第57Q 「いざ天童戦へ」
「よし、集合!」
和泉先輩の掛け声に合わせて、美奈さんの前にみんなで集まった。
「次の相手は天童よ!もう全市大会出場を決めているけど、全市に行っても天童にはいずれあたるわ。ここで勝っておかないと、全市優勝なんて言ってられないわ!」
「はい!」
部員の声が重なる。
「天童は言うまでもなく、彩都・東の王者。攻守ともにそろっていて、ほとんどのプレイヤーがどこでもできるオールラウンダー。バスケのエリートね。要注意なのは言うまでもなく今年入った1年生コンビ、神杉炎太と京宮氷陵だわ。神杉炎太はここ東区のブロックでは1年生にして185cm、最高身長よ」
「中1で185cmかよ…」
和泉先輩が驚いた顔で言った。
美奈さんはさらに続けた。
「リバウンドが半端じゃなく強いわ。リバウンドに関しては全市1、2を争うほどよ。派手なことはしてこないけど、スクリーンアウトが非常にうまいわ。身のこなしが軽いのよ、手じゃなく体でしっかりスクリーンアウト出来ているし。ただ1つだけ弱点を上げるとすれば、神杉をアウトサイドに出せば、彼はシュートやスリーポイントシュートは打つことが出来ないし、打っても入らないから、何もできないと思う」
確実に神杉のマークマンは俺だろう、そう遼は思っていた。
神楽坂小時代もその大きな体で圧倒的なリバウンド力を誇っていた。俺が宮本小のミニバスにいたとき、小6の時に神楽坂小ミニバスと試合をしたけど、リバウンドでは本当に勝てなかった。とにかく体がつよいのだ。ゴリラみたいなのだ(決してバカにしてはいない、褒めているつもりだ)。俺らが1点差で勝った立修学園にも、40点差をつけダブルスコアで勝ったらしい。東区の下馬評では天童が一番なのは間違いないだろう。だけど、勝つ。直接やってみなければバスケなんてわからない。
「神杉のマークは、もちろん、吉見君、お願いね」
やっぱりな。
「頼むぞ、遼」
榊先輩に背中をたたかれた。一言で榊先輩の気持ちが伝わってくる。
「そしてもう1人の1年生、京宮氷陵。アメリカ出身の帰国子女ね。ストリート育ちみたいだけど、ストリート特有のパワフルで大胆なプレイというよりかは、丁寧で華麗で慎重なプレイをするわ。基本に忠実で、どんなプレイをやらせても上手よ。器用なんでしょうね。苦手なプレイというのもなくて、弱点が本当にないわ。運動神経も相当良い。抑えるのは本当に大変な選手よ。彼のマークは榊君、お願いね。これだけは断言できるのは、あなたの方が京宮君よりスリーポイントは上手い。自信もってどんどん打って行って。君のスリーポイントがないと、この試合、勝てないわ」
「はい!」
榊先輩が力強い返事をした。
「決めろよ、スリーポイント。一本も外すな」
今度は和泉先輩が肩をたたいた。
「そしてその2人の1年生コンビの陰に隠れているけれど、3年生のポイントガード、宇都宮賢君も要警戒ね。宇都宮君は天童バスケの頭脳よ。本当にバスケットボールIQが高いわ。中学生とは思えないメンタルをしているし。能力の高い1年生の2人をPGとしてコントロールしている時点で、相当能力が高いと言えるでしょう。彼のマークは和泉君、お願いね」
「はい!」
和泉先輩も力強い返事をした。
「2年生のPF、西浜雄太も要注意よ。神杉君の陰に隠れているけれど、彼も身長182cmと非常に大きいわ。ポストも上手いし、この2人でゴール下を自分の城にし続けているわ。彼のマークは黒船君、お願い」
「はい!」
「もう1人の2年生SGは浦孝明。身長は175cmと、彼もガードにしては非常に身長が高いわ。彼のマークはいつものスタメンなら長瀬君といいたいところだけど、今回は丹原君、スタメンで出て」
チームメートの目線が一気に丹原に集まった。
「はい、頑張ります」
さすが丹原。そこで「ええ、俺ですか?」とか言わないところが良い。
「ポジションは大きく違うけど、天童は非常に平均身長が高いチーム。私たちが今まで強みにして勝ってきた身長の部分で相手には負けたくないのよ。そこでミスマッチは作りたくない、そういう判断よ。もちろん、長瀬君も途中から出す可能性は大きくあるから、その時は頼むわ」
さらに美奈さんは続けてこう言った。
「いい?相手の顧問は身長175cm、スタイル良し、頭脳明晰、そして美人!そして元前日本代表の女顧問よ!こんな奴が率いるチームに私のチームが負けたら、どうなるか、分かってるわよね、君たち…?負けたら外周100周よ」
単なる美奈さんの相手の顧問に対する嫉妬じゃないか、と思ったがそんなことを口に出すとしばかれるのは目に見えているので、辞めておいた。
「マジすか…」
外周100周という言葉に部員全員からため息が出る。他の学校なら冗談だろと思うだろうが、うちの顧問は冗談というものが通じない。普通に外周100周やることを部員全員知っているのだ。