異世界高校俺tueee科の日常
「運動会やるか」
先生の一声で異世界に留学している俺たち俺tueee科は運動会をすることになった。
「先生ー。能力は使ってもいいんですか?」
「そりゃ、もちろんOK」
「でも先生、俺達……」
そう、そこが問題なのだ。
「強すぎて勝負が成り立たないと思うんですけど」
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異世界高校俺tueee科一年生は三人だ。三人ともぶっ飛んだ能力を持ってて正直勝負にならないと思う。
俺、南野正吾は瞬間移動。
「で、南野くん。競技はどうしよっかー」
この緩めしゃべり方なのは前橋智也。能力は時間停止。
「わ、私たちのなかで、不公平のない競技なんて、あるの?」
おどおどしたしゃべり方なのは桜田有理さん。能力は万物生成。
「無いだろうね」
「やっぱり無いかなー」
「だ、だよね……」
先生は運動会は生徒の自主性に任せるといって寝ている。適当すぎる。
「じゃあ、次善策で一人一競技選ぶっていうのはどうかなー?」
「まあそれが妥当かな」
「わ、わたしもそれでいいと思う」
前橋の提案に乗り、俺達の運動会が幕を開けることになる。
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第一種目、徒競走
「南野くん結構普通の競技にしたんだねー」
「ちょ、ちょっと以外かも」
「でも確かに瞬間移動なら有利かもねー」
「そ、そうかも」
そうなのだ。この三人のなかで能力の制限が一番少ないのが俺。俺の瞬間移動は視認出来るところにならどこでもいける。そうして今回の徒競走は直線400メートル。
前橋の時間停止は十秒しか止められないし、次の時間停止まで十秒かかる。時間が止まっている十秒では400メートルは走りきれない。
桜田の万物生成は生成まで五秒かかる。その間に俺は十分にゴールできる。
俺はこの徒競走での勝利を確信していた。
「汚いなー南野くんは」
「男なら勝ちに行くのが当然だろ」
「せ、せっかくなら、勝ちたいよね……」
なんか桜田の目に暗いものが浮かんでる気がする。
ま、まさかこのルールで負けるわけ無いよな。
俺達の異世界での寮は平原の端っこにたてたログハウスだ。目の前に広大に広がる草原の景色は俺たちがいるの異世界なのだと認識させてくれる。
400メートル先では先生が旗を持って待っている。
(三人とも準備はいいか?)
先生の能力はテレパシー。制限は生徒と認識している人物だけにしか使えないというもので教師としてはこれほど便利なものも無いんじゃないだろうか。
いや、いっそ洗脳とかの方が教師はやりやすいかも。先生って大変そうだしな……。
手をふって準備が出来ていることを知らせる。
(位置について、よーい……)
その瞬間、バチッという音とともに目の前が真っ白になるのを感じた。薄れていく意識のなかでどうにか横を見ると桜田が能力を使っているのが見えた。
おそらく生成したのは電気。スタンガンに打たれた俺とその場で倒れた。おそらく前橋も無事ではないだろう。意識がないと能力は使えない。
(……ドン)
「ご、ごめんなさーい」
俺の意識はそこで途切れた。
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「じゃあ、徒競走は桜田が一位だな」
先生はそういって次の種目の準備に行った。
あのあと、前橋の方が先に意識を取り戻したがどうにかゴールする前に俺も目覚めて結果は二位だった。
「ご、ごめんなさい……」
しおらしくしているがスタート前に相手をスタンさせる人間だ。人は見た目や態度だけではないのだとおもいしらされる。
「た、確かにルールには違反してないんだけどねー」
あの前橋でさえ顔をしかめている。
「さすがに危害を加えるのは禁止にしよう」
俺の提案は二人に受け入れられた。
第一種目、徒競走
一位、桜田
二位、南野
三位、前橋
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第二種目、借り物競争
「わ、わたしのです」
「マジかよ……」
桜田はなかなか発想がえげつない。
そもそも物なんてログハウスの中にしかないが桜田なら五秒で作れてしまう。どうあがいても桜田のアドバンテージはゆるがない。
「50メートル走で25メートル地点に何を借りるのか置いておくからな。じゃ、頑張れよ。ちなみに何を借りるかは俺が決めたから」
先生はそれだけいうとゴール地点に歩いていった。
「せ、先生は何をお題にするんだろう」
「確かにな。あの先生だしね」
「さすがに無理難題は出さないと思うけどねー」
三人が気にしているのはそこだ。特に桜田にとってはそこだけが懸案事項だ。それさえクリア出来れば勝利はほぼ確実だ。
なにせあとは桜田は50メートル走るだけだ。十秒もかからない。
(じゃあ、行くぞー。位置について、よーい。……ドン)
先生の合図と同時に瞬間移動でお題を確認しに行く。
「えーっと、お題は……」
……女子の私物。
終わった。こんなもんもってきたら人間関係的にアウトじゃねえか!しかも今は桜田しか女子いないんだぞ!
心のなかで毒づきながらとりあえずログハウスへ行く。扉を開けて中に入るとリビングのような全員が集まれる場所がある。
なにか無いかといろいろ見てみるがなかなか見つからない。
そうこうしていると前橋が入ってきた。
「南野くんはお題なんだった?」
「……女子の私物」
「ははは、大変だねー」
「お前はなんだよ」
「僕のはねー……」
そういうと目の前から消えて二階から降りてきた。能力を使って自分の部屋に取りに行ったのだろう。その手にはトランクスが握られていた。
「お題はパンツだったのか?」
「いや、ちょっと恥ずかしい物だってさ」
そういってお題の紙をこちらに見せるとさっさと外に出ていってしまう。
本当に恥ずかしがっているのだろうか?
前橋のニコニコ顔は表情が読みにくいのでよくわからないが人からみれば確かにちょっと恥ずかしい物なんだろう。
そういえば自分の物持って行ったけど借り物競争って借りなくていいのかな。
余計なことを考えつつキッチンの食器棚を見るとマグカップがおいてあった。共用の所においてあるしギリギリ社会的にもセーフだろ。
ふと見るとキッチンの窓からゴールが見えたので直接飛ぶ。
「先生、女子の私物です」
「あー確かに私物だわ。男なら女子の部屋に忍び込むとかしろよな」
「先生なのにそういうこと言わないでくださいよ」
「冗談だよ、冗談」
ふと周りを見ると前橋は先にゴールしていたのはいいが、まだ桜田がゴールしてなかった。
「あれ、俺ビリだと思ったんだけど」
「僕も二位のつもりだったんだけどお題の前で桜田さんが固まっててねー」
そういわれて見てみると確かに桜田はお題の前にいた。
先生が呼び掛けて終わったことを知らせると顔を真っ赤にしていた。
「せ、先生。ぱ、ぱ、パンツなんてセクハラじゃないんですか!」
「えっそうなの?最近の若い子はズボンって言うとダサくてパンツって呼ぶって聞いたんだけど……。娘にバカにされてなぁ……」
「っ……!」
先生は遠い目をしている。相当娘の言葉が堪えたのだろうか。
それよりもひどいのは桜田。さっきよりも更に真っ赤になって俯いている。勘違いしたのがよほど恥ずかしかったのだろうか。
俺と前橋はなんとも言えない顔をしながらその光景を眺めているしかなかった。
でも桜田に関しては少しだけ天罰なのではないかと思ってしまった。
第一種目の仕打ちをまだ忘れることは出来てなかったのだ。
第二種目、借り物競争
一位、前橋
二位、南野
三位、桜田
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最終種目、玉入れ
「案外普通だな」
「まあ、二人の倍の時間投げられるから僕の方が有利でしょ?」
「確かにな」
「ま、負けませんから」
「桜田、なにがお前を駆り立てるんだ……」
桜田の反応は怖いが玉入れだし危害を加えるのは反則だから大丈夫だと信じたい。
ルールは簡単、一分間に籠にどれだけ玉を入れられるか。ちなみに籠と玉は桜田が作った。
「よーし、じゃあさっさと初めてさっさと終わらせよう」
「運動会やるとか言い出したの先生ですよね?」
「はい、位置について、」
「無視かよ……」
「よーい、ドン」
最後の種目が幕を開ける。ちらっと前橋の籠を見るとすでに五個も玉が入っていた。
「負けてられないな」
俺の作戦は玉は普通に集めて籠の上に瞬間移動して全部いれる方法だ。これなら一位を狙えるんじゃないか?
玉を広い上に瞬間移動したタイミングで桜田が能力を使った。
「えいっ」
掛け声は可愛らしい作戦はえげつない。俺の籠に蓋をしやがった。しかもご丁寧に三角錐が乗っかった形で俺がいれようとした玉は籠の外に転がり落ちていった。
ほほう、そう来るか。しかしだ。俺は桜田にカウンターをいれることができる。蓋を相手の籠に飛ばしてしまえばいいのだ。
一瞬だけ不意を突かれて固まったがすぐにやり返そうと時には二度目の桜田の能力が発動した。
「なっ……!」
桜田が作ったのは煙幕。俺の能力は視認した場所にしか飛べないので実質的に能力を封じられた。
蓋がついたままでは玉を投げてもなにもできない。俺ができることは煙幕が晴れるのを待つだけだ。
どんだけえげつないんだ桜田。これが女子というものなのか、それとも桜田特別なんだろうか。特別であると信じたい。
「はーい、そこまで」
一分間などすぐに終わり先生が声をかける。
しばらくすると煙幕が晴れた。
もちろん俺の籠にはなにも入ってない。強いて言うなら蓋だけだ。
前橋は十二個。煙幕がかかる前に個数を稼いだのだろう。
そして桜田は……
「うぅ、悔しいです……」
一個も入っていなかった。
「なにやってたの、桜田?」
「い、いや。…………煙幕使ったら自分も籠が見えなくてですね」
「はぁ……」
前橋も先生も苦笑している。
つまりはこうだ。煙幕の前は蓋に集中してて玉を投げておらず、そのあとは自分の煙幕のせいで玉を投げても一個も入らなかったと。
「策士策に溺れるってこういうことなんだねー」
前橋の言う通りだ。こんなにぴったりな言葉はないだろう。
最終種目、玉入れ
一位、前橋
三位、南野、桜田
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「えっと、それじゃあ結果発表な。一位三点、二位二点、三位一点で換算すると南野が四点、桜田が四点、前橋が七点で前橋が一位だな。はい、拍手」
「いやー、一位になるとはねー」
まばらな拍手のなかで前橋が頭を掻いていた。混沌とした競技のなかでこいつが一位になるのはなんとなく納得できる。
そもそも三人のなかでこいつ自分で選んだ競技で一位になってないのだから自分の能力をよくわかっているということなのだろう。
桜田は悔しそうにしている。あそこまでして負けるのは悔しいだろう。実際にずるいと思う方法だが能力的にはああいった使い方でしか今回の形式では俺たちに勝てないのだろう。万物生成の能力はこういう場面で発揮されるものでもない。
ただ、一種目のあれはさすがにひどいと思う。
「……次は球技祭ですかね」
俺はもう二度とやりたくない。
「じゃ、ログハウスに帰るか」
先生の一言で俺たちはログハウスに戻る。
まったく、先生の思い付きには困ったものだ。
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「完全に忘れてた……」
「だからわたしだって負けたく無かったんですよ……」
次の日の朝、なんで桜田があんなに負けたく無かったのかやっとわかった。
その理由は年度のはじめに配られたプリントにあった。
『運動会、球技祭、体育祭の3つの行事においては先生の独断で罰ゲームつけるよ』
先生が独断で決める罰ゲームといわれると変に勘繰ってしまうのも頷ける。
そもそも俺は行事があることさえ忘れていたが。
ただ、結局罰ゲームは家事当番二週間という地味に嫌なだけの罰ゲームだった。
「ま、まあ、家事当番二週間が一人じゃなくて良かったです」
「俺も同感だよ」
「二人ともー、頑張ってー」
余裕綽々の前橋だがこいつもあのプリントのことを忘れていたはずだ。罰ゲーム発表のときに少し思い出したような顔をしていたのを俺は見逃さなかった。普段は分かりにくいけど不意を突かれた時だけこいつは結構分かりやすいのだ。
「はぁ。さっさと食器洗い終わらせようか」
「はい」
こうして異世界高校俺tueee科の日常は過ぎていく。