エリスの危険な日常……
書き直し始めました
私はファーリス家長女のエリス・ファーリス。アイノレス王国第2王子ミハイル・アーノルド様に仕えている侍女だよ。
幼いころから武術・魔術の鍛錬をしてたから、戦闘能力なら侍女どころかこの王国の中で一番の実力者なの。
でも脳筋女じゃないからねっ!
ちゃんと裁縫とか料理とか女子らしいことだってできるんだから!
っと、ここで私の主ミハイル様について説明しようかな。
彼は実の兄である第1王子ザミエルに度々命を狙われているの。ザミエルは自分の派閥を持ってるから、国王夫妻も迂闊な行動をとれない。
奴の性格はただのガキ。自分が一番じゃないとダメな人間なんだよね。
まあそんなこんなで、ミハイル様は人間不信になってしまった。一応安全のために王国最強たるこの私『死神』がついている。
『死神』っていうのは、送り込まれた刺客を誰一人生きて返さず骸へと変えてしまう、という噂からついた私の二つ名。
噂というか実話なんだけど。
さてとお話はこれくらいにして、今日もお仕事はりきっていきましょー
「おはようございます、ミハイル様。今日はいかがなさいますか?」
こんな感じで仕事の時だけはしっかりと猫かぶってる。
昔はさ、見た目はいいけど中身が残念すぎるってしょっちゅう言われてたんだ。
見返してやろうと努力した末に得たのが、この無敵の猫かぶり。
誰にも見破れはしないぜ!って思ってたのに……
「………それやめろ、気持ち悪い」
「なんのことですか? まったく心当たりがありません」
まあ、こんな感じで6歳の子供にバレちゃってます。でも、だからって素は出しませんよ?
「そんなどうでもいいことは置いといて、今日はお勉強をしましょう」
「必要ない」
子供らしさっていうのが、ミハイル様にはこれっぽっちもない。
あーあ、たまには素直に言うこと聞いてほしいもんだよ。
「いいえ、必要です。そもそもこの私が普通のことを教えると思いますか? 答えは否です。というわけで今日は、悪い貴族の見分け方を学びましょう」
「はぁ?」
「静粛に! ひとーつ、太り気味の脂ぎったじじいには気をつけるべし。そういう見た目の貴族にロクな奴はいない! ふたーつ、優しそうな人間ほど信用してはならない。人のよさそうな笑顔ほど疑わしいものなど存在しない!」
「いきなりどうした……。性格変わってるぞ」
はっ、私としたことがつい素が……。前に会ったピグーとかいう変態ロリコン野郎を思い出して、怒りを抑えきれなくなったちゃった。
「ブヒ、ブヒヒ……やはり幼女は最高だぁ」
とか言ってただひたすらに幼女をねっとり眺め続けて、挙句の果て誘拐未遂。ほんとどうしようもない奴だったね。
最後は騎士たちに引きずられていったんだけど、あれは面白かったね。バタバタと醜く抵抗して連れていかれる様は、まさに屠殺直前の豚だった。
「おい、聞いているのか?」
「えっ? ああ、申し訳ありません。昔の大変愉快な思い出を振り返っていました。それと、今回教えたことは絶対に覚えてくださいね。将来きっと役に立ちますから」
「そうか……まあ、覚えておいてやろう」
―ある日のこと―
王子とどっかのお貴族様がお話している楽しげな声が聞こえてきた。
なにやらとっても面白そうな感じがするので、堂々と見に行くことにしようかな。
「はぁ……お前のことは信用できないな。早く俺の前から消えろ」
「なっ!」
お? なんか楽しそうなことになってんじゃん。相手の貴族は……うわっ、優しそうなぽっちゃりって私が教えた悪い貴族そのものだね。
確か名前は『エセジェントル伯爵』だったかな。
「俺の侍女が言っていてな。お前みたいなデブで優しそうな奴には気をつけろと」
……っていやいや、相手に直接言う必要はないでしょ! しっかしそれにしても口悪すぎない?
しかもサラッと私まで巻き込んでるし。
王子って本当に6歳なの?
その後伯爵は顔を真っ赤にして帰っていった。
私はため息をつきながら、物陰から出てミハイル様の元へと向かう。
「ミハイル様、私の教えを守ってくださったのは嬉しいのですが、さすがに言って良いことと悪いことがありますよ。そういうことは心の中にとどめておいてください。あと、何気に私を巻き込まないでください。面倒なので」
「なんだ、見ていたのか。別に構わないだろう、事実なんだからな。それに悪い貴族の見分け方とかいうのを教えたのはお前だ。巻き込まれるのは自業自得だな」
「……まあ構いませんけどね。襲われても私は大丈夫ですから。来る者は皆殺しにしますし」
本音を言うとどんどん襲ってきてほしい。私は魔術の実験がしたいんだよね。襲撃者ならどんな扱いしたっていいんだし、実験台にはもってこいな代物なのさ。
いろいろエグい魔術を絶賛開発中だから、丁度実験台がほしい時期だ。
多分今日は私が襲撃を受けるはずだから、簡単に手に入りそうだね。
え? 何で襲撃されることを知ってるのかって?
ふふふ、それは秘密だよ♪
いつ誰が・誰を・何のために襲撃とかを企てているのかも全部知っている。要するに私に知らないことはないってこと。さながら襲撃者はアリジゴクに捕らわれた働きアリってところかな。
―その日の夜―
ルン、ルン、ル~ン♪
無事に実験台を手に入れた私はご機嫌です。
う~ん、今回はどんな魔術で殺してあげようかな。迷うな~。
「ねぇねぇ、今から3つ選択肢あげるから1つだけ選んでね。1つ目はじっくりあぶり焼き、2つ目はじっくり凍結、んで3つ目は爆散。さあ、どれがいい?」
「どれもごめんだっ、この悪魔がっ!!」
「もぉ~、私は悪魔じゃなくて”死神”だよ」
悪魔は『対価と引き換えに願い事を叶えてくれる存在』だけど、死神はただ単に『死を運ぶ者』。
私は優しい死神だから死に方を選ばせてあげているのにね。
「なになに、どれも魅力的すぎて選べないって? ん~……じゃあ、ぜ~んぶやってあげる。でも安心してね、最後は『爆散』ですぐに死なせてあげるからさ」
「ひっ、やめろ……やめてくれっ………ギャアァァァァァ!!!」
「あはは♪ まだ死んじゃだめだよ。夜は長いんだからさ」
数時間後
部屋に飛び散ったものを、魔法で浄化して後始末をしていた。
いやぁ、久々に楽しい時間を過ごせたよ。襲撃者くんには感謝だね。
―翌朝―
「お~い、エリス。お前また何かやっただろ……。騎士連中が夜中にこの世とは思えない叫び声を聞いたって、怯えてるんだ」
「あはは……ごめんごめん。昨日は襲撃者くんを捕らえてお楽しみだったの。それにしても、あの程度で怖がるとか騎士のくせにほんと情けないね」
今私が話している男は、ケインっていう3つ年の離れた幼馴染。20歳にして騎士団の副団長を務めるほどの優秀なやつだ。
とは言っても当然私より弱いけどね。
「いや、普通の人間なら誰だってそうなると思うぞ。お前に遊ばれた襲撃者が可哀想だよ、ホント……」
「なによー、私が狂ってるとでも言うの? 失礼ね~」
私からしてみれば、十分正常だと思うんだけど。無差別に殺すわけじゃないんだし。
「そうだろ、お前は普通じゃない。100人に聞けば100人がそう答えるよ。じゃ、俺はこれから仕事行くから、『死神』も仕事頑張れよ」
ほんと昔からアイツは私のことを馬鹿にしてくる。
いっそのこと実験台にでもしちゃおうかな。
な~んてね、冗談に決まってるじゃん。
幼馴染相手にそんなひどいことするわけないよ。
さてと、今日もお仕事頑張りますかね。