部活
うちの生徒会長は、男だったんだ・・・
パチパチパチ、と拍手と共に一人の人物が近寄ってくる。
やっぱりいたか、この人は・・・。
「やあ健吾君、すばらしい裁定だったよ。お姉さんも満点をくれてやろう」
「いたのなら仕事してくださいよ、生徒会長様」
これだけの騒ぎだ、生徒会が気付かないほうがおかしい。きっとこの人は分っていながら俺が止めに入るのを待っていたのだろう。
竜ヶ崎高校生徒会長、天美椋、身長170センチはある長身でモデル体系、足が長く、その足に踏んでもらいたい人が毎年かなりの量いるとか。肩の辺りで切りそろえられた髪、整った眉、少し強めな印象を与えるつり目、それに似合わない泣き黒子。
学園祭で行われたミスコンで1年、2年と堂々1位をかっさらっていった、いわばこの学校のマドンナ的存在だ。2年からは生徒会長に就任し、まだ期間が短いながらいくつかの功績を作り出しているとか。
「やはり君のその頭脳はすばらしい、是非とも我が生徒会で私の右腕にならないかい?」
「前にも言いましたが、俺の頭をどう使うかは俺が決めることです。すみませんがお断りします」
「ふっ、つれないな。だが、そのツンとした態度をデレさせるのもまた一つの楽しみでもある、フフフ・・・」
背筋がゾクっとした。何を考えているんだこの人は。
そんないつものやり取りをしていると、会長に近づき何か耳打ちをする生徒、おそらく生徒会役員だろう。何か急用でも入ったか。
「さて、名残惜しいがそろそろ行かなければ。ではな健吾、また会う日を楽しみにしている」
「はいはい、お仕事頑張ってください」
会長は役員をひきつれて堂々と歩き去って行った。
「お兄さーん」
お、雪穂ちゃん。しっかりとその後ろには楓もいる。
「お疲れ様です。すいません、うちのクラスの問題なのに助けてもらっちゃって」
「いや、もとはと言えば俺の妹が原因だし、無関係じゃなかったからね、気にしなくていいよ」
相変わらず雪穂ちゃんは気配りがきいている。先ほどのピリピリした空気から解放されたからか、妙に和む。
「・・・で、何?」
雪穂ちゃんと会話していると楓が間ににゅっと入ってきた。なぜか不機嫌そうだ。
「そうだった、二人に案内した居場所があるんだ」
そう言うと、俺は二人を連れて歩きだした。
「家庭科室・・・ですか?」
「そう」
二人を連れてきたのは家庭科室。主に家庭科の授業でしか使わない、あまり生徒にはなじみの薄い教室だ。
俺は家庭科室の扉を開ける。
「あら?健君いらっしゃーい。なんだか久しぶりね」
「お久しぶりです、部長」
ここは家庭科部、通称料理部の部室だ。なにを隠そう俺は料理部の副部長を務めている。
そしてこの人、倉本 萌美先輩が部長を務めている。
少し目じりの下がった優しそうな顔立ち、軽くウェーブのかかった背中まで届くふわふわな髪、そして何より目を引くのが激しい自己主張をしている二つの山脈である。今でも成長中とか。
「ここは家庭科部・・・ですか?」
「そう、通称料理部。説明はしなくてもなんとなく内容は分るよね。俺はここの副部長を務めてる」
「ほー、なんだか意外です。先輩頭良いって噂でしたからもっと凄いところに所属しているのかと・・・って、すいません、別にここがすごくないって意味ではないんですが」
「いいのよー、私も、ちょっとうちの部に健君はもったいないかな、とは何度も思ってるし」
思ってるんかい。
「うちはもともと親父と二人暮らしだったんだ。親父に任せるとチャーハンかカレーしか作らなくてな。だから俺が料理を勉強して食卓を潤していたんだ」
親父は飽きという言葉を知らないのか、馬鹿の一つ覚えのようにカレーばかり作る。さすがにそれに嫌気が差し、俺は料理部の扉を叩いたのだ。
「なるほどなるほど。でもお兄さん、私、恥ずかしながら料理はまったくしたことがなくて・・・」
「あぁ、心配ない、俺も入部したての頃は全くの未経験だったしな」
「大丈夫よ、最初は簡単な基本からやっていくから安心して」
よかったぁ、と胸をなでおろす雪穂ちゃん。そういえばさっきから楓が大人しい。いや、大人しいのはいつもだが、いつも以上に大人しい。
「楓?どうかしたか?」
「・・・別に」
不機嫌そうにプイッとそっぽ向いてしまった。なにを怒っているのやら。
「とりあえず、二人は体験入部と言うことでいいかしら?」
「はい!よろしくお願いします!」
「・・・ん」
とりあえずは部長に任せておけば問題ないか。
俺は部内を見回す。野菜を切る者、何かを炒める者、レンジで温める者、フランベをして激しく炎を出す者、って!
「こらこら、フランベは禁止って言ったろ!またボヤ騒ぎをおこしたいのか」
すいませーん、との声。まったく、油断も隙もない。
「お兄さんお兄さん」
何だ?と振り返る。
そこにはエプロンを身に付けた二人の姿。
雪穂ちゃんは大和撫子という言葉がぴったりな和風な女の子。エプロンがとてもよく似合っていて、いかにも家庭的な女の子、という感じであった。
一方楓は、どこにあったのか、白のふりふりのエプロンを身に着けていた。どこの新妻だとつっこみたいが、これも妙に似合っていて可愛らしい。
「どうです?似合いますか?」
「ああ、よく似合ってるよ二人とも」
二人はやったねー!とハイタッチをしている。まぁ、仲良い事は良いが、怪我だけはしないようにしてほしい。
制服にエプロンって、なんかいいですよね