第1節 始まりの赤(9)
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「なんなのこれ……!? まさか全部、あなたが」
「…………」
「騎士団長――あなたがやったのか?」
膝をついたまま問う私に、レイリィ=シアンは押し黙った。
果て知れない空の色を映すような二つの眸が、一片も揺らぐことなく、それでいて私を睨みつけるでもなく、ただ茫とこちらを眺めている。
不動であればまるで彫像のようだ。感情を知らない、人間の造形をなぞっただけの彫像。
しかし、彼女はやはりただの石像ではなかった
なぜなら。
そうして、次に嗤ったからだ。
返り血を一滴も浴びないままの、白皙の口元で、妖しく笑んだのだ。
宛てつけるように、私に向かって。
「あぁ、そうさ。それがどうかしたか?」
「どうかした、か……?」
何を言ったのか、瞬時には分からなかった。
少しずつその意味をくみ取り、私は、床についていた手をゆっくりと拳に変えた。
「ええ、そうだ、どうかしてる……! 自分のやったことが分かっているんですか!?」
「分かっている。ただの〝殺し〟だ」
「なんで……? 何の意味があって!?」
「お前に話す義務は無い」
「ぎ、義務って……それは無くたって、どんな意味があったって! これがっ、これが人間のすることですか!?」
「〝人間〟だからだよ、ルベウス。共食いをする動物はいるが、互いを『殺める』種族は人間くらいなものだ」
「そういうことを訊いてるんじゃありません!」
混乱が頭の中で渦巻いて、自分が何を言っているのかも良く分からない。
一体、何が起きているんだ?
惨状の上に降りたった聖者と、まるでその降臨のために生贄に捧げられてしまったかのように、床に拡がる四肢の破片。
不意に、床に伏している死体に目が行った。
普段の私なら直視さえできないだろう、人間の残骸。
教会のシスターや神父、それに一般の人もいる。居並ぶ椅子にまき散らされている。
その中に――レイリィのほど近い足もとに、見慣れた軽鎧に身を包んだ死体が――二つ。
私の着ているものと同じ、背中に霊鳥の翼が描かれた、銀色のプレートメイル。
教会の警備兵。騎士団員。
……同僚、仲間。