誰かがロッカーを開けに来たとか信じたくない。
人がやってきて、このロッカーを開けにくるという現実に、僕はひたすら目をつぶって『これは夢なんだ。きっと休み時間に寝てしまったんだ。』と自分に言い聞かせたくなる。
が、そこで先に行動を起こしたのは彼女だった。
音も立てずに膝立ちになり、巻かれている針金を確かめる。
そうだ、すでに針金が巻かれて、ドアを開けられなくしていたんだった。さらに彼女は自分の髪の毛からヘアピンを3本取り出して取っ手に刺す。
僕にはピッキングとかよくわからないけど、彼女にはその知識があったらしい。ピッキングでドアを開けることができるなら、ドアを閉めることも可能なはずだ。
中居くんがドアを引っ張る。
「あれー?先生ー、これ開かないみたいっすねー。」
「中居くん、きちんとした敬語を使いなさいと何度言ったら分かるんですか?」
「えー、はーい。」
そんなやり取りをしながらも、中居くんことチャラ男は力ずくでロッカーのドアを開けようとする。
彼女は針金とヘアピンを使ってドアを閉めてもまだ安心できないらしく、必死で取っ手を抑えている。
「先生ー。これマジで… じゃなくて、これは本当に壊れているようですが。。」
「仕方ないわね。じゃあほっときなさい。授業に戻りますよ。」
「はーい。」
中居くんが引っ張るのをやめた。彼女も、押さえるのをやめた。
どうやら運は僕達の味方をしたらしい。
僕は彼女がまた音を立てずに体育座りになるのを黙って見た。どうやったらそんなこと出来るんだろう?このロッカーは金属製だぞ?
彼女はヘッドフォンを外して、なにかをすごい勢いでタブレットに打ち込んでいる。
『絶対に音を立てるなって言ったじゃない!こんな思いはもう二度としたくない!!』
僕はそれに、こう返事した。
『本当にごめん。これからもっと気をつけます。次音たてたら僕が出て行くから。。』
彼女は僕をじっと見つめた後、タブレットを渡してきた。
『いいよ。失敗は成功の元とか言うし、次はないかもしれないね。いいよ、許す。』
僕はしばらくその文字を見つめていた。それから、思い切ってこう書いた。
『どうしてロッカーに入ってるの?どうしてロッカーから出たくないの?』
彼女は答えた。
『...ただ隠れたいんだ、この俗世から。』
僕は再び聞いた。
『隠れる場所が、なんでロッカーなの?』
彼女は答えた。
『さあ、なんでだろうね?理由があるのかもしれないけど、私にはわからないよ。』
僕は三たび聞いた。
『自分でもわからないことって、あるのかな?』
彼女はまた、答えたくれた。
『人生生きてりゃ、そういうことなんてよくあるよ。自分は知らないけど、自分の無意識な部分や深層心理、本能が知ってたりすることってさ。』
じゃあ、僕らの本能が、全てを知ってるってことなのかな?
だとしたらちょっと面白いかもしれない。
『もっとそういう話、してくれない? シンソーシンリとか、ムイシキブブンとか!』
『…いいよw』
僕らのタブレット会話は止まらない。