変化
小説初投稿です。亀更新になるかと思いますがどうぞ生温かい視線で気長に見守ってください。。。
俺の名前は城野内 健吾、ごく普通の高校2年生だ。
一つ普通じゃないとこを挙げるとしたら、最近行われた全国模試で全国3位をとったことくらいか。俺としては特に何の意気込みも気概もなく平平凡凡に挑んだ結果なのだが、こんな結果になった。
俺としては、どうせなら1位の方が自慢できるだろなんだよ3位とか微妙だなおいとか思っていた。
学校が騒がしかったのが面倒であった。開校以来初、全国模試1桁代を叩き出した生徒として大々的に取り上げられた。
俺は微妙な結果で無駄に自分でも知らなかった負けず嫌いな部分を実感しつつ静かに普通に学校生活をおくりたかったのだが・・・。
さて、こんな自慢のような愚痴のような駄文はこれ以上続けてもなんの得もないから置いておこう。なぜ俺がこんな語り部のような役割をしているかというと、原因は俺の肉親、父親が起こした騒動のせいである。
母は俺が幼いころ病気で亡くなり、男手ひとつでここまで育ててくれた事には大変恩義と多少の尊敬の念を込めて父と呼んでいたが、ある出来事によって俺は父への株を大幅下落させる事になる。
では、そろそろ現実逃避はやめて本題にでも入るとするかな。
俺の生活の全てが変わったあの日を、話すとしますかね・・・。
「・・・なんだって?」
俺は父特製チャーハンを頬張るのを止め、聞き返した。
「だから、父さん再婚することになった」
再婚・・・再婚とは 婚姻関係を終了した、つまり離婚した人が再び 結婚をすることを言う。
それで、何だ?再婚?誰が?この親父が?
「なんだその意外そうな顔は、これでも父さんモテるんだぞ」
ワッハッハ、と俺の困惑をあざ笑うかのような能天気な笑いに少しイラっとしつつ、もう一度確認するかのように聞く。
「親父が、再婚する、ってことでいいのか?」
「だから最初からそう言ってるだろ、俺より遥かに頭良いくせに物分かりの悪い奴め」
やかましいわ。
「明日には桜子さん・・・あぁ、再婚相手な、お前の母さんになる人だ。明日には桜子さん達がうちに越してくる予定だ」
なんだそれは、まず“桜子さん”なんて名前も親父の口から聞くのも初めてだし、そもそもいつの間にそんな関係に、というか今気になる単語があったぞおい。
「・・・親父、一つ確認したいんだが」
親父はレンゲを口に入れたまま小首を傾げて「ン?」と眉を上げる。女の子がやる分には可愛い動作なのかもしれんが中年オヤジがやっても気持ちが悪いだけだった。
「・・・桜子さん“達”って、言ったか?」
「おぉ、言ったぞ」
いや、この際言った言ってないはどうでもいい。
「再婚相手の次は誰が来るんだ?愛人か?妾か?側室か?」
「なんで俺が再婚するのに初めから浮気相手を、しかも一緒に住もうとするんだ、違うわ、俺は桜子さん一筋だ」
母さん(故)はどうした、もう過去の話なのか。
・・・過去の話しなんだろうな。
俺は自分が未だに母がいない事にたいして寂しさに似た感情を抱いていた事に初めて気づいた。
マザコンではないにしろ、俺を産んでくれた人だ、寂しがるくらい別に普通だろう、多分。
「んで?だったら一体誰が来るんだよ」
「あぁそうだった。喜べ健吾ぉ!妹ができるぞ!」
俺はこの頬に米粒を付けた中年オヤジが何を言ってるのかさっぱり理解できなかった。
「はじめましてー、大吾さんのおくさんになる、さくらこですー」
第一印象は“ドンくさそう”であった。なぜ語尾を伸ばす。話し方も妙にゆっくりだし、不思議とこの人の言葉がほぼ全てひらがなに聞こえてきたのは俺の幻聴だろうか。
腰まで届きそうなブロンドの髪に、軽くウェーブをかけてるためか内面も外見もふわふわしてそうだ。
「・・・・・・・・・。」
そしてブスっとむくれっ面をして俺を睨むちんまい奴が、おそらく俺の妹になる子なのだろう。母親同様、ブロンドのストレートロングヘアー。親子揃ってブロンドという事はどこかの血が混じっているのだろうか。一見すれば西洋人形にも見えなくもない整った小さな顔立ちにすらっとした体系、しかし、最初は多少警戒なり遠慮なりあるだろうとは思っていたが、いきなり敵意全開なのは流石に予想外だ。俺が何をした。
「もう、楓ちゃん?ちゃんとごあいさつしなきゃダメよー?」
「・・・・・・楓」
ボソっと小声で一言呟いた、おそらくきっと“楓”というのがこの子の名前なのだろう。
「ワッハッハ、初対面で緊張してるのか?健吾はガリ勉のムッツリだが悪い奴じゃない、安心してくれ」
誰がムッツリだ誰が。息子に隠してこっそり結婚相手こさえていた親父には言われたくないわ。
「・・・城野内 健吾だ。なんでそんな睨まれてるのかよく分らんが、まぁ今日から俺らは兄妹になるようだから、よろしく」
「・・・・・・ふん」
なんだこいつは、俺の自己紹介を人の事を馬鹿にしたように鼻で笑って一蹴にしやがった。喧嘩売ってるのかこのミニマムは。
「もう、楓ちゃんったらー・・・」
「・・・で、部屋はどこ?早く荷解きしたいんだけど」
周囲の意見なんかどうでもいい、といった態度で言い放つ。その言葉にはまるで温度を感じなかった。本気でどうでもいいと思ってるようだ。
「楓ちゃんの部屋はこっちだ、ちゃんと昨日健吾に掃除させたから綺麗だぞー」
この親父はサプライズのためとかいうふざけた理由で前日まで引っ越しの事を黙っていて、肝心の部屋の方は蚊帳の外だったらしく、何故か俺が急遽大掃除に駆り出されることになったのだ。
そんなひとの苦労も知らん顔な感じで楓とやらは親父と2階へあがって行った。
「・・・・・・。」
「・・・・・・(ニコニコ)」
気まずい。
そもそも名前を知ったのも昨日だし、どんな人とかそういった情報が一切何もないんだ、会話のしようがない。
「・・・えっと、桜子・・・さん?」
「おかあさん、ですよー」
は?
「いや、桜子、さ「おかあさん、ですよー」」
ふぅ、と俺はひとつ小さくため息をつく。前にも思ったが、俺はマザコンなのだろうか?
「一つ言っておきます」
「なーに?」
俺は桜子さんの前に対峙して話す。
「俺の母さんは、俺を産んでくれた母さんただ一人です。それ以外の例外は今のところ受け入れられません、桜子さん」
桜子さんはジッとこちらを見たまま何も言わない。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
気まずい時間が過ぎて行く。お互いの主張を曲げずにぶつけ合い、落とし所を誤った。でも俺は訂正も撤回もする気はないししたくない。
「・・・では、俺も部屋に戻りますね、桜子さん」
桜子さんは最後まで何も言わなかった。
カリカリとシャープペンシルを走らせていると、それだけで気分が高揚してくる。自分の中に未知なる知識が増えてくるこの感覚は恐らくほとんどの人には理解されないであろう。
桜子さんとの会話に気まずくなった俺は自室に逃げ込み勉強することで現実逃避をしていた。
ちょうどあと1問でこのページが終わる、というところで隣の部屋から可愛い悲鳴と物が崩れる音が聞こえた。
さすがに放っておけず、俺は参考書を閉じ、自室を出て隣の住人、楓が住む部屋のドアの前まで来た。
さて、どうするか、初対面であれだけ睨まれたんだ、部屋に入ろうものなら何言われるか分ったものでもない。
俺はとりあえず、控えめにドアをノックした。
「・・・おーい、何かあったのかー?」
しかし、帰ってくるのは沈黙のみ、予想通りだ。
俺は踵を返して自室に戻ろうとすると、わずかに声が聞こえた。
「・・・た・・・けて・・」
た、けて、たけて、たすけて、助けて。
俺はなんとなく嫌な予感がして罵倒を覚悟しドアを開け放った。そこは混沌とした空間が広がっていた。
散乱した衣服、小物、崩れたダンボール、強盗が入りましたと言っても通じそうな状況であった。
「・・・おーい、楓ちゃんはいるかー?」
「・・・うぅ」
一番ダンボールや衣服の崩れが激しい場所からわずかにうめき声。
俺は荷物をどけて行くと、ブロンドのふわふわした髪が見えた、ビンゴ。
一通り荷物をどける、しかし、重いものからか軽いものまでよくもまぁこんなにごちゃ混ぜになったものだ、引っ越し業者はどんな積み方をしたのやら。大量の荷物をどけてようやく彼女を助け起こす。今回は助けてもらった事もあるのか睨みも罵倒も何もなかった。
「とりあえず、軽いものの上に重い物を置くな、こういうことになる」
「・・・・・・ん」
とりあえず、この子が無事だったらもうここに用はない。この子も、理由は分らんが敵意を持つ相手をいつまでも部屋に入れたくはないであろう。
「じゃ、俺は部屋に戻るから」
「あっ・・・」
俺が踵を返すと化の語は小さな声で反応する。俺は肩越しに振り返って「ん?」と尋ねると、彼女は顔を赤くしてところどころ詰まりながら言った。
「・・・あ、あり、が・・・と」
「・・・・・・・・・」
おっといけない、いきなり予想外な事だったから思考がフリーズしていたようだ。
先ほどまではあれほど敵意を持った目で見てたのに、急にこんなしおらしい態度、逆に怪しく思ってしまうのは俺の性根がひねくれ曲がっているからなのだろうか。
「・・・お、おう」
俺は彼女の気が変わらないうちにさっさと自室へと退散した。
「・・・ふぅ」
思わぬ失態だった。まさか荷物が崩れてくるとは、宅配業者め、いい加減な詰み方しやがって。
それにしても・・・。
「・・・・・・」
あの男、何もしなかった。今までの男達みたいにジロジロ見てきたりあからさまにすり寄ってきたりせず、至って普通に接してきた。
あの人なら、彼なら、もしかしたら・・・。
「ふはぁぁぁー・・・」
カポーンという効果音が似合いそうな浴室で、俺は湯船につかってくつろいでいた。普段運動なんぞしない俺が人助けとはいえ重い荷物を運んでしまったせいで若干腕がプルプルするが気のせいだと思いたい。
「しっかし、妹、かぁ」
正直、どうしたら良いか分らない。生まれてこのかた一人っ子だったので兄妹というものがまったく想像できなかった。
テレビや小説などで出てくるような兄妹なら一応理解しているが、俺はそんな気の効いた人間ではない。
どうしたものかなぁ、と一人呟いていると擦りガラスの向こう、脱衣所に人影が。
「なんだ、誰だー?」
しかし、返事がない。
人影はなにやらごそごそと動いている。こころなしか肌色面積が増えて言っている気もする。
なんだこれは、俺は脳内をフル回転させる。
この状況はなんだ、まず冷静になろう、そう、クールだ。よし、俺は今風呂に入っていて、入る前に家族にも風呂に入る意思を告げたからうっかり鉢合わせなんて嬉し恥ずかしイベントなんて起きるはずもない。
では、脱衣所で現在進行形で服を脱いでいるらしい人はなんだ。しかも妙にクネクネしているのが若干きになるが。
やがて、服を全て脱ぎ終わったのか、バスタオルで体を隠したようだ。親父かと思ったが胸の辺りまでバスタオルの影が見える、親父じゃないのか?そして本当に入ってくるみたいだった。
どうする、もう一度俺がここにいると意思表示すべきか、しかし相手はもう扉の向こうで準備万端。今にも扉を開けそうだ。
ガチャン、と風呂の扉がゆっくりと開く。まるでこちらを煽るかのようにゆっくりともったいつけて。
すっと生足が入ってくる。
心臓の鼓動がうるさい。いやがおうにもそっちに目が行ってしまう。
ゆっくりと、影の主が浴室に―――――
「はぁい、健吾、パパと裸の付き合いでもしない?」
「そうだろうと思ったよ!」
俺は全力で桶をぶん投げた。
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