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突然のオッサン

 目覚まし時計が鳴り響くのを夢現で止めて、のろのろと活動を開始する。歯みがき。洗顔。髭剃り。飯はコンビニのパン。俺は何気無くテレビを点けた。

 そこには有名な魔法少女アニメが流れていた。今ではアニメにはあまり興味がないが、なんとなくこれは毎回ボーッと見ている。



 あー、はい。熱い展開ですね。としか思えない自分が悲しくて仕方ない。昔はアニメにだって心を動かされたものだ。しかしながら俺はもう25。しかもフリーターで、要領のよくない性格からか、毎日生きるのに必死だときた。

 あっという間にバイトの時間がきた。慌ててテレビを消し、身仕度を整え、いつものように玄関から出る。


 外は夕方にさしかかろうとしているのに、うだるような暑さだった。バイト先の居酒屋は歩いて10分ほど。夏を呪いながら歩いている途中にある空き地に、それは、いた。

 このクソ暑いのになんだか……マジシャンのような格好をして、両手を広げて、こちらを見ているオッサン。怪しい。怪しすぎる。俺はそそくさと空き地を横切ろうと足を速めた。


「レディースアーンドジェントルマン! 君はこの聖なる空き地に降り立った100人目……ちょ、ちょっと待たないか君!」

 待たない。待つ必要がない。しかしマジシャンオッサンは走ってきて、素早く俺の腕を掴んだ。手袋越しの掌はひどく冷たかった。振りほどこうとするも、オッサンの力は強かった。


「何ですか? 急いでるんですけど」

「まあちょっと話を聞きたまえ。君、魔法少女にならないか?」

「いやです」

「そうか、いやか……えっ、いや?」

「いやですよ。て言うか離してください、バイトに遅れる」

「君はバイトと地球の平和とどちらが大切なんだ?!」

「バイト」

「そうか、バイトか……えっ、バイト?」

「当たり前でしょう。生活かかってんだから」

「まあまあまあまあ、バナナ食べる?」

「要らないです。離してください」


 そこに、ちょうどよく警察官ふたりが俺達の方に向かってきていた。これ幸いと手をふって、警察官に助けを求めた……はずだった。


「やあ、青木さん。勧誘うまくいってる?

「いやー、それがなかなか、このお兄さんが話を聞いてくれないんでね」 

「駄目だよ君、人の話はちゃんと聞かなきゃ」

 ……何故か俺が説教されている。何だ? この警察官たちもオッサンの仲間なのか? いやでも本当にバイトに遅刻する。無理やりつかまれていた腕を離して、走って逃げようとした一歩目だった。地鳴りがしたのは。


「あーあ、来ちゃったか」

「どうするの? 青木さん」

「それはこの……橋本勇気君に頑張ってもらうしかないでしょう!」

「何で名前知ってんの?! てか、来たって何が……」


 ふわりと上空から影がさす。思わず見上げると、そこには、形容し難い……蛸のような、よくわからないものが浮いていた。


「な、なんだあれ」

「悪魔だよ。しかし、勇気君がいれば大丈夫です! さあ、このステッキを!」

 思わず、ファンシーなデザインのステッキを受け取ってしまった。途端にどこからともなく綺麗な光が俺を中心にさし、身体が光につつまれる。


「変身の言葉を唱えて!」

「そんなもん知らねーよ!」

「大丈夫です! 頭に浮かんだ呪文が詠唱になります!」


 って言われても何も思い浮かばない。そのとき、上空の蛸が墨のようなものを吐いた。危うく避けたが、当たった地面は溶けている。これは溶解液のようなものだろうか。もし人に当たったらと思ったら、ゾッとした。


「さあ、早くしてください!」

「頑張れー」

「応援してるぞー」


 さっきから他人事丸出しなオッサン達がむかつくが、ここは俺が何とかしなければならないらしい。くそ、バイトは休むしかない。

 頭に浮かんだ呪文を唱えて……!


「リリカル! マジカル! 魔法少女になー……りたくもねえけど! とりあえずなれ!」

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