出会いと冒険者ギルド
かなり長めに書きました。
黒のウルフ、黒狼を倒したあと少年を安全な場所まで運んだ。
「あれ……ここは?」
少年が目を覚ましたようだ。
「ようやく目を覚ましたね。パッと見たところあなた貴族?やたらボロボロだったけど、何があったの?」
やっぱり気になるのはそこだ。あんな時間に森の中にいる時点でわけあり決定だし。
「確かに僕は貴族で、イリアスと言います。助けていただきありがとうございました。」
礼儀正しい子だね~。
「なぜ倒れていたかなのですが、僕は度々家を脱け出してこの森に来ているのです。そして今回は運悪く強力な魔物に襲われてしまいました」
「それは災難だったね。それにしてもなんで家を脱け出してるの?」
「……強くなるためです」
なかなかに変わった子だね………人のことは言えないけど。
「力を付けて何がしたいの?」
「冒険者になりたいんです。世界は広い。なのに僕は家という狭い世界しか知らない。そんなのは嫌なんです」
考えは立派なんだけど、見た感じまだ幼いよね。ちょっと無茶し過ぎなんじゃないかな。
力を得ようと焦れば焦るほどに、命を落とす確率は高くなる。
さっきだって、私がいなかったらこの子は死んでいただろうし。
「その考えは立派だよ。でもね、無鉄砲にも程がある。下手をすれば君は死んでいたかもしれない。自分の力をちゃんと理解するべきだね」
「はい………、すみません」
「うん、素直でよろしい!ところでお腹空いてない?さっき狩ったやつ食べきれそうもなくてさ。」
というわけでイリアス君に捕ってきたやつを見せてみた。
「じゃじゃーん、さっきの黒いウルフ~」
「えええぇぇぇ!! それキラーウルフですよ!!!」
この黒狼はキラーウルフって名前なんだ。
前世では魔物は強いか弱いかでしか考えてなかったから、名前なんて意識したことなんか無い。
「そんなにすごいやつなの?」
「キラーウルフはC級ランクの魔物です。腕の立つ冒険者でなければ倒せません。あなたはいったい何者ですか!?」
ピーピーやかましい、いちいち騒ぎすぎ。
「ただの冒険者志望の村娘だよ。そんなことはどうもいいから早く食事にしよう。それから、明日町に着いたらギルドまで案内してくれないかな?私町に行ったことないからわからないんだよね」
「……はぁ、構いませんよ。あなたは命の恩人ですから御安い御用です」
あっさり引いてくれてよかった。何者かって聞かれて、前世では王国最強でしたなんて言えないしね。
よし、それじゃあ食事作ろうかな。
あ、そういえば調味料とか何もないや。まあ火通せば大丈夫だよね、しっかりと下処理はするから。
「なんか手慣れてますね」
「そりゃあ昔からやってるからね。慣れたもんだよ」
血まみれのアルの名は伊達じゃないよ。
「はい完成。味はないけど我慢してね。」
「ありがとうございます。あの………聞きたいことがあるんですが、あなたはどうして冒険者になろうと思ったのですか?」
どうして…………ね。
「まあ、村での生活に飽きたってのが理由の一つかな。さっき君が言ったように世界は広い。私はこの世界を周って様々なものを見たかったんだ。あとは、王国の今の様子を知るためかな」
「そうなんですか。最後の、王国の今の様子を知るためというのはどういうことですか? まるで昔を知っているような感じですね」
ちょっと余計な事を言ってしまった。適当にごまかしますか。
「両親から聞いたのよ。昔は荒れていたってさ」
まあ妥当なとこでしょ。
「食べ終わったなら、明日に備えて寝るよ。私が見張りをやるから、君は安心して寝てね」
「わかりました。それでは、おやすみなさい」
「うん、おやすみ~」
イリアス君が寝静まった後、私は一人考え事をしていた。
王都には絶対に行くつもりはなかったけれど、冒険者になるんだからいずれ行くことになる。
まあ、たとえかつての知り合いに会ったとしても、私の正体に気づくことはない。
それに私は今を生きていくと決めた。
「よしっ、王都で稼ごうかな。王都なら報酬の高そうな依頼もありそうだし」
とはいえ、まだまだ先の話だと思うけどね。
そして朝になった。
「おはよう、イリアス君。食事はできてるよ、昨日と同じだけど」
「おはようございます。作ってくださるだけでありがたいですよ」
うんうん、相変わらずいい子だね。将来は立派な人物になりそう。
食事を食べ終えた私たちは森を出発した。
半日ほど歩いてようやく町に着いた。
「やっと着いたねー。お疲れさま」
「本当に疲れましたね。ここまで本当にありがとうございました」
「じゃあ早速ギルドに案内してもらえるかな」
「はい、もちろんです」
そしてギルドの前に来た。
ここから私の冒険譚がはじまる……はず。
「こんにちわー、冒険者登録しに来ました」
中にいた人たちが一斉にこっちを見た。
「本気かよ、まだ子供じゃねえか」
「ここは子供が来るとこじゃねえぞ。帰りな」
全員が馬鹿にしたような感じで見てくる。すごくむかつく。
「ねぇ、イリアス君。ひとりくらい殺してもいいかな?」
「さすがに殺すのはやめてください。せめて半殺しでお願いします」
イリアス君、最高だね。わかってるー。
さあて、誰にしようかな。
あそこにいる一番偉そうにしてるやつにしよう。
フフフ、楽しみだなー。どんな顔するのかなー。
「そこのお前、私と勝負しなさい。もし私が勝ったら、今後一切私に手を出さないでね」
「ハハハハッ、正気かお前。俺はこれでもランクCだぜ。死んでも知らねえぞ」
「それはこっちのセリフだね。もしあなたが泣いて謝っても、気を失うまでは攻撃し続けるから」
本当にそのつもりだ。昔からこういう性格の奴らは嫌いだった。前世では相手が貴族だったから手は出せなかったけど今回は違う。
「じゃあ、始めようか」
「お前から攻めていいぞ。ガキに先手は譲ってやる」
馬鹿だなー。じゃあ遠慮なくいきましょうか。
今回は火の魔法を使おうと思う。じっくりこんがり焼いてあげるんだ。
「くらいなさいっ、そして後悔するといいわ!!!」
私が魔法を使ったとたん相手の周囲は火の海になった。
あっ、私は魔法の名前とか一々言わないよ。恥ずかしいし。
これで相手は身動きが取れない。
「こんなもん効かねえよ。俺をなめんじゃねえぞ!!」
あらら、火の海を突っ切ろうとしてるよ。そんなことしたら丸焦げになっちゃうのに。
「熱っ!! なんなんだよこれっ」
言わんこっちゃない。私の魔法は一味違うのさ。
前世での知識も駆使して、魔法を改良してるからね。簡単な魔法でも威力は普通より高いんだ。
「早く降参しなさい。そうしないとこんがり焼けちゃうよ。私、人間は食べるつもりないからね」
「わかった、降参する。だからやめてくれ!!」
ええー、つまんないなー。そこは「誰が降参するか!!」とか言うとこでしょう。
「はあ~、仕方ないからやめてあげる。でも………次はないよ」
というわけで魔法を解除してあげた。
「その、馬鹿にして悪かったな。ガキだと思ってバカにしていたが、お前は俺よりもはるかに強い。本当にすまなかった」
おや? 急に態度が変わったよ。
周りを見るとみんな真っ青な顔してる。どうしたんだろうね。
「まあ、気にしてないよ。力を見せるいい機会だったしね。とりあえず、冒険者登録させてくれない?」
「ああ、こっちだ」
ギルドマスターっぽい人が案内してくれた。
こうして私は無事、冒険者登録をすることができた。
「案内してくれてありがとう、イリアス君。そういえば君に名前を教えていなかったね。私の名前はアルっていうの。よかったら覚えておいて。あと、もう遅いから家まで送っていくよ。」
「本当に最後まですいません。ちなみに僕の名前ですが、イリアス・クランっていいます。このスヴェールの町の領主の息子です」
えっ?
ようやくアルが冒険者になりましたね。次はイリアス視点です。短めの予定です。