表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/79

第1節 始まりの赤(14)

 

 言下に、私のすぐ横に佇むレイリィはダガーを振りかぶった。

 認識できても反応できず、真っ直ぐと投げ放たれたダガーが私の頬を掠め、吐瀉物を敷いた床へと突き立つ。


 冷めた金属が右頬をなぞり、同時に生暖かい感触の液体が首筋を伝った。

 痛みはない。感じ入る余裕がない。

 むしろ温度を感じる右頬から首筋までの皮膚がピリピリと痺れるように痛む気がする。


 すると、レイリィはこの期に及んで艶笑えんしょうを浮かべながらきびすを返した。

 鎧の下に着る騎士用の白いローブの裾を翻して、私の入ってきた正面出口へと歩んでいく。


 それを追う気力が湧かない。仮に立ち上がれたとしても、再びうずくまる様なイメージしか沸かない。

 もう、精神的に完膚なきまでに敗北しているんだ。

 私は、立ち上がりたくない。それがおそらくは本音だ。どうせそうだ。


「お前は生かす。情けではない。〝あの人〟の子だからだ。もしその気があるなら、借りを返しに来い。下らない因果に囚われた『ルベウス=ジークフリード』としてではなく、一人の『騎士』としてな」


「くそ――待てっ!」


 去っていく背中が遠くなる。

 必死にそれに手を伸ばそうとしても微動だにしない。膝が床から離れないし、腕が上がらない。

 なんで、なんでなんだ。

 なんで殺すんだ――なんで、友達を殺した仇にさえ私は触れられないんだ。

 血ごときが、なんで怖いんだよ……っ。


「お前の友の仇は私だ。殺してみろ、キュウケツキ。――私が勝手に死ぬ前にな」


「何、を?」


 キュウケツキ……一体、何の事を言っているんだ?


 私が吸血鬼だとでも言うのだろうか。そんな面白くもない冗談は聞きたくない。

 悪質な皮肉でなければなんだ。

 言い切れないまま、強烈な寒気とともに、私の意識は遠のいていく。

 その直前に振り返ったレイリィの顔には。

 本当に言葉どおり、私に憐憫あわれみの情を送るうれいの目があった。




 それから私が次に目覚めたのは、まるまる一日経った翌日の夜だった。

 そこに、それまであった安寧は、蜃気楼しんきろうのように消え去っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ