果もあって、私は剣術に関してはここに集まった誰よりも強い自信がある。

 おごりではなく、その証拠に私は入団試験で現役の騎士達との真剣勝負で、10戦10勝という輝かしい成績を収めていたからだ。

 周りに聞いた話では全勝というのは私だけらしい。

 まぁ、最後にはちょこっとだけトラブルもあったけれど。


「合格……するよ、ね?」


 喧騒けんそうから離れた詰め所の隅にある、ちょうど私の背丈と同じくらいの高さの細長い鏡と向き合うと、その中にはやたら不安そうな内面を苦笑いで隠そうとしている、紅い眼の女の子が映っていた。


 短く刈られた黒に近い深紅色ガーネットの髪は、戦いの時に邪魔にならないようにという実用的な配慮だ。

 長ったらしい髪が目に入ったせいで相手の剣が避けれませんでした、ではお話にならないし、笑えもしない。


 着ているのは動きやすいようにカットした太ももまでの黒いローブ。

 その上に簡単な胸当てにガントレット、そしてひざ下からはロングブーツという出で立ちとなっている。我ながら着こなしに関してはいいセンスをしていると思う。


 うん、ほどほどにかわいい。

 騎士団に入れば紋章付きのプレートメイルが配給されることだし、こちらでは本格的な鎧は用意していない。


 そういう意味では、もはや受かる気満々だと言えなくもない私ではある。

 忘れてはならないのが、腰にぶら下がる大剣クレイモア

 鞘と柄だけで、相当の意匠が感じられる私の愛剣だ。

 めいはエティクスという。鍛冶を本職としている先生が私のために打ってくれた、最高の剣である。


 こればかりはちょっとした自慢で、鏡に映る自分を見ると、これを前面にアピールしたポーズを自然ととりたくなってしまう。私の腕力に合った重量や切れ味とかの性能はもとより、それほどカッコいい一品なのだ。


 例によって腰に手を当て、私の持つ強い騎士のイメージ――果てしなくキザな顔を真似て自分の世界に浸っていたところ、唐突に後ろから元気の良い声がかかった。


「おっす! ルベウスちゃん、おっはよう!」


「……ルビィ。そのクセ、いい加減なんとかしないか?」


 快活な女の子の声と、ため息混じりの大人びた声。

 幼いころからの耳馴染みの声でもある。

 振り向くと、そこにはやはり予想通りの二人が立っていた。

 ちなみにルビィというのは、親しい人が私を呼ぶ時の愛称だ。


「え? クセって?」


「自分で分かってないのか? お前、鏡の前に立つとやたらかっこいいポーズを決めたがるじゃないか。……人目も気にせずにだ」


「それって普通じゃない? 鏡ってそのためにあるんでしょ?」


「身だしなみを整えるためのものだろ。自分に見惚れるためのものじゃない」


「にゃはは! ルビィちゃんスタイルいいから、どんなポーズだって似合うもんねー。妬いてるんじゃないの? 胸がプレートメイルのシャルちゃーん?」


「うぅ、うるさいぞミスト! ぺったんこって言うな! お前もほとんど私と変わらないじゃないか!」


 ぺったんこなんて言ってないよ、シャル。それって分かりやすい自爆じゃんか。

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