監禁
「お兄さん遅いねー」
「ん」
「電話してみる?」
「・・・出ない」
「・・・んん」
ここはどこだ、辺りを確認したいが目隠しをされているようで何も見えない。
腕は・・・後ろ手に縛られているようだ。足もイスに縛り付けられている。完全に身動きが取れない状態だ。
「全国模試3位であり、流石は楓ちゃんのお兄さん、と言ったところかな」
前方から声がする。この声は・・・
「拘束されて視覚も遮られているのにその冷静さ、流石度胸が据わっている」
「あんたが俺をここに拘束したのか」
「そうだ」
ゴーという機械音、どこかで聞いたことある音だ、どこだ・・・
「せっかく警告したというのに、さっそくその警告を無視して楓ちゃんに近寄ったのでね、実力行使に出させてもらったよ」
「言っておくけど、あんたのやっていることは犯罪だぞ」
「ふっ、バレなければ犯罪ではない」
考えろ、どうすればいいか考えろ。幸い、この男は俺を完全に舐めていて油断している。どうにかそこをつけないか。しかし、先ほどから聞こえるこの機械音、聞き覚えがあるんだが・・・
「お前がこれから楓ちゃんに近づかないと誓うのならば解放してやろう、しかし、誓わないというのならば・・・」
「へっ、どうするつもりだ、拷問でもするつもりか?」
「それもいいが、跡が残っては後々面倒だからな、脱がして写真でも撮ってそれを弱みとでもさせてもらうか」
くそ、なにか言い手はないのか、考えろ、考えろ、考えろ!
「ふっふっふ、怖くて声も出ないか?・・・しかし、ここは暑いな」
暑い・・・そうか、あそこか!今日は木曜日、よし。
「しっかし、やっぱりボイラー室は暑ですね、3年C組水泳部の木下雄介さん」
「んなっ!」
よし、ビンゴ!
「楓から聞いていたんですよ、3年の木下と言う人からしつこく言い寄られていると」
「馴れ馴れしく楓ちゃんを呼び捨てにするな!それに、しつこくなんてしていない!」
「あんたの行動は立派なストーカーだよ、あと今回の件で監禁罪、脅迫罪、未成年でも流石にこれはヤバいだろうな」
「黙れぇ!貴様が何も言わなければ全て完璧に「俺が何も言わずに泣き寝入りするとでもお思いですか?」なんだと?!」
「俺はあんたみたいな卑怯なストーカー野郎は嫌いでね、ここから出たら洗いざらいぶちまけてやるよ」
「うるさい!できるものならしてみろ!今にそんな生意気な口を聞けなく「誰かいるのかー?」?!」
よし!
「います!ここにいます!閉じ込められています!助けてください!!」
俺はありったけの声を出し扉の外、プールに向かって叫んだ。
そう、ここはプール横のボイラー室。さきほどからずっと聞こえていたのはボイラーの機械音。そして、ボイラーが作動しているということは部活をやっているということ。
俺はあえて彼を挑発して大声を出させて外の人に気付かせることに成功した。
「くそ、くそくそくそくそ!!くそぉぉぉ!!」
ガッ、っと顔に強い衝撃。おそらく殴られたんだろう。俺は椅子に縛られているから受け身も何もできないまま床に転がる。
「貴様さえいなければ、貴様さえ!!」
その時、ガチャガチャと言う音と、扉が開く音。
「大丈夫か、な、なんだこれは!」
教員だろうか、誰かに起こされ、目隠しを外される。
まぶしくてしばらく視界が見えなかったがだんだんと見えてくる、やはり思った通りボイラー室で、犯人は地面にうなだれている木下先輩であった。
俺は先生に手足のロープを外してもらって、木下先輩に近づく。
「なんで・・・なんで俺だって分った」
「楓から相談されていた事と、親衛隊であること、あと、声だ」
「たった、たったそれだけで分るとは、な・・・」
木下先輩はハハハ・・・と乾いた笑いを浮かべながら体育教師に連行されていった。
俺もさっさとこんな暑い場所おさらばしよう。
ボイラー室を出るとプールサイドに出た。
するとドンっと横から衝撃が。
「・・・楓?」
「・・・ん」
そういえば、放課後迎えに行くと言ったっけか。
今は何時か分らないが、楓にもずいぶん心配かけてしまったようだ。
「ごめんな、楓」
「・・・よかった」
楓は俺の胸に顔を押し付けたまま言う。
「・・・無事で、なんともなくて、本当に、良かった」
「楓・・・」
俺は楓のふわふわの髪をゆっくりと撫でた。
「ごめんな、心配かけて」
「・・・元は、私のせい」
「そんなことない、楓は悪くない、悪いのはあの人だ」
抜け殻のように茫然自失となって連行される木下先輩をチラっと見やる。
「でも楓、よくここが分ったな」
「・・・いっぱい、いろんな人に、聞いた」
「そうか」
あの人見しりの楓が、自分から人に聞いて周ったのか。
怪我の功名というかなんというか。
「へへっあつつ!」
「・・・?あ!」
そういや、最後に殴られたんだっけか。
「動かないで」
「ん」
楓はポケットからハンカチを取り出す。
「ちょ、汚れるからいいって。こんなの舐めておけば」
「ダメ!」
楓にしては珍しく強い言葉。
俺は大人しく楓の好きなようにさせた。
楓は一度ハンカチを濡らしに行くと再び俺にくっつき、傷口を優しく拭う。
「っ!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「いや、大丈夫」
今日はさんざんな目にあったが、楓の優しい手当を受けているうちにだんだんとどうでもよくなってきた。
全国3位の頭脳はすごい、ということにしてください。