ロッカーの中の少女がタブレットで会話してくるとか信じたくない。
僕は結構現実逃避しがちだ。
テストの前も、勉強中も、大人になっていくという現実からも逃げようとする。
だからロッカーの中で、自分と同じぐらいの少女を見たときも夢だと思った。
…1回ロッカーの扉を閉めてみれば…
バタン。
...ガチャっ。
「だからさっきから何なんですか?」
「うああああああああああああああああああ!」
夢じゃないよコレ。。。
「あ、あの〜。どうしてそんなとこにいるんですか!?」
「それはね… あれ?誰か来た!早くあんたどっか行って!」
「え、ええ?」
「じゃあ中に入って!」
僕は少女に言われるままロッカーの中に入って息をひそめた。
確かに誰かが教室に入って来たみたいだ。多分、声からするとクラスの女子2、3人ってところだろうか。あいつらはいつも教室に帰ってくるのが早い。
そんなことを考えていると、少女がタブレットを見せてきた。
メモアプリみたいなのが開かれていて、そこにはこんなことが書いてある。
『教室に誰か人がいる時は、こういう風にタブレットで文字を打って会話して。』
そこまでするか!?
でも僕は今、一応彼女のスペースを借りている分際だし、ここは素直に従おうと思う。彼女からタブレットを受け取り、文字を打ち込む。
『君はどうしてロッカーに隠れているの?ここの学校の子なの?』
彼女は面倒そうにタブレットにこう書いて僕に見せた。
『あと10分ぐらい待ってくれないかな?今アニメの最終話見てるの。終わったら、話せることは話すから。あと、静かに座って絶対音をたてるな。』
…なるほど。これは待つ以外手段はなさそうだ。
僕は細心の注意を払って音を立てずに腰を下ろし、じっと待つ。
向かいの方に座っている彼女は、体育座りでヘッドフォンを付け直し、アニメの続きとやらを見ているようだ。僕が入ってくる前はきっと僕側のロッカーの壁に足を伸ばしていたんだろう。
幸いなことに、次の授業は国語だった。僕は国語が小学生の時には好きだったのに、大きくなって嫌いになってしまった。
あと、今の先生もあまり好きじゃない。
もしこの授業が理科だったら、ロッカーをさっさと飛び出してでも授業を受けていただろうなぁ。しかしそれは無理そうだ。僕がロッカーに入って来てから彼女はドアのとって部分を針金でガチガチに固定してしまったから。
つーか、なんでこのロッカーには内側に取っ手が付いているんだろう?
不意に彼女がタブレットを渡してきた。
『待ってくれてありがと。もういいよ、アニメ見終わったから。そういえばなんか私に聞きたいことがあるんじゃない?』
ここから僕が彼女とタブレットで会話をして、彼女のことを深く知ることになる。