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わたくしと魔王の  作者:
第二章
6/36

わたくしと魔王の今後の計画









 その目覚めは滑らかだった。窓から煌びやかに差し込む陽光も小鳥の囀りも、召使が扉を叩く音もなくただ、シラヴィルは目蓋を自然に開ける。

 けれどその何の違和感ない目覚めに反し、視界は不可解なもので溢れていた。

 まず夕時のように暗い。そしてベッドについているはずの天蓋がない。

 なるほど、魔王の城だからかとシラヴィルが一人納得し寝返りを打てば、紙をめくる乾いた音が耳に届く。

 その方では年頃の女が、一人。椅子に腰かけ傍らのテーブルに小さなランプを置き、視線を分厚い本へと落としていた。


「……起きたか」


 彼女はどうやら本から顔を上げないままに、目覚めた視線に気が付いたらしい。呟かれた方へシラヴィルが寝起きの瞳を向ければ、徐々に焦点がくっきりと合う。

 そして轟くような絶叫が、小さな室内に充満した。


「……騒々しい」


 激しく鼓膜を震わす音を耳に女は、目を通していた書籍を膝の上で閉じ小さく細い息を落とす。

 しかし瞬時に頭から布団をかぶってしまったシラヴィルにその声は届かず、籠った悲鳴だけが延々と続いた。


「なっ、何故どういう事っ!? わたくし、死ぬのっ!?」

「死ぬ?」

「聞いたことがあるわっ……もう一人の自分を自分で見てしまうと、死んでしまうって!!」


 布団の中で震えるシラヴィルは、幼いころ召使から聞いた話を思い出していた。

 自分と同じ姿をした者の出現は不吉の象徴であり、己自身に不幸と死を招くもの。

 先程目にした椅子に腰かけた女の姿は、シラヴィル自身そのものだった。


「……なるほど。二重の歩く者、か」


 丸まった布団から聞こえる声に軽く頷いた女は、足を組み直し言葉を続ける。


「自己像幻視とも呼ばれる。通例に目撃されるそれは、魔術であり呪いでもある」

「あっ、でも確か現れた自分を思い切り罵倒すれば助かるのよねっ! この無礼者っ! 不届き者っ! あろうことかわたくしの姿を借りるだな……」


 シラヴィルは不意に、そこで絶句した。

 熱のこもった布団の中で首を傾げれば、どうにも覚えのありすぎる感覚に疑問符が浮かぶ。


「あら……? わたくし、声がおかしいわ」

「またそこからか」


 己を包み込む布団を取り払い、体を起こしたシラヴィルは部屋の中へと顔を向けた。そこにはやはり、栗色の髪を下ろした自分自身が眉根を多大に寄せていたが、今度は悲鳴を上げない。

 彼女のドレスは斑に汚れ、所々がほつれ、裾に関してはざっくりと裂けた様だったが、間違いなく式典用の礼服だった。つまり昨日のままの姿の自分が、今シラヴィルの目の前にいる。

 まじまじとその姿を見つめ立ち上がるとシラヴィルは、いつもより高い視野で部屋の隅に位置する鏡へと向かう。誰かに背負われているかのような光景に、時折足元がふらついた。


「…………。」


 青銅の鏡は、透き通るほどに磨き上げられていた。手を伸ばせばその向こう側に行けそうな鏡面、目を丸くした魔王がこちらを見つめている。

 右手を上げれば映りこんだ魔王もそれに従い、手を振れば同じく振り返される。その動きには寸分の誤差なく、そこまでしてシラヴィルはようやく昨夜の全貌を思い出した。


「あ……あなたっ!」


 勢いよく振り返れば、椅子の上で自身がまた本のページをめくっていた。


「これは全部夢で、寝れば起きれば覚めるって言ったじゃないっ!!」

「覚めなかったな」

「な、なんでこんな事になっているのっ!」


 昨晩階段から落下した後、どこかおかしい身体を忙しなく探るシラヴィルの手を、目の前に現れた自分が掴んだ。

 まずその時点でシラヴィルの悲鳴が上がらなかったことは、恐らく落下の衝撃から少しばかり無感動状態になっていたからだろう。それでもみるみるうちに青くなっていく表情に、目の前に現れた自分は微笑んだ。

 これは夢よ、眠れば覚めるわ。

 その艶やかな笑みはいつも鏡の中にあるものとは若干違うように見え、更に掴まれた腕は少し痛かったが、シラヴィルは素直に納得をした。

 自分がいう事なのだから間違いないだろうと。

 けれど現実放棄をしてみようと、目を覚ませば眠る前と何一つ状況は変わっていない。かき上げようとした髪は短く、首筋にあたった手は骨ばっており、全ての行動に違和感が付く。


「非常に興味深い現象だ……落下時の傷が治っているところ、体の機能はそのままに精神のみ入れ替わったとみるべきだろう」

「そんな事を聞いてるんじゃあないわっ! ……うっ。声が気持ち悪いわ……」

「それは此方も同じだ」


 首へと手をやったシラヴィルは、そこにある喉仏に眩暈を覚えた。


「あー、あー、あー。……も、元に戻しなさいよっ!」

「声調を今すぐ元に戻せ」


 睫毛を伏せ、涼しげに読書に勤しんでいた姫の姿をした魔王の眉が、ピクリと寄せられる。

 いくら高いものにしようと所詮、声帯自体が男のもの。そこから出るのも当然男の声で。

 自分が発したそれの想像以上の気色悪さに、魔王の姿をしたシラヴィルは速やかに高くしていた声調を元に戻した。


「そ、それで何なのよこの状況は! こんな事が許されると思っているのっ? 早く元に戻しなさいっ!!」

「今調べている最中だ」

「は……調べているって。あなたがやったことでしょう、あなた魔王でしょうっ!?」


 自分自身の姿に向かって魔王、と呼びかけるのは多大に不服であるシラヴィルだが、現状からして事実そうなのだから仕方がない。


「不測の事態だ。そして今はただの小娘に過ぎない」

「ただの小娘ですって!? 人の身体を奪っておきながらなんて言いぐさなの!」


 金切り声を上げ続けるシラヴィルは両手を添えた頭を振り、そんな自分の姿を見たくないのか魔王は、口を閉じ古書の文字列を黙々と追う。


「……どこへ行く」


 やがて静かに扉へと向かいだしたシラヴィルは、その音に含まれた静止の意味に気づくも、振り返らない。

 けれど、歩みを一旦止める。


「決まっているでしょう、城に帰るのよ。お父様ならきっと治して下さるわ。どこかの駄王とは違うのよ

「……その姿でか」


 止めても聞かないという明確な意思の中、ちゃっかり彼女が発した嫌味に、あからさまな嘲笑が飛ぶ。


「魔王が国王に〝お父様〟、と縋り付く。……良い噂の種だな」


 頭にきたシラヴィルがくるりと顔だけを背後に向けてみれば、そこでは目を細めた魔王が妖しく口角を釣り上げていた。


「な、なんて底意地の悪い顔をするのっ! わたくしの姿で無礼な振る舞いはやめなさいっ!」

「その姿で女言葉よりはマシだ」


 眇められた魔王の瞳には、妙に威圧感があった。自分の体に威圧されるなどシラヴィルはそれ自体がまず不満だったが、相手の言葉に一理あることもまた彼女の鬱憤を溜めさせた。

 確かに今の自分が国に戻ったところで誰が、シラヴィル・アン・カルバスだと信じるだろう。

 いくら訴えたところで怪しまれるのは当然であるし、その後囚われる又は処刑にでもされてしまっては堪らない。更に最悪の事態、全てが終わった後にもし、処刑したのが自分の娘だと父が気づいた場合どうなるのか。

 身内殺しは最悪の大罪。

 一国の王とはいえ、それからは逃れられないだろう。


「……どうすればいいの」


 絶望に膝の力が抜けた。

 へたり込んだシラヴィルは、その上体を毛の短い絨毯に投げ出し、さめざめと両手で顔を覆う。拳を握ろうにも長い爪が邪魔で、情けなく力を抜くことしかできない。


「元に戻るまでお前は、魔王として振る舞え」


 そんな劇的な様子を観察していたのか、魔王からの返答には数秒間が空いた。声に惹かれるようシラヴィルは、伏せていた顔をぴくりと上げる。


「何故わたくしがそんなことをしなければならないの?お断りするわ」

「愁傷は一瞬か」

「大体、調べものなど部下にさせればいいじゃない」


 魔王の膝の上で分厚い古書が閉じられる音がした。ぴくりと身を竦めたシラヴィルに、本を机の上へと置いた魔王が改めて視線を向けてくる。


「一から言わねば分からんらしい」

「言わずとも分かると思うなら大間違いよ」

「まず現状。〝魔王〟と〝姫〟の肉体の中身が入れ替わっている事は分かるか」


 そう言って魔王は足を組み替えた。その淡々な口調はまるで馬鹿にしているかのようにシラヴィルには聞こえた。色々と言いたいこともある彼女だが、とりあえずは床に這い蹲ったままで頷く。


「意識……精神? だけが入れ替わっているの、よね?」

「昨晩の傷はもう無いだろう」


 昨晩階段から転落したにかかわらず、傷一つ残っていない身体は、自然治癒力の長けた魔族のそれ。ランプ一つしかない部屋の中、しっかりと相手の姿を確認できる目は、夜目の利く魔族のそれ。

 それらは形だけでなく、使い慣れない“魔物”としての身体の機能が、すべてが正常に働いている事の証明であり。同時にそこに覚える違和感こそが、シラヴィルの意識と記憶が保たれている証拠だった。


「つまり今、どちらの体も魔力を扱う事が出来ないのは分かるか」

「何故? わたくしは当然使えないけど、あなたは魔王でしょう?」

「今はただの人間の小娘だ。魔族としての身体を失ったとなれば、魔力の扱いは難しいだろう」


 自身の中に無い知識を当然のように語られ、未だ絨毯に伏せたままのシラヴィルは眉を不可解に寄せる。

 魔法の扱いというものは、天性の資質と知識からくるもの。そう耳にしてはいたが、そのどちらかが欠けただけで、本当に途端に使えなくなるものなのか。


「でも、人間にも魔術が扱える者はいるし……努力すれば何とかなるのではないかしら」

「高が知れる」


 混乱し始める頭の中をどうにか整頓し、魔王の言わんとするところをシラヴィルは探す。

 魔法の扱いの知識を持つ魔王は、けれど資質のない人間の身体。

 天性の資質を持つ魔族の身体に入ったシラヴィルは、けれどその知識が欠片もない。


「つまり、わたくしやあなたがどれだけ努力して魔術を扱おうとしても、中身と外見が中途半端だという事で……この状態を元に戻す程に大きな魔術は使えないという事?」

「正確には元に戻す方法はあるが」


 言葉にシラヴィルは上体を上げた。資質を手に入れたシラヴィルが知識を仕入れる作業も、資質を失った魔王が身体を使いこなせるようになるのにも、相当な時間を必要とするだろう。

 けれど魔王は他に策を思いついたのか。


「但しまず原因の解明。次に解決法。実行手段。最後にそれに必要となる物をすべて文献から探さねばならない。その為の魔王代行だ」

「……言いたいことは分かったわ」


 つまり調べものには意味があるが時間が掛かるのは絶対なので、その間代行しろというのが魔王の言い分だった。

 シラヴィルは苛立たしげに息をつく。

 一から話せと言ったのはシラヴィルだが、魔王の話は長いうえ最初の問いの答えにもなっておらず、またその実行手段がなにせ回りくどかったからだ。


「時間が掛かるのよね? それならばやっぱり、調べものは部下にやらせれば良いと思うわ。……あと、あなた友人はいないの? その方に何とかして頂く方が早いのではないかしら?」

「魔族は自身より力の強い者のみに従う。今の状態では――」

「お願いする事は出来ないの?」


 間髪入れず言葉を紡げば無言の肯定が返される。シラヴィルは一つ、瞬きをした。


「なるほど。友人がいないのね」

「そういった概念が無い」

「あなたも大変なのね」


 椅子に座った“王女”の栗色の瞳が、あどけなく丸まる。


「でも大丈夫よ。わたくし、あなたの友人になる気はないけど、解決するまでは傍にいるわ。そうすれば寂しくないでしょう?」


 入れ替わって以来どこか不遜だった、自分の前にある自分自身の表情が、初めてらしいものになった事にシラヴィルは柔らかな笑みを浮かべる。

 力で抑え込む上下関係は友人と呼べるものではなく、全てがお願いではなく命令になる現実を、王女である彼女もまた知っていた。

 けれど力の強弱だけを概念とする魔族と人間のそれは、根本的に違う。

 首を捻った魔王が軽く睫毛を伏せるさまを、シラヴィルは共感を讃える笑みで見つめた。


「……話を戻す」

「あ、なんとなくわかったわ。つまり、今あなたは魔法を使えない身で、魔族としては最弱だから、力で誰かのいう事を聞かせるという事が出来ないのね。だから部下に調べものをさせる事が出来ないという事?」

「理由としてはあと一つ」


 自身の満面の笑みが、見るに堪えなかったのか。出会って初めて覚えた親近感を花開かせるシラヴィルに、魔王の視線は古書へと流れる。


「この状態が部下に露見してしまえば途端、喰われる」

「あらそうなの、いい気味」

「……。」


 ちらり、とまた戻された魔王の視線を受け、シラヴィルは明るく笑った。


「でも安心して。わたくし魔族の知り合いは、昨日のトカゲさんとカラスさんとあなたくらいだから」

「あれはヤモリだ」

「トカゲさんやカラスさんにバレたらまずいなら、決して口外なんてしないわ。正直あなたの事、食べられてしまえばいいと思うくらいには嫌いだけど」


 人差し指を立て、一人満足気に頷くシラヴィルは上機嫌だった。

 対する魔王の眉は、彼女からの言葉を受けるにつれ不可解に寄っていく。


「……これはお前の体だが」

「……。」

「……。」


 細長く吐き出された魔王のため息が、小さな部屋に静かに落ちた。


「はっ!? 何を言っているの!? 食べられるのなら自分だけ食べられなさいよっ!!」


 次の瞬間、シラヴィルの落とされていた膝が弾かれたように上がる。


「人間の娘の体に詰まった魔力の塊……最高のご馳走だな」

「あ、あなたっ! わたくしを食べるつもりなのっ!?」


 目を細め口角を釣り上げた魔王に、シラヴィルは己の身体を抱いた。

 それにもまた、落とされるのはため息。


「そろそろ自分の体を自覚しろ。二度言わせるな」


 シラヴィルにも当然、行動の後に違和感はあった。どうにもごつごつしており、柔らかみの欠片もない身体。中身がどうであれ男が己の体を抱く姿など、傍から見れば相当気持ちの悪い仕草だっただろう。

 けれどそう簡単に切り替えられるものでもなく、どうにも慣れない現状に肩を落としつつも、シラヴィルは結論を潔くまとめた。


「つまりあなたの入り込んだ今の私の体は魔族にとって、ウズラのフォアグラ詰めキャラメリゼくらいのご馳走ってことね。……あなたの部下にはばれないよう、魔王代行を努力するわ」


 自分の体が食べられてしまうとなれば、部下には決してばれてはならない。ばれないよう考えれば、代行を引き受けざるを得ない。

 魔王代行など、聞くだけで面倒なものだが。実際何をすればいいのかと、シラヴィルは腕を組み壁に凭れた。


「……そうだな」


 魔王の方も先を案じているのか、半ばうわの空で小さく呟き足を組み替える。

 ぼんやりとその様子を眺めていたシラヴィルの眉が寄ったのは、その瞬間だった。


「というかあなたこそわたくしの体だと自覚しなさいよ。さっきからあなた、淑女は足を組むものではないのよ?」


 先程から、数回。行われていたが口の挟めなかった仕草をようやく指摘する事の出来たシラヴィルはその勢いに乗って、処々気になっていた自分の身体の有様を、全て正そうと矢継ぎ早に吐き出した。


「それに何? 今日、髪は梳かした? それにそんなボロボロのドレスで恥ずかしくはないの? あなたの方こそ、王女らしい振る舞いをしなさいよ!」

「お前、先程床に」

「あああ、お気に入りのヒールは折れているし……っ! いえ、折れてしまったのは仕方がないとして、せめて履き替えなさいっ! 魔王なら何でもいいのかもしれないけれど今は私で、あなたは魔王ではないのよ!?」

「……魔王ではあるが」

「そういう事ではなく! 私は魔王だけれど私なのと同じで、あなたは魔王でも私でしょう!?」


 姫として以前、女として有り得ない自分の姿に苛々と紡がれるシラヴィルの言葉。

 それに魔王は眉を寄せ、首を傾げた。

 何がいいたいのかよくわからない、といった相手の表情に何故伝わらないのかと、シラヴィルは吐き出した言葉を回想する。


「だから、つまり、あなたは魔王でも姫で、わたくしで……つまりわたくしが、シラヴィル・アン・カルバスが今、魔王になっているのと同じで」


 吐き出すうち、自分自身混乱してきたシラヴィル。一つずつの単語を確認するようゆっくりと動かされていた唇が、そこでぴたりと止まった。


「部下の前ではそれなりに振る舞うつもりだ」

「それだわ!」


 彼女の言わんとするところを察し魔王が答えを返した時には、シラヴィルはまた一人、結論を出していた。


「あなたの名前を聞いていないわ! だからややこしいのよ」


 問題点を挙げ、瞳を輝かせながら答えを待つシラヴィルに、今度こそ魔王は呆れの表情を向けた。


「名などない」

「何を言っているの?無いわけがないでしょう、ご両親から頂いたありがたい名前が」

「……親はない。気付けば己が居た」


 短く告げ、魔王は置いた古書に手を伸ばす。それは魔族としての事実。そしてこれ以上の説明が面倒だという意思の表れだったのだが、やはりシラヴィルはずれた結論を出した。


「あらあなた噂の、孤児なのね」

「……。」


 膝の上で古書を開く魔王の視線が一瞬シラヴィルの方に向き、また戻る。

 その無言を肯定としたシラヴィルは、指先をあごに添えた。

 城内の召使が言うに、他国では孤児という親を失った子が存在するらしい。

 自国カルバスが勢力を広げるための戦争で更にそれは増大したらしいが、そのカルバス自身に、孤児というものは、ほぼいない。病などで遺言を残された場合以外、先立ったものを追うのは当然だからだ。


「でも魔物なら孤児と言わないのかしら……」


 身近に無い存在な上、そもそも野生の獣は野良と呼ばれるはず。更にそれらは、魔物に適応されるものなのか分からない。

 しばらくの間首を捻っていたシラヴィルは、それでも、やがて思考に浮かんだ単語に頷いた。


「ではノラ、手始めに身辺を整えなさい」


 仁王立ちで告げたシラヴィルに、ページを捲りかけた魔王の手が止まる。

 何か考えるように僅か上げられた視線が彷徨い、また古書へそれは戻され、かと思えば重たげに古書を持ち上げた魔王が、おもむろに開かれたページをシラヴィルに向けた。


「……? 全く意味が分からないわ」

「その通りだ」


 理解不能な文字の羅列。シラヴィルの顰められた表情を見下ろし、魔王は深く頷いた。







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