ロッカーの中の少女が勉強教えてくれるとか信じたくない。
あれから何時間が経過しただろうか。
人が入ってきそうになって、その恐怖から解放された後、僕らは何時間もお喋りしたことで分かったのは、彼女はアニメやゲームなどの二次元世界以外の事にも広い知識を持っていた、ということだった。
例えば、脳科学。
人はどうして物事を忘れてしまうのか、人間の脳みそには幾つかのタイプがあること、脳を構成している成分について、彼女は本当に色々知っていた。
僕は彼女に聞いてみた。
『大事なことも忘れちゃうなんて、人間って情けないよねw?』
彼女はこう教えてくれた。
『でもさ、人間には忘れることが必要なんだよ?生まれた時からずっとのこと全部覚えてると、いつか精神崩壊しそうだし。それに、本当に素敵な記憶なら絶対忘れないんだよ!』
僕はそれは嘘だと思った。初恋の子の顔、初めて行った海外旅行、小さな頃好きだった絵本。どの記憶もおぼろげすぎて、思い出すことすら頭が痛くなるんだから。
でも、彼女はさらに続けた。
『それは、きっともう君にとって大事ではなくなってしまったのかしれないよ。もう夢だったか現実だったかもわからないけど、4、5歳の時に見たお花見後の満開の桜を今でも覚えてる。今まで好きだった人たちの顔はまだ忘れてない。肌寒い冬の温度は、夏になっても忘れない。それは全部自分で忘れたくないって思って、記憶を留めたり、目に焼き付けたりしてるからなんだ。だから、絶対に忘れたくない記憶は自分で覚えていられるんだよ!』
そっか、そうかもしれないな。今は何も思い浮かばないけど。。
それから数学。
僕はこう言った。『数学を勉強をすると、時々無性に嫌になるんだ。。問題が解けないと、面倒になってくるだろ。』
すると彼女はとても素敵なアドバイスをくれた。
『こう考えながら数学を解くといいよ。「僕は今数学を殺しているんだ。僕がお前(問題) を解くことでお前は死ぬんだ。」ってw』
『…なんか凄いなw それって経験則?』
『まあね(笑) 呪詛の言葉を心の中で吐き続けるとより集中できるんだよ〜。問題を解くことでその教科を殺すの。そう思えば、より問題を解くことに専念できる。だってその教科が、その問題が憎いから。 ね、いいアイデアでしょw? 数学以外の教科でも使えるよ!』
さらに、家庭科。
『料理ってニガテなんだよw 包丁怖えーし。リンゴとかジャガイモの皮なんか繋げて剥くとかできないし、する意味だってないじゃないか。』
僕が愚痴ると、彼女はこう僕を励ます。
『将来嫁がもらえなかった時に、自分で料理ができないとつらいぞー。最初は自分のやり方で剥いてると、そのうち上達するんだよー。』
『なるほど、経験値がモノを言うってことかw』
『そゆことw ゲームと一緒さ。』
この数時間で、彼女は僕にとって、とても大切な存在になっていた。
このまま永遠に話していたい。そんなことまで思ったが、ちょっとした問題が発生した。
下校時間のチャイムが鳴ったのだ。
帰らなきゃいけないことがここまで面倒になることがあるなんて、今まで思ってもみなかった。