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甘酸っぱい窓際

作者: 先生きのこ
掲載日:2016/08/05

まだ冷たい雨が降る季節。


僕は彼女の部屋に居候させてもらうことになった──。

 水無月。


 雨の降る日、僕は彼女と同じ部屋に住み始めた。



 同棲と言ってしまえば聞こえはいいが僕は彼女と付き合っているわけではない。むしろ主従関係といったほうがしっくりくるだろう。

 今はこうして彼女の部屋に居候させてもらっている身だ。


 

 普段、外出することもなくこの家に来てから一歩も外に出ていない。

 食事や身の周りの世話は頼んでもいないのに全て彼女がやってくれている。



 僕は彼女の好意に甘え、のんびりと毎日を過ごしていた。



 そんな僕のお気に入りの定位置は日当たりのいい窓際の棚の上。

 南向きの間取りは日の出から日没まで存分に部屋を照らしてくれる。


 まだ肌寒い夜のうちに冷えた体を柔らかな陽射しで優しく温めてくれるので、とても心地よかった。



 一体、彼女は無口な僕のどこを気に入ったのだろうか。


 いつも一方的に話し掛けてきては、時折頬に小さなえくぼを作って笑顔になる。

 それを僕は黙って見て聞いている。



 不思議な女だ──。




 文月。


 この部屋に来てから一ヶ月が経とうとしていた。

 気温も日に日に高くなりはじめ、水を飲まなければ干からびてしまいそうだ。


 時間が過ぎていくのは早いもので今ではここにいることが当たり前のように感じている。



 相変わらず甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女は日課のように僕に話しかけ優しく触れたあと仕事に出掛けていく。

 たまに寝坊をした日は簡単な化粧を済ませバタバタとスーツに着替えると、朝食も摂らずに出ていくこともあった。



 当然、僕のご飯もお預けだ。

 けれど居候の身としては肩身が狭く、図々しいことは言えないので黙って見送っている。


 少しくらい飲まず食わずでも平気な体質なので差し詰め問題はない。



 夜遅く酔っぱらって帰ってきた日には明かりをつけたままスーツ姿で寝てしまうこともあった。

 同居の身として介抱してあげたいが無意識の彼女の体に触れるわけにはいかないので自然に目が覚めるのを待つとしよう。



 無防備な女だ──。




 葉月。

 

 これまでの穏やかな暮らしが一変した。

 彼女はこれまで僕のお気に入りの定位置からあろうことか外のベランダへと追いやった。



 一体、僕が何をしたというのだ。

 知らぬうちに彼女の気に障るようなことをしてしまったのか。


 確かにここ数ヶ月で僕の体は見違えるほど大きくなった。

 けれど、それだけで我儘を言ったこともなければ五月蠅くした覚えもない。 



 雨の日も照り付ける強い陽射しの日でも関係ない。

 それ以降、部屋に入れてもらえることはなくなった。



 ベランダの隅の一角。ギラギラと容赦なく直射日光が降り注ぐ場所が新しい定位置。

 とても暑い。風もぬるい。



 そんな僕の気持ちなど露ほども知らない彼女は変わらずニコニコと笑顔で僕を撫で微笑んでいる。

 行動と表情が伴っていない。


 

 理解しがたい女だ──。




 葉月。


 僕に子供ができた。

 たくさんの子供ができた。



 もちろん、僕と彼女の間に授かった子供ではない。



 子供の成長は早く、初めは小さく青々しい顔も日が経つごとにみるみる大きく成長し真っ赤に染まった頬で張りのある顔つきになった。

 彼女も子供を見て今まで僕に見せたことが無いほどの笑顔を振りまき喜んでいる。



 ほんの少し痛みが刺したが、僕は平気だ。

 なにせ僕はこの子たちの親なのだから。弱気な言葉など胸に秘めておこう。



 と、そんなある日。


 変わらず語り掛けてくれていた彼女は、満面の笑みを浮かべながら僕の子供を攫っていった。

 僕の子供の命を易々と摘んでいった。



 あろうことか攫った子供の身体を水道水で綺麗に洗うと、おもむろに口へと運び僕の目の前で一口に食べてしまった。

 



 むしゃむしゃと。

 ぺろりと平らげた。


  

 そして、一言。



 「ん、自家製のトマトって甘酸っぱいのね」



 恐ろしい女だ。


初の短編小説を書いてみました。

気分転換に丁度いいです。



これからもちょこちょこと挙げるかもしれません。

また、会える日を楽しみにしております。


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