二度目の生
アルの現世編スタートです
目覚めたら、なんと赤ん坊になっていた。
あれ、私死んだんじゃなかったけ? どうなってんの?
確かあの時、私は深い傷を負ってそのまま死んだはず。
これは転生した、ということだろうか。
まあ、悩んでいてもしょうがない。とりあえず今回の生を精一杯楽しもう。
とはいっても、私はまだ赤ん坊。言葉を発することはまだできない。
うう~、しゃべりたいのにできないってもどかしい。
何かしゃべろうとしても、「あう、あうあう」とかにしかならないんだよ。
前世で17歳だった私にとってこれは恥ずかしい。
あと、2・3年もすればしゃべれるようになるかな。
それまでの間辛抱、辛抱っと。
ついに3歳。私しゃべれるようになったよ!
まだカタコトだけど。
「ああ、ひまです~」
ぶっちゃけ毎日やることがなくて暇なの。
「おかあしゃん、なにか手伝えること、ある?」
って聞いても
「特にないわよ、アル。あなたはまだ3歳なんだから手伝わなくてもいいのよ」
って言われてしまう。これでも前世で侍女だったんだから、多少のことはできるっていうのに。
やはり3歳という年齢が邪魔をする。
「はぁ~、なにしてしゅごそう」
こうなったら今のうちから体を鍛えておくことにしよう。
早いうちから鍛えておいて損はないし。
あまり無理するわけにもいかないので、とりあえず歩き回ることにする。
「えっちら、おっちら」
「あら、アル。なにしてるの?」
「きたえているのでしゅ」
「そう…なの? まあ無理しないようにね」
「あーい」
ほんといい母親だ。子供やることを見守ってくれるっていいよね。
そういえば父親の存在を完全に忘れてた。
ちょっと紹介しとくよ。私の父親は毎日畑仕事をしている。
ただそれだけだから、それ以上説明しようがない。
田舎での仕事ってそれくらいしかありませんからね。
はい、紹介しゅうりょー。
そんなこんなで、すくすく育っていった私は7歳に。
剣の練習を始めたので、そろそろ筋肉をつけたいと思う。
「いち、に、さん、し」
「アルは、体動かすのがほんと好きね」
「はい、大好きです。それに戦うために体づくりは大切ですからね。」
うん、体ができてないとまともに戦えないからね。
「あなたは何と戦うのよ…」
呆れたようにお母さんが呟いてるけど、気にしません。
自由に生きるためには力が必要だ。
この世界には魔物がいる。たびたび村にも現れては被害を与えていく。時々死者が出ることもあるけど、それは本当にまれ。
ただ正直、村のみんなの魔物に対する危機感はなさすぎる。
いくら滅多に現れないからとは言え、体を鍛えないとは何事か!
もしちょっと数の多い魔物の集団に襲われたら、村は壊滅間違い無しだ。
だからせめて私だけでも鍛えて、いざという時村のために戦うつもり。
ちなみに私は魔法の練習もしている。前世の記憶もあるから普通に魔法は使えるんだけど、まだこの体ではうまく操れない。
一応村のみんなも魔法は使える。そこまで強いのは使えないけど。
鍛え続けて、私は12歳に。
このころになると、前世で使えていた剣技も魔法も使えるようなった。
「今日は、何を狩ろっかなー。ウルフにしようかな、それともゴブリンにしようかな」
私は最近森によく来ている。魔物と戦って実戦経験を積む、というのが目的だ。まあ、食料調達っていう目的もあるけど。
しばらく森を歩いているとウルフを見つけた。
「さて、さっそくだけど死んで肉になってもらおうかな」
「グルルル……、ガウァァ!!」
ウルフがとびかかってきけど、怖くもなんともない。肉にしか見えないし。
そのまま躱して、叩き斬った。
返り血を全身に浴びちゃったけど、まあいっか。
そのあとウルフを何体か狩って、村に戻った。
「おお、血まみれのアルじゃないか。今日も森で狩りをしていたのか?」
なんだか最近、「血まみれのアル」とかって呼ばれるようになってしまった。
私は殺人鬼じゃないっての。
「そうだよ。多めに狩ってきたから、後で分けてあげるね」
「いつもありがとな。おかげで肉には困らなくてすむ。」
「いいよ、気にしなくて。ただ、血まみれのアルって呼び方やめてくれないかな。なんか嫌なんだけど」
「毎日血まみれで帰ってくんだからしょうがないだろ。諦めな」
ああ…、もう手遅れだ。血まみれのアルが村に浸透しきっているらしい。
前世で鉄人、今度は血まみれ。
これって女性につけるあだ名じゃないよ、ほんとに。なんかもう殺伐とし過ぎなんだけど。
まあ、とりえず家に帰ってきた。
「たっだいまー」
「アル、あなたまたそんな血まみれで帰ってきて……、洗うのがどんだけ大変だと思ってるの!!」
怒るとこってそこっ!!って思った方もいるよね、たぶん。
普通はさ、女の子が一人で何危険なことしてるの、とかっていうと思うじゃん。
うちの母親は違うんだ。なんか私のこと半分男だと思ってるみたい。
ちなみに父親は
「鍛えるのはいいことだが、死ぬんじゃないぞ」
とか言っている。
まあ要するに、私のことに関して両親は何にも心配していないってことだ。
でもそのおかげで自由気ままに過ごせてる。
前世では自由には過ごせなかったから、ほんとに幸せを感じる。
ただ、時々ふと思うことがある。
ミハイル様やケインは今頃どうしているのかな……と。
彼らと過ごす日々はとても素晴らしいもので、今もその記憶は私の中に色褪せることなく残っている。
かつて王国を変えるためにこの身を捧げた私だけど、後悔がないわけじゃないんだ………
読んでいただきありがとうございます。至らぬ点も多いかもしれませんがこれからもお付き合いください。