第1節 始まりの赤(16)
目が合っているだけで、まるで剣を握り、一対一で対峙しているかのような錯覚を感じさせる迫力。力強さと威圧性。
受ける印象は高圧的なのにも関わらず、不思議と親近感が芽生える。
こういうのをカリスマというのだろうか。
見られるがままに惹きつけられる――見ようによっては何かの意図が感じられるような――強い眼差しだった。
「それで? 今しがた言ったことは本当かな、司祭殿」
再びレイリィは視線を司祭に戻す。
動作のいちいちが流麗で、優雅すぎる雰囲気を放っている。
「何のことだ?」
「ルベウス=ジークフリードが失格という件だよ」
途端に、びくっと肩がすくんだ。
咎められたわけでもないのに、名前を呼ばれただけで驚く。私らしくないが、今は失格の通告を受けて少し繊細になっているのかもしれない。
なぜ自分の名前を騎士長が知っているのだろう?
そんな疑問は、その時には生まれる余裕がなかった。
「本当だ。審問部は彼女を聖騎士団に入れるのは不適応だと判断した」
「ふぅん……理由は?」
「聞いていただろう。極度に血が駄目だからだ」
おさらいのような反芻に苛立って、私は目から熱がこぼれないように奥歯をぎゅっと噛んだ。
何が騎士。何が剣士。何が憧れだ。
どれだけ剣を振れようと、それだけで私にはどちらにもなる資格など……。
「お前らは馬鹿か?」
――っ!?
あまりに唐突な揶揄は、私に投げられたものでなく、司祭に向かって放たれたものだった。
この集まりの中で堂々と騎士団を統括する組織――審問部の司祭に向かっての罵倒。
場が神妙な空気になり、迂闊に息さえもできないような緊張感が静寂に混じる。
対して、若い司祭は大きく動じることもなく、訝しげな目つきで騎士長を見返した。
「それはどういうことだ?」
「文字通り、馬や鹿と同程度な頭か? という意味だよ」
極めておかしげな口調で続ける。
「なんでも剣技試験で見習い騎士に九勝。最後に手加減したとはいえ、オルロフまで圧倒したそうじゃないか。その話をやられた本人から直に聞いてね、気になったんだ。それで? よりにもよってそんな逸材を失格にするっていうんだから、馬鹿な話以外にないだろう?」
「だから、再三言うように――」
「人が斬れなければ騎士ではない、ということか? ――戯れるのも大概にしろよ無能ども」
「なっ……」
途端に真剣な口調になった騎士長の口調に、司祭は意表を突かれたように頬を引きつらせた。
人が言い争いで一本とられた時にするような分かりやすい顔だ。