スカートだけで魔法少女
その途端、俺の身体が光に包まれた。目映いほどの光で、思わず目を閉じてしまう。そしてようやく光に目が慣れた頃、瞼を開けると、そこにはーー。
「おい! これどういうことだよ!」
なんと俺は上着はそのまま、下のものだけ……なんと言うか……ひらっひらのスカートになっていたのだった。靴はスニーカーそのまま。脛毛もそのまま。
「文句垂れるなら自分に垂れたまえ! 君の変身願望が足りなかったのだ!」
「それにしたってこれじゃ只の変質者だろ!」
「確かにそうだ! だが一回の変身で完璧に魔法少女になれるなんて思ったら甘いぞ!」
魔法少女チックなステッキにヒラヒラスカート、脛毛。変態だ。変態の仲間入りだ。こんな格好で敵を倒すなんてとてもじゃないができるわけがない。
「さあ、敵の攻撃を防ぐのです!」
「どうやりゃいいんだよ! できるかよ!」
俺はもうやけになっていた。とりあえずステッキを振るって、頭に思い浮かんだ台詞を叫んでみる。
「チンチロリン!」
なんと、それでバリアのようなものが張られて、敵の溶解液は霧散した。自分でも驚きだ。まさか効くとは思っていなかった。だってチンチロリンだ。
「今だぞー、やっつけろー」
「頑張れー」
相変わらず他人事なオッサン共がむかつくが、ここはやるしかないだろう。なぜならこの場で戦う気があるのは俺しかいないからだ。あとは人任せなオッサン達ばかり。
これで決めてやる、やっぱりスカートは恥ずかしいし、そう心に決めて、再び頭に浮かんだ言葉を唱える。
「ララメル、サナメル、汝の還るべき場所へ還れ! ナルンフォード!」
すると、怪物は奇声を上げながら空の裂け目へと消えていった。
これで終わったのか?
オッサンの方を見ると何故か涙ぐんで拍手をしている。
「素晴らしい……素晴らしい魔法少女だ!」
「うるさい! 大体何だよあの化けもん!」
「ああ、あれはエイリアンだよ。魔法少女よ」
「少女じゃねえし……つか、色々訊きたいことはあるけど、俺のズボンどこにいった」
「異空間に飛ばされたよ。そういう仕組みなんだ」
「はあ?! じゃあ俺……スカートで……」
「ま、頑張ってくれよ魔法少女見習い君」
ぽん、と肩を叩かれ、俺はステッキを地面に叩き付けた。悲しいかな、それはぽよんと跳ねただけで終わった。