わたくしと魔王の書庫での時間
最近シラヴィルが常駐している書庫の椅子は、長時間腰を下ろす事に適していない。
机の上に重ねられた古書は既に十数冊を超え、硬い椅子の上で居心地悪く腰の位置をずらしていたシラヴィルは、椅子から立ち上がったノラの方へぐるりと顔を向けた。
「それ、特に何も書いてなかったわよ」
本棚に伸ばしかけていたノラの指先が止まる。
「何故わかる」
「挿絵と文章の機微的に、よ」
ノラが引き抜こうとしていた本を、シラヴィルは既に読んでいた。
そして以前ページを千切ってしまった古書を、予め隠しておいたことは幸いだった。
彼がもう既にそれを読んでいる事は知っていたが、見つかれば最後。
他にも調理中、鍋に落としてしまったもの等など。手当たり次第本を抜き取っている魔王に発見されれば何を言われるかと、シラヴィルは内心気が気でない。
視界の端で監視するよう捉えれば右隣、少し距離を置いて腰を下ろしたノラの前には、積み重ねられた古書の山脈が連なっている。
「……そもそも、何故民はそんなに不満を抱えているの?」
「生活にゆとりが無い。風習により産まれ出る子を制限するという発想が無く、それにより更に生活が圧迫される」
長い無言に耐え切れずページを一枚めくりながらシラヴィルが問えば、半場うわの空のような声で、けれどしっかりとした答えが返ってきた。恐らく分かりやすく話してくれているのだろう。
お互い視線は古書へと落としたままに、問いと返答を繰り返す。
「けれど、望んで産んだ子供でしょう?」
「望んでいないことを民は知らない」
「良く分からないわ。産まれた子の食べ物が無いの? なら食べ物さえあればそれでいいの?」
「食は生活にゆとりを生むだろう。全ては王の課す税が重いからと、一つのパンを二人で分けざるを得ない現状だ」
「あら、パンが無いのなら」
「菓子もないぞ……先に言っておくが」
先読みするかのような言葉に、シラヴィルは伏せていた視線を上げた。その先、ノラは目を通していた古書を静かに閉じ、次の古書を手に取りまた黙々とページを開き始める。
この魔王は、どうやら反乱の誘発を企てているようだが。
国を脅かすものが民の不満だと言うなら、その解消方法を問えば良いのではないかと、単純にして明快な思考で相手に問いかけていたシラヴィルは、内心で首を傾けた。
諸悪の根源であるはずのノラは、何故こうも素直に解決策を答えるのか。
その言葉が嘘とも思えないぶん、更にシラヴィルの中の不信感は募る。加えて魔王の前に速やかに積み直されていく古書の移動頻度が、明らかに異常だった。
「……あなた、本当に真面目に調べている?」
「お前よりは集中していると思うが」
シラヴィルが思いつきで口にしたのは国情についての話だったが、現在二人で調べ上げているのは、入れ替わりを元に戻す方法。
カルバスを滅ぼしかねん、恐ろしい計画を練っていた相手と腰を並べているのは、他に漏らせない共通の問題を抱えているからこそだとシラヴィルは自らに言い聞かせていた。そうでなければ、流石に気まずい筈だと。
ちらりと視線を流した先、魔王の方はどう考えているのか。普段以上に素っ気ない言葉は、確かに古書に集中している故のものにも思えた。
「……けれそれにしては、どうにも本を読む速さが異常だわ。分かっているのよ、あなたってば読んでいるふりをしているのでしょう?」
「逆に問うがシラヴィル、何故それほどに遅い。文字を読んでいる訳でもないだろうに」
「文字が読めないからこそ遅いのよ!」
初歩的な読み書きしか習ってきていないシラヴィルは、分厚い古書の殆どを読解出来ていない。
それでも求めるものに近しい情報を得ているような気はしていた。文字ばかりの中にある挿絵には、間違いなく深い意味がある気がする。
「……そんなことより、思ったのよ。あなたはやけに素直すぎるわ。つまり、あなたは嘘をついているわ!」
「お前に嘘をつく理由が無い」
「あるでしょう。わたくしに元の身体に戻られては困るのではなくて? だから飄々と嘘をついたり、調べものをしているふりをしているのでしょう?」
疑惑の視線を率直に向ければ、そこでようやくノラの視線が古書から上がった。
馴染んだランプの灯の元。橙色に薄く染まった魔王の表情に、僅かに苛立ちが浮かんだこと察したシラヴィルは、少しばかり気圧される。
「何故それがお前に嘘をつかねばならない理由になる」
「だ、だからわたくしが元の身体に戻ったら、城を勝手に脱走されて策略を妨害されるのではないか……などと普通思うのではないかと思っても……不思議じゃないでしょう!?」
「なるほど。その為に民の不満の解消方法を問うていたのか。だが無駄な事だ」
我ながら中々的を射た推測だと感じていたシラヴィルは、また視線を古書へと戻したノラに口を尖らせた。
「何が無駄なのかしら。ふっ……近頃わたくしは以前にも増して聡明になっているの。下手な言い分は通じなくてよ?」
「……。元に戻る事は此方としても本位だ。元の状態にさえ戻ればお前が脱走、もとい策略の妨害を行える可能性は無に値する」
現在既に可能性は皆無だがな、と続けて落とした魔王にシラヴィルは内心舌打ちした。
現状に関しては、確かに。しかし元に戻った後の可能性は、行ってみなければ分からないものである。
己とて何の計画なしに行動を起こすつもりなどないと、手元に視線を落としシラヴィルが乱雑にページ捲れば、ノラが静かなため息を落とす。
「……反乱が起きれば、後は好きにすると良い」
「そうなれば後戻り出来ないものね。……因みにあと、どの位で反乱は起きるの?」
時間が刻々と迫っている事は、シラヴィルにも分かっていた。
砂時計のように目に見える動きではない、しかし確実に訪れるその時。心中を纏める為にも、残された時間は把握しておきたかった。
「さてな。影からはまだ決行の日取りは入ってきていない」
「そういえば以前もそんな事を言っていたわね。大体何なの、影って。魔力とは違うのかしら」
「一般的に影というものは、目は無いが振動と存在を感知し、ある程度自在に動く事が出来る……いわば便利な耳のようなものだ。お前の足元にもあるだろう、それが影だ」
シラヴィルは古書から視線を外し、足元を確認した。
そこには確かに影がある。
「残念ながら普通、影は伸びないわ。実際にわたくしの影は動かないもの」
「偶に動いている」
「え」
「無意識か」
言われ、改めてシラヴィルは己の影を見下ろしてみる。橙の薄明かりと混じりぼんやりと霞んだ黒に伸びろ、と念じてみるが動く気配はない。
「伸びないじゃない! そうよ、普通影は伸びないし耳もついてないし、誰かの存在の感知? なんて芸当は出来ないものよ……やはり魔力的なものなのではないの?」
「詳しく話しても良いが、お前には理解できない」
「何を勝手に決めているのかしら!?」
常識を確認しつつ返せばきっぱりと言い切られ、シラヴィルは眉根を多大に寄せる。
その食ってかかるような視線を感じたのか、ノラの古書のページを捲る手が止まり、しばし逡巡の時が置かれた。
「影には二種類がある。己のものと、他のもの。己の影は魔にとって自分自身といえる。しかし伸ばされる又は薄められればその存在自体が希薄になると同義であり、本体から遠ざかるにつれ効力を徐々に失う事になる。個人的な話をするならば、切り離した影が活動できるのは精々が三日。つまり三日に一度は本体に戻る必要があるが、制限時間内であれば何処まででも――」
「の、ノラっ!」
「……なんだ」
慌ててシラヴィルが静止をかければ、ノラの何処か楽しげな視線が流れてくる。
「あなた……本当に説明をしようという気がある?」
「実を言うとあまり無い」
やはりかと思いつつ、ほぼ解読不能だった魔王の言葉をシラヴィルは必死に反芻した。どこか引っかかる部分がある。
「その、切り離した影? というのは三日に一度は本体の元に戻らなくてはならないのよね? 戻れなかった場合、どうなるの?」
「……戻れない、という状況は通常はありえない。影はあくまでも本体の一部。時が来れば強制的に、元あるべき場所に戻ってしまう……という話だ」
シラヴィルは混乱しながらも言葉を纏めた。
時間に制限はあるも、魔物は当然のように影を切り離したり操ったりが出来るらしい。そしてその影は自分自身だと、軽く返した魔王は先程言っていた。
ならば、とシラヴィルは視線を手元に落とす。軽く手をかかげれば、古書の文字にかぶるよう、くっきりと落ちる影がそこにはある。
「……わたくしから伸びていた影というのは、わたくし自身の影なのかしら?」
「お前の今、足元にある影はその体のものだ。でなければ周囲がとうに怪しんでいる」
「つまりこの、魔王の身体の足元にある影は、魔王自身の……ノラ、あなたの影という事?」
「そうだ。つまり当然、此方からも動かそうと思えば動かせる」
言葉にシラヴィルの足元の影が細い一本に纏まり、螺旋を描くよう丸まった。瞠目しながら眺めたそれは、確かに魔王自身の影らしい。
「成程ね……でも不思議だわ。ならば今その、あなたの足元にある影は……姫のものなの? それとも魔王のものなの? わたくしのものにしては、あなた随分好き勝手動かしてくれているようだけれど」
「両方だ。入れ替わったとはいえ、人の影は身から決して離れないようだが…異物があるせいで影を伸ばすにも普段と勝手が違った」
「異物で悪かったわね。……大体、何故そちらだけ影が二種類混ざっているのかしら」
「それは本来が影であるからだ」
シラヴィルはちらりと横目を流した。その先、ノラはいたって平然と古書のページを捲っている。
「……ノラ、あなた影なの?」
「影だ」
ジジッ、とランプの芯が燃え上げる音がする。シラヴィルは机の上に肘をつき、手のひらの上に額を乗せた。
「えー……影なの?」
「何が言いたい」
「いえ、その……それなら、本体は何処にあるのかしら? つまり、あなたが言ってることは……つまりあなたが影だということは、この魔王の身体すらも影だということかしら?」
「そうだ」
「……つまり本体は何処かにあるという事よね? あら? あなた先程、影は耳のようなものだとか何とか……そもそも影とは、手に触れられるものだったかしら……?」
「目をつくれば見えるのが当然。形を持たせれば触れられるのは当然だろう」
頭がこんがらがりながらも無理矢理話を進めていたシラヴィルは、平坦な声で返され、がくりと肩を落とした。
ノラの言う“影”と己の認識の中の“影”があまりにもかけ離れすぎていることに、同じ話をしているはずなのに何処か食い違っているかのような印象を受ける。
不可解。理解が、不能である。
姫の足元にあるのは影。ノラ自身は影。そして魔王の身体自体も影という、今明かされる訳の分からない真実に、改めてシラヴィルは肩を落とす。
「あと本体の場所は何処かと聞いたが……その程度、自分で調べてみろ」
「なによそれ」
「教える気はないという事だ」
そしてどうやら、ノラにとってその本体の在り処は極秘事項らしい。
「……あらそう。なら、意地でも調べ上げてみせるわ」
「ならば意地でも隠し通してやろう」
聞けば何でも教えてくれる魔王の初めての隠し事に、机に突っ伏しかけていたシラヴィルはピクリと眉を上げた。この話は此処でお終いだ、とでも言わんばかりに古書を閉じた相手の態度に、好奇心が擽られる。
けれど今現在、その続きを追い求める事は無理だろう。
それについて口を開く気が無いらしいノラから視線を外し、前のめりになりかけていた身体を起こしたシラヴィルは、しばし口を閉じ先程までの会話の流れを思い返した。
「えー……つまり先程までの話で言うと、今“姫”の身体には、あなた自身が、あなたの影が宿っているということよね?」
「そうだ」
今更何を、とでも言いたげな魔王の表情をシラヴィルは真顔で見つめ返した。
「何故元の身体に戻ろうとしないの?」
魔王は影を己自身だといっていた。
そして切り離されている影は任意で操れるらしく、ならば元の身体に戻る事は安易なのではないのか。
「あなたが元の身体に戻れば、わたくしも元の身体に戻れるのではなくて? というより……寧ろあなたがわたくしの身体にいるから、わたくしが戻れないのではないのっ!?」
「確かにその可能性は大きい。許容量という物があるからな、此方がその身に戻ればお前は追い出され、あるべき場所へと帰るだろう」
「ならさっさと戻りなさいよ! とっくに三日はすぎているわよ!?」
魔王が己自身の身に戻る事により、この入れ替わりの状況は元に戻る。
ならば在るべきものは在るべき場所にと眉を寄せたシラヴィルだが、そこで何故か数秒の無音の時が降りた。
「……戻れるなら、とうに戻っているに決まっているだろう……」
やがて落ちたのは魔王のため息のような声。シラヴィルは視線を逸らし、誤魔化すように笑った。
「そ、それもそうね」
「そちらの身体にしてもそうだ。何故か引き寄せられ、固定化したままになっている。……そして此方にしても、戻ろうとすれば何故かこの身体に引き寄せられる」
引き寄せられる。
追って呟かれた言葉に、シラヴィルは僅かに目を見開いた。
一連の会話の流れからノラ自身は影、という事が分かっていた。ならば何故その魔の濃い影が、姫の身体に引き寄せられ定着してしまったのか。
当然、シラヴィルには覚えがあった。だがノラには欠片も覚えなどないはずだ。
何故かと言われれば単純な話、誰も今の彼にその話を伝えていないから。
それはそうだろう、誰が“姫”自身に呪いの話などするだろうか。
それさえ解決してしまえば、後は簡単な話だった。
すとりと胸に落ちた感覚があまりにも透明で、常に明快な答えを出す事の出来る魔王が原因に頭を捻っている様を、シラヴィルはどこか穏やかな気持ちで見守る。
「……無理に移動してみても良いのだがな」
しかし、次に小さく落とされた台詞にシラヴィルは衝撃を受けた。
「移動できるの!?」
「この身から離れる事さえ出来れば、後は容易だ。本来影は一つ。在るべきものは在るべき場所へ収まる。しかし強引な移動、この身の保証は皆無だがそれでも」
「良くない!良くないわやめなさいっ!」
やはり強大な魔ともなれば、引き込む働きへの反発も大きいらしい。
その脳裏に瞬時、破裂を過らせたシラヴィルは、ノラの思いを留めようと慌てて腰を浮かせる。
だが魔王はそんな彼女を尻目に、腕を組み遠くへと視線をやった。
「否、構わない筈だ。移動出来れば良し、出来なければそれまで。何ら変わりは無い」
「良し、じゃないわ! わたくしの身体の保証はっ!?」
「初めを思えば……予想外の事態に興味が沸いただけの話だった。加えてお前の挑発が効いていたというのもある。出来る事なら確実な方法をと思っていたが」
「人の話を聞きなさいよっ!」
これが最後とでも言わんばかりに回想を始めた魔王。シラヴィルは頭を抱える。己の身体から無理に引き剥がれるのは魔の王、かさぶた程度のものではない。
想像してしまった痛みにシラヴィルの背筋を悪寒が走るが、唐突すぎる危機に今更逃走したところで遅すぎるよう感じる。
「しかし言葉の効力というのは時に連れ薄まる。そして興味への関心も。今確かに感じるのは人の身体の不便さだ」
「いいえまだ興味深いと思うわ、中身が入れ替わるなんてそうない事よ国宝級の珍しさよ!」
相変わらず淡々としたままの口調を耳にシラヴィルは取り乱す。ノラの顔に薄く浮かんだ笑みを確認すれば、普段からは想像もつかないその柔らかさに恐怖が加速した。
「だがもうこの身体には飽きた。実行しない理由はない」
「頼むからやめて頂戴っ! 死ぬしかないにしても……そんな事で死にたくはないのっ!」
机越しにシラヴィルはノラの肩に手をかけ強く握った。
伏せた顔の視界の端、積み重なった古書が崩れ、机から落下するのを尻目に唇を噛む。
「死ぬとは言っていないが」
少しばかり呆れ交じりで落とされた言葉に、シラヴィルは顔を上げた。
「確かに死ぬかもしれないな」
「どっちなのよ!?」
けれど結局結論は同じで、意味なく続いた言葉に、シラヴィルは間近にある顔を思い切り睨み付ける。
抑々己の身体であるはずの表情は、その中に魔王がいる為か、無表情の瞳に僅かな困惑を宿すという芸当をやってのけた。
「この身体がどの程度破損するか分からない」
「なら止めなさいよ! 全くあなたはそれで良いのかもしれないけれど人の身体を何だと思っているのっ!?」
「思う事など何もない。理由もない。それで良いが、だが実際良くない」
しかし。
魔王の言い分がいきなり意味不明と化した。
何にしてもとにかく思い直してほしい一心でシラヴィルが瞳に乗せた願望を、避けるようノラは斜め下へ目を伏せ舌打ちをする。
「つまり何でもない」
思わずシラヴィルは言葉を失った。
「な……っ、何なのよ何が『つまり』なのよ気になるわね訳が分からないわ! 前に途中で話をやめるなと言ったのはあなたの方じゃないっ!」
一拍置いて我に返ったシラヴィルは、いきなり話を切ったノラの肩を催促するよう数回叩いた。
基本的に何を考えているか分からない相手ではあったが、ここまで話が通じないのは初めてだと舌打ちをし返す。
「……お前もあの時こんな気分だったのか」
「なにが! なるほど、なのかしらっ!?」
「……よくない、ということだ」
しかし勝手に一人納得した魔王はもう続きを話すつもりは無いらしい。満足そうで何よりだとシラヴィルは相手の瞳を数秒じっとり見つめるが、不意に自身の身体に異変が起きないという事実に気付き、首を捻りつつ眉を寄せる。
「あらあなた、移動しないの?」
「……時期は今ではない、という事かもな」
曖昧に呟かれた魔王の言葉。それは時が残されている者のみが吐ける台詞。
気付き、シラヴィルは弾かれたかのように相手の肩から手を離した。
今でなくとも良いと強行を思い止まったらしい魔王自身には、確かに幾らでも時間があるのかも知れない。けれど此方に残された時間はあと僅かで、既に決断は実行を待つ段階に来ている。
「そうね、今ではないわ」
掠れてしまったシラヴィルの声の異変に気付き、見返してくるノラは、反乱後の“姫”の待遇を特に考えていない。
時期が今では無いというのなら、何時だというのか。
カラスに行わせている偵察からしても、最近の城下はきな臭く、反乱が起きれば後戻りは出来ない。
時間は当に超過している。
「……もう少し時間が欲しいわ」
「あるだろう」
平然とまた古書に手を伸ばし始めた魔王から、シラヴィルは数回の瞬きの後に目を逸らした。椅子に腰を落ち着け直し、放り出していた古書を開きながら「時間をくれるの?」と口の中で呟いてみる。今日か明日か明後日か、必ず来るその時は無視しようと思えば容易に出来た。
外界と遮断された城に居れば、何も見なくて済むのだから。
そんなシラヴィルの思考を遮るよう、控えめに扉を叩く音がした。




