苦悶
ネタは新鮮なうちに使うべし!
「あぁーーー・・・」
風呂上がり、扇風機の前で体の熱を冷ます。ちなみに親父は桶の当たりどころが悪くて(良くて?)風呂で一人悶絶中だ。どこに当たったかは精神衛生上内緒だ。今頃男にしか分らない苦痛を味わっているだろう。
しかし、扇風機の前に座ると声を出したくなるのはなぜだろう?湯船につかった時も無意識のうちに声を出していたが、扇風機の前でも声を出す人は絶対にいるはずだ。
俺がアホ面で涼んでいると背後に視線を感じた。
振り返るとそこには楓嬢。
まるで変な生き物を目の当たりにしてしまったかのような冷たい視線が俺を貫く。
いいではないか、扇風機の前で声を出したって。
楓は飲み物を取りに来たのかそのままキッチンへ。
さて、先延ばしにしていたが本気でそろそろ考えるかね。
Q、突然妹ができました。どう接すればいいでしょう?
A、知るか
全国模試3位の頭脳を持ってしてもこの難問には回答が出せなかった。だってしょうがないじゃん、こんなのどんな問題集にも載ってなかったし!
水分摂取が完了したのか楓はそのままキッチンを抜けてリビングから出て行った。その後ろ姿はトテトテという可愛い効果音が似合いそうだと思ったのは俺だけの秘密だ。
ガチャリ、と再びリビングの扉が開く。楓が何か忘れ物か?と振り向くとそこにはおっとり桜子さんの姿。
「あらぁ、おふろあがりー?すずしそうねー」
相変わらずのおっとり具合にまったく慣れない。今まで出会った人とはまったく違う種別にも思えるこの空気にどう反応して良いか未だに悩んでいる。
「今親父が入ってるので、後で桜子さんもどうぞ」
「はぁーい」
そう返事するとこんどはポテポテという表現が似合いそうないかにもおっとりとした歩き方でキッチンへと入る。様子を見ているとどうやら明日の朝食の下ごしらえのようだ。夕飯でもそうだったが、桜子さんはおっとりしている割に料理が上手であった。
親父はなんというか、大味というか、男の料理というか、だいたいそんな感じだった。
チャーハン、カレー、カレー、カレー、チャーハン、だいたいこのローテーションだった。
今思えば今日の夕飯は俺の記憶では初めてともいえるような手作りらしい食事であった。
ご飯、みそ汁、鮭の塩焼き、ほうれん草の胡麻和え、煮物。
俺はおふくろの味を覚えていない。だからこれがおふくろの味というものなのだろうかと密かに感動してしまったのは内緒だ。
「別に適当でいいですよ、今までも飯は適当でしたし」
俺は頭をガシガシ乾かしながらキッチンへと叫ぶ
「いいのよー。わたし、おりょうりすきだし」
なるほど。まぁ本人がいいというのならそうさせておこう。
「では、部屋に戻ります」
「はぁーい、おやすみなさい」
途中、親父と廊下ですれ違った。若干内股だったのは見なかったことにしよう。
「っはぁぁぁぁぁぁぁーーーー」
なんだか今日はため息ばかりな気がする。それもそうだ、昨日今日だけで俺の人生がガラっと変わる出来事が起きて今も問題解決に至らないのだ。
自分で言うのもなんだが、俺は負けず嫌いだ。勝負に負けるのはもちろん嫌いだし、解けない問題があるといつまでもモンモンとしてしまう。
「解けない、よなぁ・・・」
今までは様々な参考書を読めばどんな難問でも解けたが、今回ばかりはどんな参考書も役に立ちそうにない。
「・・・ん?」
そうだ、アレがあるではないか!
俺はすぐに部屋にあるPCを立ち上げてその画面を開いた。
”Ya○oo知恵袋”
いいじゃないか、分らないんだ、他力本願でもいいじゃないか。
Q、今日突然義妹ができました。どう接していいかわかりません。どうすればいいか教えてください。
「これでよし、と」
あとは回答を待つだけ。
俺はニュースサイトなどを巡り、30分ほどして様子を見てみた。
A、もげろ
以上の回答がベストアンサーに選ばれました。
ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!
アドバイスどころか罵声かよ、役に立たんわ!なにが知恵袋だ!
俺は一応他の回答も見てみた。
A、もげろ
A、手を出しちゃいなよYou
A、普通に接すればいいと思います。意識しすぎると相手も気を使ってしまいますから自然体でいいと思います。
A、もげろ
A、もげろ
A、義妹のスペックを教えてくだせう
A、はぜろ
おい、半分以上が”もげろ”ってなんだ、しかも最後の”はぜろ”とか意味分らんし!
つーかめっちゃいいこと書いてくれてる人がいるじゃないか!みんながもげろもげろ言うからそっちがベストアンサーになってしまったが。
「自然体ねぇ・・・」
そもそも、妹と自然に接するということ自体が分らないのだ。
何が自然で何が不自然なのか。
”相手も気を使う―――”
俺のせいで楓は気を使ったのだろうか?
そもそも、最初から敵意むき出しでメンチ切ってきたのだから気を使ってないと思うが。
俺は考えが煮詰まったため気分転換に飲み物でもと部屋を出る。と、同時に脱衣所の扉が開く。楓だった。
全身にデフォルメされたネコのようなタヌキのような生き物が散りばめられたパジャマで、髪はしっとりと濡れ、頬は若干赤く染まりなんとも色気が・・・
「・・・っ?!」
楓は俺に気付くと驚いた猫のようにビクっとして部屋へと走り去って行った。
「・・・・・・。」
一人残された俺。
いや、俺は決してエロい目で見てはいない!ただちょっとだけ色っぽいなと思っただけで断じてそんなつもりは・・・
「って、誰に言い訳してるんだか」
俺はキッチンへ行き、水を飲んでつぶやいた。
「もげろ、か・・・」
もげろ