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籠の中の世界は  作者: K
9/15

不安

生春巻き、好きなんです。

俺は生春巻きを作っていると、ほのかに部室内に甘い香りが。

匂いの元を見てみると、どうやら雪穂ちゃんと楓はクッキーを作ったようだ。まぁ初心者にはちょうどいいだろう。

他の部員もだんだんとできてきたのか、中央の大テーブルに料理が並んでゆく。俺も生春巻きにソースをかけ、盛り付ける。その間にクッキーが焼けたのか、二人がきゃいきゃいしていた。



「さて皆さん、いいですか?」

部長は全員が席についてるのを見る。

「では、いただきます」

「「「「いただきまーす」」」」

大試食会。いつからか恒例になっていたこのやりとり。それぞれがその日作ったものを部室中央のテーブルに置き、みんなで試食し、評価し合う。自分だけではなく他人の意見も聞けるのでわりと好評だ。

「健吾君の生春巻きもーらい!」

「あ、ずるーい、私も狙ってたのにぃ!」

「ふっふっふ、勝負の世界は非情なのだよ」

なにをやっているのやら

「お兄さん、この春巻きすっごく美味しいです!料理上手なんですね!」

と、雪穂ちゃん。

「ありがと。レシピ通り作っただけなんだけど、美味しくできて良かったよ」

そうい言いながら俺も一口。うむ、ちょっとソースの分量が違ったか?まぁ合格点かな。

「お兄さん、私たちの作ったクッキー、食べてもらえます・・・?」

「あぁ、いいよ」

俺は皿に並べられたクッキーを無造作に取る。

「あっ」

「ん?」

「・・・べ、別に」

そう言われると気になるのが人間。楓はうつむいているが時折ちらちらとこっちを見ている。ひょとして・・・

「これ、楓が作ったのか?」

「・・・まぁ、うん」

「そっか。ではありがたく、いただきます」

サクっという食感と、香ばしい香り、ココアパウダーが練りこまれているのかほのかに香るココアの香り。甘さもくどくなく、生地もダマができてなくてちゃんと均等に混ぜられている。

「うん。美味しいよ。楓は料理作った事あるのか?」

「・・・お母さんの、手伝いで」

なるほど。桜子さんは料理が上手だ。あの人のそばで手伝っていれば腕も上がるのはうなずける。

俺はもう一つクッキーを手に取る。

「あ、それ私のですー」

おぉ、これが雪穂ちゃんのか。俺はなんの躊躇もなく口に放り込んだ。

ガリッ

うん、おかしい、まずクッキーの食感でガリッってなんだ。なんだこの妙に硬いのは、卵の殻か?つーかしょっぱ!塩と砂糖間違えたのか!?なんか妙に塩っ辛いぞおい、ガリガリしてるのに中はなぜか半生だし、生地も均等に混ぜられていないのかボソボソだ。

「ど、どうですか・・・?」

ごくり、と雪穂ちゃんが緊張した面持ちでこちらを見る。

どうすべきか、真実を告げる?しかし一生懸命作ったのだ、それに料理初心者だし、失敗だって誰だってする。

俺は気合でクッキー(?)を飲み込むと、言った。

「ま、まぁまぁ、かなー」

「まあまあですか、むー、お料理って難しいなー」

ふと部長の姿が目に入る。グッと親指を立てていた。知ってたのかこのやろ!だったら最初から止めんか!

その後、料理もあらかた片付き(クッキー(?)は人知れず俺が処理した)今日の部活動はお開きとなった。

「さーて、雪穂ちゃんと楓ちゃん、だったわよね」

部長が二人の前に立つ。その際ブルンと山脈が揺れたのは気のせいだ。

「どうだったかな?お料理部は。他の部に比べて地味だけど、こうやってみんなで楽しく話したり、お料理の勉強したり、一緒に食べたり、楽しいところよ」

部長は本当に料理が好きで、その美味しさ、素晴らしさをたくさんの人に伝えたい、そんな思いで料理部部長を担っている。

「今日はちょっと失敗しちゃいましたけど、でも!料理を覚えて家庭的な女の子になりたいです!」

「・・・楽しかった」

二人とも高評価だった。最初は何も言わずに連れてきてしまってとっと強引だったかと思ったが、どうやらそれも杞憂ですんだようだ。

「よかったわぁ、じゃあ、今日から二人とも私たちの仲間ね」

「はい!」

「ん」

こうして、無事、料理部の部活動は終わった。




帰り道、初めはみんな一緒だったがバラバラと分れていき、楓と二人きり。

いつもは無口で無表情な楓だが、今日はなんだかそわそわした雰囲気を感じる。

「どうかしたか、楓?」

「・・・ん」

楓は数歩前に歩き、振り返った。

楓は何かを言いたそうに口をパクパクさせ、目は不安そうに揺れる。

「・・・今日のクッキー・・本当に、美味しかった?」

なるほど、それを気にしてたのか。

「本当に美味しかったよ。もしかしたらお菓子は俺よりも上手いかもしれない。また食べたいと思った」

「・・・ほ、本当?」

「ああ」

楓はホッっと胸をなで下ろす。ん?

「・・・笑った?」

楓はバッと目を見開くと、頬を赤く染め振り返って早足で歩き始めた。

「ちょ、おーい、待ってくれよ」

「~~~~~!」

楓の横に並ぶ。まだ若干頬が赤く染まっている気がした。

一緒に暮らし始めて1週間、初めて楓の笑顔を見た気がした。

なんだか今日は色々あったが、いい日だったということにしておこう。

不安げな少女って、なんか守ってあげたくなりません?

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